エピローグ 1
ある宇宙、ある惑星、ある年月。
小さな黒犬を抱え、角を生やした神が、ある男の前に現れた。
「なにか、望みはないか」
有角の神は黒犬を撫でながら、ある男に問う。
ある男は胸を撃たれ、もはや絶対的な危機に陥っており、こう答えた。
「私が死んだら、もう一度、生き返らせてほしい」
有角の神が願いを承諾し、掻き消えたのと同時であった。
反乱軍の兵士が飛び込んできて、ある男は頭部を撃ち抜かれ、即死した。
それからある男は生き返った。だが、生き返った世界は二千年後の世界であった。
ある男が、
「悪魔め、騙したな!」
と天を罵ると、黒犬を抱えた有角の神が再び現れた。
「騙してなどいない。生きかえらせたではないか」
「二千年後では話が違うのだ!」
すると、いきなり有角の神は笑いだした。
そうなのだ。人間と神では時間のとらえ方の感覚が違っていたのだ。神にとっての一日時間は、人間の場合だと二千年の時間の流れであったのだ。
それを説明してやると、ある男は愕然となって膝を崩した。
「普通にやって、無から肉体を創るのに千年。俺はそれが下手糞でな。千年ほど多くなっちまったんだ。余計な千年はおまけと思ってくれ。角余分ってヤツさ。まあ、お前が誰からも愛され、誰も卑下することもなく、志高き者ならば、うまくやっていけるだろうよ」
そう云うとウインクして、有角の神は黒犬をひと撫でして消えた。
こうして、ある男である惑星シリウスミットの独裁者は、二千年後の言葉や文化に対応できる訳もなく、その高慢な性格ゆえ、絶望し、最後は乞食と野垂れ死んだと云う。
これはくだらないくだらないと語られるある逸話のひとつ。
――シリウス星域に伝わる神話、越えた力を求めた独裁者より。