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神卵 ― 神様転生のはじまり ―    作者: 万代 やお
第3律 星々をなおすもの
48/55

42 巨大水甕と青と赤の軍勢

 万の数で、存在する黒い穴。

 これを一個一個埋めていく作業の途方もなさを考えるだけで、目が眩みそうであった。


 しかし元々、シュラン達はスペースコロニー建築員である。

 橋やトンネルを造るにも、何十年の歳月がかかる。それがスペースコロニーなれば尚更の年月がかかるものだ。

 そんな建築への理解と精神面の強みがあり、一同はそんなものだろうと納得し、作業に取り掛かった。


 マーシャは渋い顔をしていたが、


「こうやって、修繕することで、高等な事象や知識を貰えるようになるから仕方ないか」


 と、ぼやいてローラー神具を創造すると、作業に取り掛かる。


「全ての穴を埋めてやる!」


 シュランは嬉しそうに作業にかかり、黒石板アルゲスが負けないぞと言わんばかりに飛び出した。


 シュランは空間の黒い穴に左手をかざし、すっと動かす。黒穴は瞬く間に埋まる。シュランの【空間創造】ランク6から7になっており、その修復技術はあがっていた。丁寧で、巧みとも思える仕上がりだ。


(これを二つ以上、意識してやれば、いいのかな)


 シュランはそう思い、左手の上に空間の念渦を発生させる。この念渦を二つに分け、飛ばし、二つの黒穴が埋まるよう意識する。


 念渦が二手に分かれ、黒穴に命中した。しっかりと修正できたと感じたが、埋めた空間が歪んでいたり、少し黒い隙間が残ってしまった。


「駄目だ。歪んでいる。隙間もできたか」


 シュランは失敗した箇所を左手で撫でて、それぞれの穴を修正していく。今のシュランは左手をかざすことで空間を完全に修復できる。しかし飛ばしたり、同時に二つ以上を意識して修復するのはまだまだ難しかった。


「同時に意識するのはむずいな。ひとつひとつやるか」


 同時意識のことは心の片隅において、シュランは左手を使い、一つ一つ丁寧に修復していくことにした。すると、ルオンが声をあげた。


「アルちゃんがすごいです! シュランさんが三つ修繕している間に、五つも修繕してますよ!」


「なに! 前は下手だったのに……」


 シュランは黒石板アルゲスが修復した辺りの空間をみやる。意外に綺麗だ。


「歪みもない。やるようになったな」


 褒められた黒石板アルゲスがえっへんと胸をはる。


「よおし! アルー! 俺と競争だ。負けた方は、ルオの足を嗅ぐことになるぞ!」


 ぎょっとして、黒石板アルゲスが慌てて作業を始める。


「むーですよ! 私の足はキレイキレイですよ! 変な勝負ごとの罰に使わないでくだい!」


 ルオンが両手を振り回し、頬を膨らまして怒った。


 ともあれ、シュラン達は穴を埋めていく作業を開始した。

 もちろんケンコスはシュラン達が一つ一つ穴を埋めて作業するのを眺めて、意地の悪い笑みを飾りつけるのである。

 そして、一時間ほど、時間が経過した頃であったろうか。

 シュラン達が埋めた穴は千以上になっていた。


「遠方より、時空の振動があり!」


 女騎士アールマティが警戒の声を飛ばした。

 ミャウが耳を動かし音を感知して、そちらを見た瞬間である。 

   

「なんだい。あれ……んん?」


 雷鳴が鳴り響き、地響きをあげ、高波が迫ってきていた。かなりの高さがある。街ぐらいならばひと飲みで壊滅させん、鉄砲水みたいな勢いをもつ津波は一気に広がって迫り、一同は咄嗟に上空へ飛び逃げる。


「あへ~~~~~~~~~~~~~っ!」


 一人、物の見事に流されるシュラン。


 深い碧色の津波が怒涛の飛沫をあげ、乾いた地面を蹂躙して当方もなく広がっていくと、突然、空間が次々と弾け割れ、その穴々から水が勢いよく飛び出た。


「ちょっと、今まで埋めた穴が壊れていってるわよ!」


 マーシャが眼を見張る。

 まさに青天の霹靂であった。静寂が支配する、荒々しき津波が過ぎ去った後には、埋めたはずの約千個全ての穴からちょろちょろと水が流れ落ちている、水浸しの風景だけが残った。


「今までの苦労が一瞬で、水の泡だぞ。修復した空間壁が弱かったのか?」


 ゲオルグが濃い眉毛をぐったりさせ力なく呟いた。徒労感が酷い。


「いや、違うみたいだぞ。これ、面白いな」

「何が面白いもんか――」


 激怒しかけ、ミャウはシュランの姿を見て口を引きつかせた。


「な、な、なに、のっけてんだい……」


 シュランの頭には、シュランの足が乗っかっていた。


「う~ん。まさに足蹴にされるって感じ?」


 びしょ濡れのシュランは生真面目な顔で、歯を光らせいう。地面近くにある穴につっこまれたシュランの足が、頭上の穴から出ているのだ。なんとも珍妙な光景であった。


 ちなみに水に濡れてちょっと美男子シュランだったので、ルオンがかっこいいですと小声でぽっと頬を染めた。


(こんなアホ姿に、そんな反応しちゃうの? ルオンちゃん、大丈夫? 大丈夫なの?)


 マーシャがジト目でルオンを見ながら、その行く先を心配した。


「なあ、この左手は何処から出ている?」


 シュランは左手を別の穴に入れて、問うた。


「上、上ですよ!」


 ルオンが上昇し、シュランのつっこまれた左手の出ている穴に寄る。


「上か。ルオ、握手! 握手!」

「あ、はいですよ」


 戸惑いながらも、頬を染めて握手してしまうルオンである。

 シュランは続けて、右手を別の穴にいれてみた。


「誰か、右手は?」


 ミャウは時流速で飛び、シュランの右手の出ている穴の前で停止する。


「こんな遠く! こんな遠くだよ!」

「ミャウ! おっぱい! おっぱい!」

「さしだすか!」


握手みたいに胸を差し出すことを要求したシュランに対して、ミャウは怒鳴りかえす。


「これって、繋がっているみたいね。ループ空間というものかしら」


 マーシャが目を細めいう。


「ループ? 穴と穴とが繋がっているの。じゃあ――」


 戻ってきたミャウは雫をたらす空間の穴を見ていう。


「もう一つの穴を埋めないと、あの鉄砲水みたいな津波で壊されてしまうってことじゃん」

「なーてこったい! では、対になっている穴を、探して、埋めないといかではないか。あの穴の数だ! とんでもない作業量になるぞ」


 ゲオルグは点在する万の黒点を見上げた。あの場所から、対になる穴を逐一探してだして、穴を修繕していくのは、大変な作業と手間になるであろう。


「困ったわね。なにか方法はないのかしら」


 マーシャが考え込む。


「まずは、あの水の原因をさぐってみようぜ。どうも定期的に起きているような気がするんだ」


 そう提案したのはシュランであった。地面にできていた筋は、水が何度も流れることでできたものではないかと思われたのだ。

 あの津波を防げればなにか対策もできよう。妥当な提案だと思えたので、一同は津波の流れてきた方向へ向かった。


 シュラン達が飛び立ったあと、遅れて飛んだケンコスはむふっと含み笑いをした。


 一同は地面にある筋にそって進む。飛行中、また津波が流れた。やはり地面の筋は水が何度も流れることでできたものだ。状況を把握せずまた空間の穴を修繕する作業を再開していたのならば、また同じ徒労感を味わうところであった。


「なんか見えてきたよ」


 ミャウが地平線の彼方に見えてきた黒い点に気づいた。

 現在、シュラン達の人の大きさだから、かなり大きい。近づくにつれ、その外見が判明してくる。


「壺か?」


 ゲオルグがいい、マーシャが答えた。


「これ、大きな水甕(ヒュドリア)だわ」


 縦長をした、全長600メートルはあろう黒炭色の巨大な水甕である。水瓶の一種で、左右に把手があり運搬用の水甕みずがめを――ヒュドリアと呼ぶ。

 巨大水甕の中は空で、全表面には複雑な装飾が施され、光を宿してない七つの水晶球体が飾られおり、一角の芸術品の気品があって、大きさから古代建築物とも思える厳粛さと風格を備えていた。


「なんのためにあるのだろう。意味がわからないわね」


 ミャウが疑問を口にする。

 この荒れ果てた大地に、ぽつんと、巨大水甕が存在すること事態が意味不明だ。ミャウがそう疑問を覚えたのは無理もない。


「光ったです!」


 そのとき、巨大水甕の中央の水晶が白い光を宿して、ルオンが叫んだ。


 すると、鬨の声があがった。

 戦太鼓が連続的に響く音と、尾を引くような低い角笛の音が響き渡る。


「なんか、始まるみたいだ」


 シュランが地平線に現れた二つの軍勢の姿を見つけていう。


 東には青い軍勢。

 西には赤い軍勢だ。


 遠目に見て、互いに五〇〇人前後。それぞれの同色で、鉢巻をした祭り衣装に近い軽装をきていた。それにどちらの全員もが隈取りの化粧を施した豪華な仮面を被って、鉄の棒を携えている。青と赤の神秘的な印象を持った軍勢であった。


 ボ――――――――!


 再び、角笛が天高く鳴り響いた。

 それを合図として、青い軍勢と赤い軍勢が一斉に走り出した。砂ぼこりを巻き上げ、猛烈な勢いがある。


「戦でもはじまるか」


 青と赤の軍勢が激突しそうで、ゲオルグが声を荒立てた。


 しかし、予想に反して起きたのは――


 互いの軍勢は携えていた鉄の棒で、巨大水甕を叩きだしたのである。


 カンカン!

 

 青と赤の軍勢が執拗に叩く共演は、甲高い金属音を空高く幾重にも響き渡らせた。


「うわー!」


 シュランが声をあげた。青と赤の軍勢が巨大水甕を渾身の力を込めた叩く様子。それが、まるで甘いケーキに群がる蟻を思わせたのだ。互いに必死である。


 カンカンカンカン!


 金属音が何重にもなって響き続く。


「水甕を殴っているです……」


 異質な光景にルオンが首をかしげ、黒石板アルゲスも身体を右にかしげ同調した。


 なにが起きているか理解ができず、シュラン達は上空からその有様を見守るだけであった。

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