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神卵 ― 神様転生のはじまり ―    作者: 万代 やお
第3律 星々をなおすもの
52/55

46 数列と乳首

 シュランの解説が始まっていた。


「いいか。牛や羊の角も。そうだ。ルオンの角だって――」


 そういってシュランはルオンを抱き寄せた。


「螺旋なんだ!」


 シュランはルオンの頭角をつんつんと指さす。


「あうー。ツンツンしないでください! 角のツンツンは禁止です! 目玉のツンツンは大丈夫です!」


 ルオンは真っ赤になって意味不明なことを口走り抵抗する。


「ほかにもあるぞ。植物の葉っぱは下から螺旋状に生えるんだ」

「それ、知っている。あたいの部族には、木々の葉の芽吹き方のように、上のものは下ものにあたる陽光を妨げる存在になってはならないって教えがあるんだ。葉っぱの出方がそうなんだよね」


 ミャウはシュランの言葉に頷いた。


 葉の出方はデタラメでなく、下から螺旋状に生えていき、葉が重ならない育ち方をするものがある。どうして、植物がそんな葉の生え方をするのか。

 答えは考える間でもない。葉が下と重なることなく育つことで、影を作らず、光合成が行え、効率がいいのだ。


 森と関わりの深いミャウの部族はこれらの自然にある法則を見出し、教訓として語っていたのだろう。


「最小は遺伝子DNAの二重螺旋から十万光年の渦巻き銀河まで。このように螺旋は日常に溢れている! 世界は螺旋なのだ! うおー!」


 シュランは両手を広げ叫んだ。


「それで、なにをいいたいのじゃ」


 ゲオルグが冷静に先を促す。


「え! 反応うす! これだけ世界に螺旋が溢れている状況にもう少し感動を覚えてほしものだな。悲しいぞ! えーと、もう一つ説明がいる。ずばり、悪魔の野菜だ!」

「悪魔の野菜?」


 シュランの発言に、また一同は声を合わせてきょとんとする。


「悪魔の野菜。神が人を試すために作った云われる野菜で、カリフラワーの一種にロマネスコというものがあるんだ」

「お話の流れとして、そのロマネスコさんにも螺旋があるのですね」


 ルオンは手のひらの上に、ぽんと、ロマネスコを出現させた。黄色で円錐型をした奇妙な野菜だ。【無限なもの】で調べて、ロマネスコを創造したらしい。


「これって、フラクタル構造で有名な野菜だわ」


 マーシャがロマネスコをしげしげと眺める。ある一部分を拡大すると、全体に似た形が発見できる図形をフラクタルという。海岸線に見られるギザギザの形などだ。


「ルオ。イガイガの蕾みたいなのが螺旋状に並んでいる。その螺旋の数を数えてみてくれ」

「はいです。1、2、3……」


 ルオンが数え終わると、シュランは尋ねた。


「8か、13になってないか」

「はい。これは13個ありました。すごい! なんで、わかったのですか」

「そういう数で支配されているからさ。自然界のあらゆるものには、こんな風にある特定の数値や配列が現れることがあるんだ。それを――なんだっけ?」

「こら! 忘れちゃったのかい。いい加減にしないと怒るよ」


 ミャウがシュランの回りくどい説明に怒った。

 ピンと反応したのは、マーシャであった。


「それって、もしかして……」


 マーシャは地球人とユプシロン星人のクォーターなので、最初はユプシロン系の言語でその名称を思い出し、言い直した。


「太陽系だと、『フィボナッチ数列』のことかしら?」

「そう、それだ!」


 シュランは頷き、指をパチンと鳴らした。


「フィボナッチ数列?」


 皆が聞き慣れぬ言葉を反芻した。


「フィボナッチ数列はよく自然界に出現する数値なんだ。ルオ! 色々な種類の花を創造してくれないか?」

「はいです」


 シュランに言われて、ルオンは桜、百合、菊、向日葵に似た植物をぽんぽんと創造しはじめた。


「その花びらの数を数えてみて。枚数が3、5、8、13、21、34、55のどれかになっているはず」

「えーと。……これは3枚。これは13枚。こっちは5枚。これは34枚。あれ! なんで、なんで、シュランさんの言っている枚数になるのですか?」


 百合の花びらは3枚。菊は13枚。桜が5枚。向日葵の花弁は34であった。


「フィボナッチ数列は前の二つの項を足した数なの」


 マーシャが説明を加えた。


 0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377, 610, 987……

 0+1=1, 1+1=2, 1+2=3, 2+3=5, 3+5=8, 5+8=13, 8+13=21, 13+21=34,21+34=55……だ。


「もっと解りやすい例を教えるわ。ルオンちゃん。なにか植物の枝を成長させてみて」


 マーシャに言われて、ルオンは手に力を集め、植物の枝を創造した。純粋なマイトエネルギーの活力を受けて、枝が成長していく。


「その枝の分かれ方は、 2、3、5、8、13、21、34……となるわ」

「え?」


 ルオンは成長して枝分かれした枝を数え出す。


「2、3、5、8、13になっています。なっていますよ! あれー!」

「植物はね。フィボナッチ数列に呪縛されていると云われているほど、その数値を表すの」

「解ったぞ。あの空間の穴も数値という法則に支配されている可能性があるということか?」


 ゲオルグは今まで説明されてきたことを統括した。


「そういうことさ」


 シュランは得意げに頷いた。


「だが、ワシは自然なものに合理性を求めるのはどうかと思うぞ」


 ゲオルグが反論の声をあげ、シュランは強く頷いた。


「そうだな。それは正しい」


 フィボナッチ数列を解説するときに、よく例にあげられる植物は向日葵、松ぼっくり、パイナップルである。


 松ぼっくりやパイナップルのカサは右回りに8個ずつ、左回りに5個ずつ。あるいは右回りに5個、左回りに3個になると例があげられる。


 向日葵の種の配列は螺旋状に21個、34個、55個、89個……だ。


 ここでもっともらしく、向日葵の写真が付けられたりするのだが、その肝心の写真がフィボナッチ数列になってないなんてことがザラにある。

 何故、そんなことが起きるのか。


「成長の仕組みはそれだが、日照、肥料、水量の強弱を受けて成長する訳だから、個体差がでるのは当たり前だ。大きく成長した向日葵は螺旋が歪むことがある。すると隙間ができてしまう。ここが面白いところで、その隙間に種を配列してきちんと埋めてしまうんだ。こうなってしまえば、数列から外れてしまう。ほかにも病気もあるし、特異な例では細菌が入って帯化なんて現象も起こす。育つことには外的要素も大切だ。俺としては、そういう仕組みを持ちながら、そんな風に対応できる生命の強さには感動を覚えるぞ!」


 シュランは目を輝かせ感激していた。


 そう、植物は必ずフィボナッチ数列になっているという盲信ゆえ、成長環境での差異を考慮せず、確かめもせずに写真を使ってしまうことあるのだ。

 また帯化した植物を放射能で影響がでた植物だと騒ぐ人もいる。これは知識がないゆえだろう。帯化とは遺伝子の変異によって植物が多重に重なって育つような状態のこと。

 知識がなく見てしまう世界、知識があって見られる世界、知識があっても思い込みで見てしまう世界。知識は柔軟に使うことが大切なのだ。


「でもでもー。数字がでるのは、ほんと、不思議ですねー」


 ルオンが昔、自分が感じた感動を口にし、シュランは嬉しくなった。


「そうだろう。そうだろう」

「でも、そんな風に数がでてくることは何故なのですか?」

「それは命が限られているからだ。限られているから、記憶容量というか、少ない体積というか、少ないリソースで効率よく、この過酷な世界で生きぬくためだと思う。って、いいたいところが、ほんとうは誰も答えのだせない問題だな。それこそ、完全なる設計者。創造した神様に聞かないとわからん」


 シュランは肩をすくめた。

 ちなみに、この有限での例は人間の体内に伸びる血管や腸の内壁だ。血管は酸素を運ぶため、腸は栄養素を吸収しやすくするため、決められた体積内でフラクタル構造なり、性能と効率がよくなっている訳だ。


「はいです。あとでユミルじーさんに聞いてみますね」


 ルオンが元気に返事して、そこで、一同はう”とした表情になった。


(創造主がいるんだった……)


 と皆は思ったのだ。


「でも、あの空間の穴に法則があるか怪しいところ。私達には空間は未知の領域よ」


 マーシャは素直な疑問を口にした。


「いや、それは大丈夫だ。あの空間の穴は、すでに、俺達の前で強烈といっていいほどの法則をだしている」

「え?」


 みながそんな法則があるのかと考える間があった。


「あ! 一つの穴は必ずループ空間で繋がっている!」


 法則に気づいたのはミャウであった。


「そうさ。それと、さっき気づいたことがあってね。ついてきてくれ」


 シュランは上空に飛んで、一同が続く。


「対数螺旋。フィボナッチ数列。少ないリソースで効率よく。もう解るだろう」


 シュランが空間の穴の領域を顎で示す。点在する穴はランダム、無雑作に存在して見える。しかしそれは知識と見解がなかったゆえだ。

 今では、シュランの説明した知識と視点を得ている。だからこそ、一同はこの空間の穴の集まりがある形に見えるのであった。


「螺旋……これはヒマワリさんの種の並び方です! 真ん中に穴が開いたヒマワリさんの種ぽっいです!」


 ルオンが騒いだ。視点と知識があれば、一見、無意味なものと思われるものに意味を見いだせるようになる。

 円筒の芯に穴が開いた状態で、ヒマワリの種が螺旋に連なっているといった感じであった。


「調査して検証を重ねれば、なにか法則がみつかりそうね」


 マーシャが獲物を狙い定める目をし、シュランが心得てにやりとした。


「調べてみようぜ。難しそうな数列になりそうだったら、あとの指示は頼む」

「任せて。まずはフィボナッチ数があてははまるか調べてみましょう。1と1。ループ空間の穴が隣り合っているところかな」


 マーシャは楽しそうに指示を飛ばした。皆が散開して1と1となる基点をなる場所を探し出す。比較的、その場所はすぐにみつかった。


「ありましたー」


 ルオンが穴に手をいれている。その隣の穴から、ルオンの白い手が出ていた。位置は内側の一番上であった。


「そのルオンちゃんの手が出ているところを2として……1から3番目にあたるところを探さないとね」


 マーシャが頭を捻る。これは少々見つけるのが厄介だ。平面なら容易であるが、立体的に穴は存在している。穴は上下左右――八方向にある。


「ミャウの胸を入れれば、一発で見つかるぞ!」


 シュランが力強く拳を握り愉快げに叫ぶ。


「あほか!」


 と怒ったミャウが自分の足を絡ませ空中でこけた。偶然にも見事なお胸が近くにあった空間の穴に突っ込まれ、引っかかった。


「そこが3番目よ! 動いちゃだめ!」


 マーシャが鋭く目を光らせ叫んだ。


「うそーん」


 ミャウが情けない声をあげる。ミャウの巨乳が入った穴は3である。ルオンが最初にいれた穴から数えると5番目になる穴からは、ぼよよんと悩ましい存在感を演出して巨乳が飛び出ているのであった。素晴らしい眺めだ。

 ゲオルグが5番を見つけ、8番目から手がでている。


「これは完全に、フィボナッチ数になっているな」


 13番目に顔をつっこみ、21番目から、シュランのにこやかな顔が出ていた。


「フィボナッチ数の素数、三角数。類似のトリボナッチ数やテトラナッチ数、他の数列なることも仮定していたけど、穴の繋がりは完全にフィボナッチね。どうやって広がっているか。まだまだ調べることはあるわ」


 マーシャは34番目の穴をみつけ、55番目から自分の手を出ているのを確認した。

 それから少し調査の時間を必要とした。


「ヒマワリさんの種が上向きと下向きで、上と下から二つで重なっているみたいです」


 ルオンが調査のすえに導き出された答えに声をあげた。


「うむ。これは、空間の帯化というものじゃないか。上下から何かの圧力か重力を受けて、空間二つが重なってできてしまった。だから異常を起こしているんじゃないか」


 ゲオルグは水を引き寄せる原因を推測した。


「あのー。そろそろ。あたいは胸を出していいですか」


 ミャウが泣きそうな声で頼んできた。また転び、巨乳をつっこむはめになったミャウ。しかし、その穴は全体の数列を計算するために重要な位置で動くことをとめられていた。


「ダメよ! その乳は重要! 乳が計算の基点になっているの。……えーと、これを計算するプログラムならかけそう。あとは、みなにそれをどう伝えるかだわ。電子機器でも作って画面にでも表示する?」


 マーシャは少し笑っている。決して胸じゃなく手を代わりに入れればいいなどの野暮なことは言わない。なんどきでもシュランの仲間達は愉快を求めるのだ。


(……大きいな。大きいぞ。あとでどうやったら、それだけ育つかをきこう。は! 私は浄化の騎士として、なにを考えているのだ! 任務を! しっかりしろ、私!)


 アールマティは穴から飛び出る巨乳を見て苦悩する。真面目なアールマティを深く悩ますミャウの巨乳であった。


「伝える方法か……それには前々から考えていたことがあるんだ」


 シュランは勢いよく言葉を切り出した。


「――みんなで、魔法の眼鏡をかけるとしようぜ!」


 そういって、シュランは穴から飛び出ていたミャウの乳首あたりを指でピンと痛快にはねた。


「ああん!」


 と、いけない艶やかな声がもれる。

 ミャウは身を引き、真っ赤になって胸元をおさえた。

 一瞬、羞恥で思考停止に陥ったミャウであったが、全身を怒りで震わせ髪を逆立てると、即座と飛翔――


「このー!」


 螺旋の電光パンチがシュランに炸裂する。


「あへー!」


 シュランは螺旋を描き上空の彼方に飛んでいく。


「……世界には螺旋が溢れている。乳も螺旋の曲線を描けば美しくなるという。黄金比率の美的曲線を表す乳の誘惑には男は負けるものなのだ……ごふっ!」


 地上に落下したシュランはそんなことを呟き、気絶した。

 一同が、シュランの提案した『魔法の眼鏡』がなにか知るには、少々、時間を有すことになるのであった。

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