茜くんの悩み事
柊さん家の茜くんは近所でもシッカリ者とおば様達に大評判な男の子だ。
成績は常に上位10位内、スポーツも無難にこなし、顔立ちも良し。
これだけでも十分なのに、茜くんは更に母の手伝いをこなし、妹の面倒を見、留守がちな父に代わり家を守る。
「あんな息子がほしいわぁ」
なんて言葉は聞き飽きた決まり文句だ。
でも。
そんな茜くんにだって悩み事は山積みで。
「今日は何を悩んでいるの?」
いつものように柊家を訪れると茜くんはリビングの定位置で顔を顰めていた。
ちなみにテーブルを挟んだ向こう側ではソファの上で妹の桃ちゃんがお昼寝中だ。
「まるでいつも悩んでいるような言い方するな」
「・・・・・・・違うの?」
首を傾げて私はこの一週間を振り返る。
「昨日は晩御飯のメニューに悩んでいたし、一昨日は桃ちゃんの機嫌に悩んでいたし、その前はゲームの攻略で、その前も・・・・・・・」
「よく覚えてるな、お前」
「そうかな?」
次々と出てくる悩みネタに茜くんは呆れているけど、私にしてみれば大した事じゃない。
だって恋する女の子が好きな人の言動をそうそう忘れるわけないじゃない。ましてや一週間なんて忘れるには短すぎるよ。
「で、今日は何に悩んでいるの?」
「古典の課題」
言われて私は初めてテーブルの上に広げられた参考書が古典だと気がついた。
その状況で茜くんの悩みは至極もっともなのだけど。
「珍しく受験生らしい悩み事でちょっと吃驚しちゃった!」
私の正直な発言に茜くんは「大きなお世話だ」と返すと、再び視線を参考書へと移した。
しかし今日の悩みはどうやらかなり深刻らしく、成績優秀な茜くんのシャーペンは中々動こうとしない。
―――そういえば茜くん、古典が苦手だったっけ。
茜くんは他の科目はいつも高得点にも関わらず、いつも古典で点数を下げている。
きっと古典がなかったら順位も3位以内に入るだろう。
言い換えればそれだけ古典は駄目駄目なのだ。
「あのさ、教えようか?私古典は得意よ」
そう。
世の中うまく出来ているわけで。
茜くんが唯一の苦手としている古典だけは私の大の得意なのだ。
それを知っている茜くんはちょっと考えて。
「・・・・・・・・・・・頼む」
小さく呟くその言葉に、私は笑いながら頷いた。
好きな人の悩みを解決してあげることが出来るなんて最高だね!