表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神卵 ― 神様転生のはじまり ―    作者: 万代 やお
第3律 星々をなおすもの
45/55

39 脚無し王ケンコス

「さて、ワシは暫く留守にする。護衛役はアールマティに頼むが、創世の業の指導ができぬ。そこで、お主らの指導役として、こやつを紹介しよう」


 ユミルがそういって紹介したのは、肉塊であった。


 卵型の肉塊がぽつんとある。


 ミャウ、マーシャ、ゲオルグは卵形の肉塊を見て嫌な予感しかせず顔を見合わせる。

 変なものがあって喜んだのはシュランだ。口元ににやけが止まらない。


 と、肉塊が痙攣した。


 卵の頂き辺りに闘牛の角がにょきっと生えだし、両腕が伸びる。肉塊の中央で三ツ眼が瞬きし、牙を並べた大口が開いた。脚はなかった。

 卵型の躰そのものが頭みたいで、躰そのものみたいなキテレツな怪物だった。


「ケンコスじゃ」


 ユミルが名をいった。

 シュラン達一同の視線が、ケンコスの三ツ眼と絡み合う。


「……」


 互いに眺め合って、おもむろにケンコスは胴……脚がないのでどこか胴が判別できないが、その辺りに括りつけていた小袋へ手を突っ込んだ。またもや、これもおもむろに、ケンコスはシュラン達目掛け、小石をぽんぽんと投げてきたのだった。


「痛い、痛い! 何をするんだい!」

「なによ! こいつ!」


 いきなりの投石である。


「デカ乳娘、二股オカマよ。怒るでないぞ。フォモール巨人族はよそ者がくると石を投げる癖があるのじゃ。可愛い奴じゃろ」


 ユミルが微笑み、シュラン以外の一同は反応に困り、顔を見合わせた。


「面白い奴」


 シュランは子供が新しいおもちゃを見つけた輝いた眼をしていた。奇妙なものが大好きなのだ。


「あとは、頼んだぞ。ケンコス」


 ケンコスが頷き、ユミルは場を辞した。

 とぼけた面相のケンコスは、ユミルが居なくなったのを念入りに確認すると、掌をひっくりかえしたように、酷い凶悪な顔つきをして、


「ケッ! こんな奴らの世話をするのかよ! やってられねーよぉ!」


 忌ま忌ましく吐き捨てた。ひと騒動ありそうであった。


  ◇


「オラ! このどっかに空間に穴が開いている。握りこぶしぐらいの穴だ。見つけて埋めとけ! あー、めん玉、かいい!」


 一同をひきつれてケンコスは、自分の目玉をごりごり掻きながら、ある部屋を指さした。

 部屋の中には橙の宇宙空間を広がっており、一同は唖然として見回した。


「あるって、どこだい?」


 ケンコスの態度に少し苛立っているミャウが眼を細めて見るが、わからない。


「ああん? だから、それを見つけるのが、最初にお前らがやることなんだよ」

「……この、広い空間から握りこぶしサイズの穴を探せと?」


 ゲオルグがいう。銀河が見えるのは気のせいか。


「無理よ! 巨神化での握りこぶしでも、二百メートル前後。宇宙空間だけでなく――」


 マーシャは近くの惑星を指差す。


「惑星の地表近くにあるかもしれないわ」


 人間の感覚と視力で、月衛星上から地球上に運動場を発見するのは難儀である。それを火星から探すのは、一層、困難である。それ以上の場所から、一つの穴を探せと言うのだ。


「おいおい。こんなの、修復の任がある巨人族にとっちゃ、初歩の初歩だぜ」

「じゃあ、【無限なもの(エン・ソフ)】で解決策を……」

「おおっと、無駄だぜ! 獣のねーちゃん。お前達は、貢献がないからな」


 ケンコスの発言の意味を汲み取れず、ルオンが説明した。


「あーですよ。重要な知識なんかは、世界を修繕していって、ユミルじーさんが働きを認めてくれますと、引き出せるようになるのですな。他にも個性が違いすぎると、ダメですよ」


 【無限なもの(エン・ソフ)】とは知識の思念だけが入った亜空間世界のようなもので、七つの知識世界が重なるようにある。


 ユミルが溜め込んだ創造の奥義や永劫神具の作成。

 ブラフマーの空間印や宇宙の真理。

 プルシャの伝達移動の事象や宇宙全土の阿呆。

 アフラの浄化の業や戦闘技術。


 といった具合である。


 シュランの場合、プルシャのアホ界よりでユミルの知識界に【無限なもの(エン・ソフ)】へ意識を投入するため、そこから遠い界の知識は引き出し難い。


 マーシャの場合、ブラフマーの知識界よりでユミルの知識界となり、そこから遠い知識であるプルシャのアホ知識……もとい、伝達の事象を引き出し難い。


 ルオンがツノツノと云っているシュランの言葉の意味を、【無限なもの(エン・ソフ)】で調べようとして、解らなかったのはそのためだ。

 餅なら餅屋ということである。


「へん。用は、お前らみたいな下っ端は、禁断の知識とかは扱えないだよぉ!」


 ケンコスが小石を投げてきた。


「危ないな! なんだい、さっきからその言い方は! もっと言い方あるだろ」


 先程からのケンコスの粗暴さが気にくわず、遂にミャウが怒気を散らした。


「あんだと! これでも俺様は王なんだぞ!」

「王様!」

「おうよ! フォモール族の氏族王。 脚無し王ケンコスとは、俺様のことよ!」

「氏族王? 一番偉いの?」


 ミャウが素直な疑問を口にすると、ケンコスは眼を点として、指先と指先をつんつんと突きながら言いよどんだ。


「え! それは……一番エライのは、バラー様です」


 ケンコスのフォモール巨人族は邪眼のバラーを首領とする一族。モルク王、征服王コナン、インデッハ王、テスラ王などの氏族王がいる。よってケンコスの立場は家来か。


「ふ~ん。エラそーにしているだけかい。お山の大将だね」


 ミャウはそれを見透かしていう。


「あんだと! ユミルのじじっこに世話になっている分際で! 文句あっか!」


 ミャウは痛いところをつこうとして、逆に痛いところをつかれてしまった。

 ミャウは不服であるが言葉尻を飲み込んだ。ユミルには、助けられただけでなく、衣食住の世話もしてもらっている。肩身が狭い。


「ミャウ姉ちゃん。【眺望知覚(エンドレツトセンス)】で探すですよ。あまり、私も上手く使いこなせないけど……みんなで!」


 一触即発の険悪なケンコスとミャウの間に、ルオンが割って入った。

 ケンコスは舌打ちをすると、踵を返し、ほくそ笑んだ。


(けけけ……無駄無駄。【眺望知覚(エンドレツトセンス)】でも簡単に見つからねーって。聞けば、ヤツラは人からの神体あがり。【眺望知覚(エンドレツトセンス)】を使いこなすのに、数百年は時間が必要よ。俺でも多少かかったしな。他にも色んな事象が必要なんだぜ)


 【眺望知覚(エンドレツトセンス)】で空間を知覚しても、森の中で生い茂る木々の葉の、一枚一枚全ての状態を一目で把握する、超越的な注意力と検索力が必要ということだ。


「マーシャ。【観想(テオリア)】でどうにかならんのか?」


ゲオルグがいうと、ケンコスは三ツ眼を丸くして驚いた。


(なにー! 【観想(テオリア)】だと! なんてレアな事象を持ってやがる!)

「無理だわ。【観想(テオリア)】は見破り系だと思うの。使用目的が違う」


 マーシャが答える。


(そうだよな。そうだ。あぶねーな。簡単に解決されちゃ、ツマラン。とことん、意地悪してやれないぞ)


 ケンコスは胸をなで下ろす。


「しょうがないね。やるかい。シュラン! 始めるよ! 大変な作業になるんだから。いつまで、遊んでいるんだい」


 ミャウが巻き舌でいう。


「へっ?」


 黒石板アルゲス三兄弟と遊んでいたシュランは素っ頓狂な顔をした。


「ん~。大変って、こんなの簡単だよ」


 言って、シュランは右手で空間を掴んだ。


「なんだ! その手は!」


 ケンコスが三ツ眼をひんむき驚き、ルオンが指をたて言った。


「シュランさんの右手は空間を削げたりできるですぞぉ」

「えええ! なに、その卑怯な業!」


 シュランが掴んだ空間を振るわせると、波紋が拡がった。


 直ぐに巨神化を解き、人サイズに縮小して、なにもない空間に、まるで壁に手を置くように何かを探る。一同が不可思議な眼で見守る中、このようなことをシュランはあちらこちらでやってゆき、


「ミャウ姉! 人サイズになって、来てくれ!」

「ミャウと呼べと言ったろ。なんだい」


 ミャウは人サイズになると、シュランの隣にやってくる。

 シュランは空間に波紋を浸透させると人サイズに戻り、掌を置く。ついでに、空いた片方の手で、ミャウのたわわな胸をぎゅにゅと鷲掴む。心地よい感覚だ。


「きゃ! な、なにするんだい!」


 真っ赤になって怒ったミャウだったが、シュランは無視して続けた。


「あった。あの蝶の形をした星雲の中心だ。ちょっと埋めに行ってくる」


 シュランはあっと云う間に飛び去り、少し時間を置いて、戻ってきた。


「何故、場所が判った!」


 ケンコスがシュランに詰め寄った。


「波紋を広げて、波紋が返ってくるかどうかを触診して、探しただけだよ」

「水面の波紋が岸ぎわで跳ね返る? いえ、アクティブソナーみたいなことをしたと云った方がいいのかしら」


 マーシャが言った。


「うん。もちろん、適当じゃなく、空間に穴があるってことは、その辺りに異常なことが起きているってことだよな。だから、見た目に怪しい空間へ波紋を広げる。だけど、反射の波紋が小さいかもしれないから、巨神化で波紋を起こせば、人サイズで調べたときは津波ぐらいの反射で見逃さない訳さ」

「あたいの胸を握ったのは?」


 眉をぴくぴくしてミャウが言うと、ゲオルグが豪快に笑った。


「がーははは! そんなの。触りたかっただけだろ」

「う”」


 ホラを吹く前に釘を刺され、シュランは肩を竦めて、すました顔をすると、黒石板アルゲス達と再び遊びだした。


「ほう。その態度は、そうなのかい」

「これは、それはそれは、いかんことですぞ!」


 ミャウが額に青筋を浮かびあがらせ、ルオンが頬を膨らまし怒った。にじり寄ってくる。


「全く、親方はそんな流言飛語を……助けて! アールちゃん」


 シュランは警護役でいた女騎士アールマティの見事な太股に縋りついた。アールマティは眉を一度だけひんまげると、シュランの首根っこをつかんで、ミャウ達へ差し出す。


「……浄化していいか?」

「何をやってる! くそ! 検知の事象も! 集中の事象もなく、解決しちまうなんて!」


 ケンコスが怒りで咽喉を唸らせた。


「おう! そういう事象を掴むためのテストだったのか!」


 ゲオルグの一言が、シュラン達に天恵を与えた。


――【異物象検知】


まずはその事象を全員が獲得。


「うふふ。あたいは、【広域注意】っていうのも掴んだわ。使ってみると、かなり広い場所を意識できるようになった」

「ワシは【一点集中】というものじゃ。その名の通り、集中力を高める事象らしい」


 ミャウとゲオルグが盛り上がる。


「もう、私は【異物象検知】だけよ。ずるいわー」 


 マーシャが不服そうにいい、ミャウが宥める。


「マーシャは空間印の事象をいっぱい掴んでいるじゃないかい。気にすることないさ。シュランはどうだい?」

「ん、俺? それは全部、掴んだ」

「え!」


 ミャウ、ゲオルグ、マーシャ、ケンコスは声をあげて驚いた。


「シュランさん、凄いです!」


 ルオンは素直に喜び、ミャウはシュランを嬉しそうに眺めた。


「相変わらずだね~」


 後で判明したことだが、マーシャは【異物象検知】L1、ミャウは【異物象検知】L4、ゲオルグは【異物象検知】L3とランク差があった。

 シュランは【異物象検知】【広域注意】【一点集中】の全てがランク5である。主眼角アイホーンは第六感を司るものであるから、こういう感覚面で、ずば抜けた才覚を持つのがシュランなのだ。


 もう悔しくって、心が煮えたぎるのはケンコスである。


(くそ! くそ! こいつら、なんなんだ! あっさり攻略の事象を掴みやがった! 普通は、苦労とか経験があってからやっと掴めるものなのに!) 


 ケンコスは、その場でどんどんと跳ねて、悔しがった。


(認めんぞ! 認めないぞ! もっと無理難題をふっかけてやる! 苦しめてやる!)


 ケンコスは決意すると、わき上がる意地悪い心を抑え叫んだ。


「お前ら! まだまだ、修行ははじまったばかりだ! 浮かれるな! ついてこいや!」


 跳ね跳びながら先導するケンコスに続いて、みながぞろぞろとついていく。

 これからケンコスの過酷な課題が続くとも知らずに。


 と、シュランが立ち止まった。


――【太股すりすり快楽堕とし】


(やばす。なんか、変な事象が舞い降りてきたぞ)


 シュランは掴んでしまった怪しい事象に珍しく戸惑っていた。


(これ。真面目そうなアールちゃんに使ったら、どーなるんだろう)


 シュランは素朴な疑問を交え、アールマティを見詰めた。

 アールマティが突如訪れた寒気に身を躍らせたのはいうまでもない。


 【太股すりすり快楽堕とし】


 シュランが悪戯半分でアールマティに使用してみて、とんでもないことになったのはまた、別のお話である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ