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第七話 西の砦に到着

 早朝、レインは父の墓の前に来ていた。

 じっと墓石を見ているレインの瞳は、色を吸い込んだように、奥行きの見えない闇を宿していた。

 草を踏む音に視線だけ向けると、セラが立っていた。


「レイン、ここにいたのですか」

「……ふふ」

 こぼれた笑みに、セラの背筋を悪寒が走る。


「そろそろ出発ですよ」

 セラはレインの肩に手を置いた。


 前を向いたままのレインは、ゆっくりと口を開いた。


「決断を、迫られているの」


 セラが息を呑む。

 瞬間、強い風が辺りの木々を激しく揺らした。


「どんな決断をしたとしても、私はレインと共にいます」

 セラはレインを優しく抱き寄せ、まだ色を失ったままの彼女の瞳を見つめた。


「ありがとう。嬉しい」


 レインはほほ笑む。

 それと同時に、レインの瞳に普段の色が戻る。

 セラはほっとして、レインを抱く腕に力を込めた。


「さあ、行きましょう。皆が待ちくたびれています」

 レインはもう一度振り返る。


 正しいことをしているはずなのに、胸の奥がずっと冷たい。

 本当は、普通の女の子でいたかった。

 怖がって、泣いて、誰かに守られていたかった。


 ……でも、私じゃなきゃ駄目なんだよね。

 ねえ——お父様。

 どうか見守っていて。



 こうして第三騎士団は、王命により、西の砦に向けて出発した。


 片道十日。

 乗馬したセラとレインが先行し、その後を十台近くの馬車が続く。


「やけに大所帯じゃない?」

 レインは後方を見ながらセラに尋ねた。


「皆が面白がって勧誘したらしいです」

「勧誘って、まさか」

「ええ。王都の住人も、中には混じっているそうです」

 よく見ると、パン屋のマダムや顔見知りの商人たちもいる。


「大丈夫なの?」

 噂では、魔獣が頻繁に出没し、隣接している魔族領とのいざこざも多いと聞く。


「私たちがいるから問題ないでしょう」

 セラは意味ありげに笑った。

「確かにそうだけど」



 整備されていない道を、西の砦を目指して進んでいく。

 柔らかい日差しを浴びながら、風に揺れる木々を眺めた。


 途中、野宿を挟みながら十日余り。

 一般の者にとっては命懸けの道程だったが、第三騎士団にとっては、終始ピクニックのようなのんびりとした旅だった。




 ついに到着したのは国の最西端、西の砦。

 魔族領との間に横たわる漆黒の森がすぐ側にまで迫った場所。


「想像より、だいぶん綺麗」

 西の砦は、しばらく住んでいないにもかかわらず、崩れた場所もなく、どっしりとした重厚な造りをしていた。


 砦内に入ると、まず目に飛び込んできたのは、足が埋まるほどの絨毯と、豪華なシャンデリアが煌めく広いエントランスホールだった。


「え……、お金かけ過ぎじゃない?」

「もともと第二騎士団の駐屯地だったせいだろ」

「あっちには宿舎もあるわよ~」


 入ると一室一室がしっかりとした造りになっており、かなり広い。

 各部屋はシャワー完備、二階には大浴場まであった。


「すごい跳ねる!」

 いつの間にか、レインがベッドの上で跳ね回っていた。


「レイン」

 セラに制され、レインはしょぼんとしながらベッドを降りる。


「寝る前でしたら、好きなだけ飛んでもいいですよ」

「ほんと⁉」

 レインは、きらきらした瞳でセラを見上げた。


「うわ~、甘やかしすぎ~」

「黙りなさい」



 しばらく砦の内部を確認していると、地下へと続く階段を見つけた。

 降りていくと、そこにはだだっ広い牢がいくつも並んでいる。

 壁や床には、かつて誰かが生活していた痕跡が、無造作に残されていた。


 それらはすべて、人が「収容」されていた証だった。

 そこは、奴隷収容のために使っていたのだと一目でわかった。


 レインは、無意識にセラの袖を掴んだ。

 そんな彼女の頭を、セラが優しく撫でた。


「……気分わりい」

 マロンは吐き捨てると、軽く一瞥した後、皆を伴って地上へと戻った。



 砦の確認を終えた頃、辺りはすっかり日が傾き始めていた。

 夕日が森を覆い始め、吹いてくる風も次第に冷たさを帯び始めている。

 入口に掲げられた松明には火が灯され、轟々と燃え盛っている。


「今日はここまでにしましょう」

 セラは静かに告げた。


「お前ら! 今日はここまでだ。食堂に集まって飯にするぞ!」

「おおー!」

 サーシャの怒号が周囲に響き、それに応えるように騎士たちが拳を突き上げた。


「肉ばかりじゃなく、野菜も食べましょう」

「……あとでちゃんと食べるもん」

 小さく呟きながら、特大の肉に噛り付くレインの皿に、セラは静かにサラダを載せた。


「母親みたい」

 マロンはその様子を横目で見て、くすりと笑う。

「黙りなさい」

 セラは気にも留めず、レインの皿に野菜を盛り続けた。


 こうして特に大きなトラブルもなく、砦での生活が始まった。

 



「いや~のどかだね」


 訓練後。

 塀の上に登って寛いていたサーシャは、水を飲みながら呟いた。

 レインはその隣で、汗を拭きながら森に視線を向けた。


 すぐ側には青々と生い茂る森。

 昼間だというのに、その先は薄暗く木々が生い茂っている。

 漆黒の森と王都では恐れられているが、自然豊かで、浅い場所には多くの動植物が生息する。


 暖かい日差し。

 足元で揺れる小さい花。

 吹いてくる風は、土の匂いが混じっていた。


 遠くで、獣の遠吠えが響いた。

 なぜか、胸の奥がざわつく。


 ——森の奥で、何かがこちらを見ているような気がした。


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