心模様
くう、終わったー
「………っ!」
なっなっなっ……!?ッ…!もう、なんなのよっ、あのすけべっ。女ったらし!アクマ!!
更衣室の前で赤面している少女、サラは困惑した表情で、テノーを罵倒していた。なんで、あいつはいっつもいっつも…っ…。…っわけわかんないよ…。
混乱した頭の中が悲しみの感情を覚えて、理解できない感覚に疲れるようにフッと壁にもたれた。
「…サラ?」
…ッガシャーーーン
「…あ………。ごめ「あ…あ…の!ごめんっ…!!怪我しちゃうから、触らないでねっ…!すぐ拭くもの持ってくるから!絶対触っちゃダメだからっ!!」……。」
「…………。」
後ろからのツバサの声に驚き、サラは逃げるようにその場を立ち去った。後ろからツバサの視線を感じる。やだ…。やだやだやだ!今の音、絶対テノーとレイさんに聞かれちゃったよ…っ。立ち聞きなんてするつもりじゃなかったのに…。
サラはその勢いまま、店の外に走って出て行くと、店の前で息を吐いて、そのまま座り込んだ。
…その時、サラの頭の上にげんこつが優しく当たって、力を入れてなかった首は簡単にカクっと曲がった。
「んゃぁっ…」
急に現実に引き戻される感覚とともに、上を向くと、通りの遠くを見つめるシノヤがサラの頭に手を置いて立っていた。
「………。あっ…えと…いらっしゃいませっ!シノヤく………ん…」
ハッとして立ち上がると、笑顔を浮かべ…ることができなかった。逆に、引きつった笑顔が情けなくて、涙が流れた。『笑顔はサラの取り柄だね!』『笑ってたら可愛いよ、サラちゃんは!』よくお店に来てくれる人たちの顔が浮かぶ。………そうだ。私の取り柄は笑顔だけなのに…。
「……~~っ!」
サラはその場にガクンッと座り込んで声を出して泣き始めた。
篠也は一瞬驚いて、サラを見たが、スっと視線をおろしてサラの頭上に手を置いた。
「………お、ま…泣いてんのか?……今日仕事ねえから翼に声掛けに来たんだが…。」
はぁ…。と息を吐いて、店の前は目立つ、と、店の脇の路地にサラを連れて行き、篠也はサラの隣で壁にもたれかかった。
***
「……落ち着いた?」
シノヤの声が上から聞こえて現実世界に引き戻される。あれから、どのくらいたっただろうか。何も考えず泣いていた自分がバカらしくなって立ち上がる。
「…あ、あはははは、ごめんね。ほんと。あ、そういえば!ツバサくんに会いに来たんだっけ?ツバサくんならねー…」
大丈夫。私ちゃんと笑えてるよ。そう心に言い聞かせながら、ギュッと手に力を入れたとき、今まで遠くを向いていたシノヤと目があった。
「…今度は笑うの?」
………――――――え?
シノヤの鋭い視線が頭に、心に突き刺さって手が震える。
「さっきまで泣いてたのに…分かんねえな。」
そう言って、また遠くを見る目をする。
サラは気づかないうちに叫んでいた。
「……っ!!私は!!!私の取り柄は笑顔しかないの!!!なにも…なにも…なにもないんだもん…。私には何もないんだから!!笑うしかないじゃない…レイさんみたいに綺麗じゃない…んだから…」
レイさん…?なんで今レイさんが出てくるんだろう。そう思って、知らない間に大きく脈打っていた心臓に手を当てて、息を吐きながら上を見上げると、シノヤが笑った。
「なーんだ。怒れるんじゃん。――その、レイさんが心配してたぜ。お前は全然怒らないって。」
サラの目がきょとんとなる。
「…あ、今日俺仕事なかったから先帰ってる、って翼に伝えといて、お願い。じゃ。」
「え…、あ、うん。じゃあ…」
今のって…?試された…のかな。よく分からないけど、自分の感情すらコントロールより手前、理解できていないのに、心はすごく軽くなった気がした。
そういえば、シノヤくんが笑ったとこ、初めて見たかも…
「よし、行こ…っ」
すう、と息を吸って空を仰ぐと、路地にも光が溢れるくらい、空は青くて眩しいことに気づく。
サラは小さく笑って店に戻っていった。
( ´O)η ファ~
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