第73話 小さな護衛、小さなメイド
「ふう、日本人なら、お風呂だな~」
子爵家という貴族でも上過ぎず下過ぎずな階級、
いや前世とか他の異世界の事とかは知らねえよ?
少なくともこの世界では、地味といえるこの子爵家だからこそ、ギリお風呂がある!
(しかも、狭すぎず広すぎず、衛生面でも子爵家のお財布にもやさしい)
いや水道代とかガス代とか必要じゃないけどさ、
お風呂を沸かすには火属性の魔石が必要でして、
まあ、勝手に燃える石炭みたいなものなのですよ。
(最高級火魔石をクリスちゃんの、もう片目に入れたら……)
燃えたりはしないよな?
いや、燃えるような情熱的な目になったりして、
あとは目からビームが、ってそれはあるなら光魔石か。
(ていうか、色違いを入れるんだからオッドアイになっちゃうんだよな)
それを隠すには、
どうすれば良いか……
目を隠すといえばサングラスだよな。
(んっ? 誰か来たみたいだ)
もう身体、洗っちゃったぞ。
ガラガラガラッ
「グラン坊ちゃま」「あっはい」
「後任メイドを連れて参りました」「えっ?!」
「メイドの、カロリです、きょうから、おねがいします」
メイド服姿のカロリちゃん、
いやいや可愛い過ぎるだろう、
お人形みたいだ、いやよくこんなサイズのあったな。
「その子供用メイド服、売ってるんですか?」
「いえ奥様が、今朝ルミエル嬢ちゃまが発たれた後」
「うん、女学園に帰って行ったね、僕が学校に行っている間に」
珍しく朝食を一緒にって同席して、
何かと思ったら見送りが出来ないからって、
まあ下着泥棒の冤罪(いや冤罪じゃない)を掛けたお詫びもあるのだろう。
「グラン坊ちゃまのパートナーとなり一緒に旅発つまでの間、
護衛兼メイドとして世話させるために、メイド服を作って着せたいと」
「じゃあこれ、お手製なんだ!」「サイズを、はかってもらった、です」「いつのまに」
ていうことは昼前から夕方過ぎくらいまで、
10時から17時までとすると7時間くらいで造ったってことか、
なんだかよく出来たメイド服だな、あと濃い赤毛に白いカチューシャが似合う。
「一応、メイド服のまま護衛が出来るようにも作られています」
「動きやすいんだ」「もちろん特殊効果のある布とかではありませんが」
「でもまだ六歳だからね、身体が大きくなったら」「ある程度、余裕はありますし作り直しはいつでも、と」
今のところは小さな護衛、
小さなメイドでいいって感じか。
「でもなんでそんなに急いでメイドに」
「身請けの話が」「えっミラさん、進んだんだ!」
「進んでいるような気が、しないでもないような気配が」
ああ、早く嫁に出たいって言う希望ね、
その意思表明もあるのかな、あと母上のは単なる趣味かも。
「まあ確かに僕の、冒険者の先生をふたり雇って、
私兵もふたり、仮婚約者も出来て、お金がいっぱい出て行ってますからね」
「なんでもジェラルお坊ちゃまが、少し家にお金を入れたそうですよ」「えっ」
傷付いた金貨を思ったより持って行ったけど、
あれって実は一部を溶かして……まあ人の事、
兄の事は言えないが、そうか、なら逆にちょっと安心。
(子爵家なんて、雇う人数に限界があるからね)
今までは子爵家の人間ひとりにメイドひとり、
あと領主である父上の全体補佐である執事が居るだけで、
余分なメイドも料理専任の人も、衛兵すら居なかった、まあ市長宅に警備員はいらないか。
(それが、ここへ来て一気に……俺のせいだ)
もちろん、こういう時期のために溜めていた貯金もあるだろうけど、
俺が冒険者として巣立つためにあんまり無理されても困るっていうか、
これは本格的に何らかの形で、俺も家に金を入れないと不味いな、うん。
(でないと、父上がもしものためのエリクサーを売っちゃう)
やはり兄上メイドのイシタさん経由だな。
「じゅんび、できました」
「ではグラン坊ちゃん、そろそろ」
「えっ、もうお風呂をあがるんだけど」「だからです」
バスタオルを持っているカロリちゃん、
あっそうか、全身を拭いてくれるのか、
踏み台まで用意されているな、ここは任せるか。
「カロリ、丁寧にしっかり拭くのですよ」
「はい、ミラせんぱいっ」「じゃ、じゃあ、お願い」
「まずは、かみのけから、しつれいします!」「はいはい」
(お風呂の湯気で眼鏡曇っちゃってるけど、大丈夫かな……)
「んしょ、んしょ」
「がんばってカロリちゃん!」
「……うでを、あげてくださいっ」
身を任せると。
なんか、くすぐったかった。
(こんな所までミラさんを受け継がなくても)
でも、本当の本当にミラさんが嫁ぐときは、
余白記入で何か奥さんとして役立つ能力をあげたいな、
まだ時間の猶予はあるだろうし、本人も交えて、じっくり考えよう。
「あっ、腰から下は自分でするから」
さすがに七歳でも、ね。




