白紙の中の人々
お読みいただきありがとうございます。
日常の小さな違和感について短編の作品を書いてみました。
だいぶ誇張していますが...
日常の細かい引っ掛かりみたいなところをピックアップして何本かだそうかなと思ってます。
是非他に投稿しているものも見てみてください!
会議室の壁には「多様性を尊重しましょう」と書かれたポスターが貼られていた。
色とりどりの人型のイラストが手を取り合い、
誰一人として同じ形をしていないはずだったが、よく見ると全員が同じ笑顔を浮かべていた。
「では、本日の議題です」司会者が穏やかに言う。
「不快をゼロにする職場の最終調整に入ります」
全員が同時に頷く。音すら揃っていた。
「前回までで、この会議は除き“否定”“比較”“主観”はすべて排除済みです。」
「はい」
「残るは、差異の扱いです」
一人が手を挙げる。
「差異は尊重すべきでは?」
静かに、しかし即座に否定が入る。
「差異は誤解を生みます」
「誤解は不快の原因です」
「つまり差異は不要です」
誰も驚かなかった。むしろ、どこか安心したような空気が流れた。
「では、差異の最小化を実行します」司会者がまとめる。
「見た目、価値観、表現方法。すべて標準化しましょう」
拍手。寸分違わぬリズムで。
その日から、社員たちは少しずつ揃えられていった。
服装は統一された。言葉遣いも統一された。
表情筋のトレーニングが導入され、「安心を与える笑顔」の角度が数値化された。
個性は評価項目から外れ、「安定性」と「無刺激性」が最も高く評価されるようになった。
最初に消えたのは怒りだった。
次に、悲しみ。
最後に、喜びが消えた。
感情は波だから、不快を生む可能性があるという理由だった。
やがて社内の会話は、完全に均一化された。
「問題ありません」
「順調です」
「適切です」
ある日、外部監査が入った。
監査員は会議の様子を見て、首をかしげた。
「皆さん、とても…統一されていますね」
司会者が微笑む。
「はい。我々は多様性を最大限に尊重した結果、この形に至りました」
「……矛盾していませんか?」
その瞬間、室内の空気がほんのわずかに揺れた。
矛盾という言葉が、誰かの中で引っかかったのだ。
だがすぐに修正される。
「矛盾という表現は、不安を誘発する可能性があります」
「訂正します。整合的ではない可能性ですね」
監査員が言い直す。
全員が頷く。安心したように。
監査員はしばらく黙り込み、それから最後にこう言った。
「では確認ですがあなたたちは、自分と違う人間をどう扱いますか?」
一瞬の沈黙。
そして、全員が同時に答えた。
「存在しません」
監査員は笑った。
「なるほど。では最後の質問です」
彼はゆっくりとポスターを指差した。
「ここに描かれている違う人たちは、どこへ行ったんですか?」
その問いに、誰も答えなかった。
代わりに、部長が静かに立ち上がる。
そしてポスターに近づき、何のためらいもなくそれを剥がした。
裏には、もう一枚の紙が貼られていた。
白紙だった。
部長はそれを指でなぞり、満足そうに頷く。
「ご安心ください」
その声は、部屋中の全員と同じ抑揚で、同じ温度で響いた。
「すでに、全員分あります」
~END~
お読みいただきありがとうございました。
短編の物語を書きだすと、どうしても陰鬱なものばかりになってしまいます。
次は明るいテーマの作品も書きたいというか、そういう引き出しを持てるようにしたいと思います。
嘘です。
次は食事の前にやたらと写真撮る女性の話でも書きたいと思います。




