お門違い
「いや、兄を擁護する気持ちは毛頭ないね。犯罪そのものだしな。アンタも辛かったろう?
だが、俺や妹を巻き込んだ。
本人に手を出せないからって、話をしたこともない俺達に。それだけでアンタは兄キと同じ、いやそれ以上の卑怯者なんだ。よくまぁ、その繊細なお心が痛まなかったものだよ。
兄の兄弟だったのが悪い?ただ血がつながっているだけで攻撃されちゃたまったものじゃないね。妹はあの時小2だ。なんの罪があるってんだ?
アンタはね、勘違いしたんだよ。
仕返しをしているうちに、自分の受けた痛みはこんなもんじゃない、まだ足りない、と過剰に復讐心を増幅させていってさ。被害者だから何をしてもいい権利があるなんて思っていたんじゃないか?そうなると、被害者じゃないただの加害者だ。
さて、お前は復讐し清々したろう。
今度はこちらの番だ。
会社に電話して今日から3日休みを取りな。
取れないじゃない、取るんだ。
現在、婚約者がいらっしゃるね。ご両親もさぞお喜びだろう。
…そんなに身構えなくてもいい。俺はアンタと違って無関係な奴には手は出すつもりはないからな。ただし、アンタの行動次第では、どうするかわからないぜ」
奴は、私の腕片方の拘束を外し、口に貼ったガムテープを取ると、電話を渡した。日ごろ使っている自分のケータイが、なぜが無性に重い。
深夜、帰宅したところを襲撃され、酔っていたのも相まってロクな抵抗もできずに縛り上げられてしまった。こいつの事もすっかり忘れていて、先ほどまでの恨み言でようやく正体がわかった次第。
だって、もう何年も前の話だ。なぜ今、現れる。もう終わったことじゃないか?
しかも、殴る蹴るで済むのかと思いきや、会社を休めという。その3日で一体どんな目に合うのか。
ここで警察を呼べば、2~3発ぐらい殴られるだけで助かるかもしれない。奴は捕まり、いなくなるだろう。それがいい。チャンスを逃すな!!
…でも?
でも、もしその前に奴が逃げたら?
行動次第で周りの人を巻き込むと言った。確実に実行するだろう。
私はコイツとその妹に何をしたんだったっけ?そしてその後どうなったんだったっけ?
何年も時間がたって、そうして目の前に現れるほどの…多分、それと同じだけの事を奴はやるはずだ。
私に…または、家族に友人に恋人…
元々向こうが悪いんだ、なんでこっちが。だからといって自分だけ助かればいいのか、少なくとも3日間我慢すれば迷惑は掛からない。いやでも、なぜ我慢する必要が?こっちは被害者だぞ、昔も今も。耐える必要なんかはない、警察に……。いや、他の誰かに助けを頼もうとも、ここに来るのは早くて10分はかかる。それまでのんびり待っているバカはいない。でも、そうしたら?でも、でも…
「どうした、ほら、早くしな」
奴はせせら笑いながらも、じっと私の手元を見張っていた。
私の指はまだ動かなかった。
お読みくださりありがとうございます。
それはともかく、この諸悪の根源はのうのうと暮らしてるってね。
復讐やるなら相手『本人』に『された分だけ』返しましょう。最低限のお約束。
長くなりそうだったので、肝心の「何されて何やった」どころか「性別」すら入れませんでした。
主人公の行く末含め、ご想像にお任せします。すみません。