第55話 インキュバス校長からの、とっておきの貸し出し品。
「ほうほう、そういう事情があったのですか」
「はいメッシュ先生、人間の世界で正体がバレると命の危険があるという話です」
淫魔の学校、
その校長室でイシタさんが、
聖女クリスちゃんについて洗いざらい教えてしまった。
(何年もお世話になるからね、仕方ないね)
かなりの渋いおじいさんインキュバス、
なんでも公爵家の執事を経て少しの間だけ、
王城でも働いた事があるらしい、もちろん人間に化けて。
「辛かったでしょう、しかし片方の目が入ったと、
しかしおかしいですね、魔石を使っての施術は、
人間だと拒否反応を示すはずでは、何かスキルでも」
ぎくり
やはりこのレベルの淫魔にはお見通しか。
「はい、秘密ですがグラン様に」「ちょ!」
「そうですかそうですか、ではこれ以上は聞かないことにしましょう」
「察してくれてありがとう!」「ちなみに当校は、寄付を募集中でして」
来週、高いポーションいっぱい持ってこよう。
ちなみにこの場は他にルマナ先生と、クリスちゃん付きのアトリちゃんも。
そして空気を読んでか、ルマナ先生が校長先生に話し掛ける。
「正式な入学となると、例の物を」
「そうですね、少々お待ちを……これですな」
「あっ、マントだマントだ」「グラン坊ちゃん、はしゃがないで下さい」
ちょっと七歳児っぽい所も見せないとね。
「これは『フライングマント』空を飛べます」
「人間でも?」「人間でもです、もう作れない貴重品です」
「貰えるんですかあ?!」「貸すだけですよ、卒業するまで」
俺のハイテンションを軽くいなしながら、
畳まれている紫のマントをクリスちゃんに渡す校長、
拡げるとでけえ、いやこれ包んで攫っていけちゃうよ。
「これで、お空を」
「くれぐれも破いたりしないように、お願いしますよ」
「こーちょーせんせー! 質問がありまっす」「はいグランくん」
良かった、相手にして貰えた。
「サキュバスさんインキュバスさんは飛べるのに、どうしてこのようなマントが」
「フライの魔法を遅れて憶える子も居ますからね」「あれって魔法なんだ、翼は?!」
「方向転換やスピードの増減に便利ですが、翼単体では飛べませんよ」「あっ、大きさ的に」
身体に対し、
本当に飛べる翼の大きさを考えたら、
そりゃあ魔法で補助しないと駄目なのか。
「本来、フライのスキルや魔法はほとんどが生まれ持っているものですが、
まれにそうでない生徒も居るので、もちろんこのマントを着けている間に憶えるようですよ」
「人間でも?!」「さすがにそれは、その可能性は、と言いたいですがフライを使える人間も居ますからね、君のように」
ばれてるうううう!!!
いや、普通に報告されてるだけです、はい。
「でしたら、頑張れば、私も」
「かも知れませんねクリス、一応、人間に適した授業も別で私が教えましょう」
「はい、ありがとうございますメッシュ先生!」「よかったー、いきなりサキュバスの実技だったらどうしようかと」「グラン君」
あっ、普通に睨まれた。
「いえ、飛ぶ実技ですよ、空飛ぶ、ほらいきなりマントを木の枝にびりびりびりとかしないか、心配で」
「……大人のサキュバスやインキュバスは、その声と表情で、相手がどういう意味で言っているかわかるのですよ」
「マジでー?!」「あまりそのような言動をすると、大人になったら食べられてしまいますよ」「食べないでくださーい」
ていうかこの校長、
ノンケでも平気でも喰ってしまいそうな雰囲気もある。
「住居は引き続き、イシタの家ですね?」
「はい、責任を持って保護させて頂きます」
「グランくん、他に心配なことは?」「寄付は最高級とパーフェクトなポーションでいーい?」「素晴らしい」
なんならウチの商業ギルドに売ってくれてもいいよっていう。
「あと、ついでにお願いが、人間に精通している校長先生だからこそですが」
「なんでしょう」「クリスさんは、クリス=ヴィクトワール=バシュロナルカンでは」
「わかりました、新しい人間の名前を考えておきましょう」「早っ」「あと戸籍も上手く作っておきます、時間はかかりますよ」
察しが良いなあ、
呑み込みが早いどころじゃない、
いやそういう俳優さんは居る、演技を変えて欲しい時、全体の7%くらい伝えた所で
『はい、わかりました』
といって完璧に指示に応えた女優さんを見た、
経験とセンスと、あとは単純に頭の回転が速いんだろうな、
俺なんて120%教えて貰って9%しか理解できてない事もあったのに!!
「クリスさんが卒業するまでの間にできるのでしたら」
「それなら余裕です、もちろん早いうちに始めますが」
「具体的には?!」「イシタを使って公爵や王都の古いコネを」
うん、大丈夫そうだ。
「ではクリスさん、入学手続きを」「はいルマナ先生!」
「イシタ、グランくんを」「はい、身体検査もあるので」
「あっそうか、えっとじゃあアトリちゃん」「はい」「寂しいから来て」
ルマナ先生を見て頷かれるアトリちゃん、
俺と一緒にイシタさんに促されて隣の職員室、
その一角にある休憩スペースみたいな所で待機させられる。
(イシタさんは一応、僕を護ってくれているみたいに立っている)
そして俺と並んで座るアトリちゃん。
「ええっとアトリちゃん、人間界に来てくれるんだよね?」
「はい卒業したら! 地味で魔法は全然使えませんが」「そうなんだ」
「だからこそです、人間界でなら何か出来るんじゃないかって」「うーん」
ステータスを見て、
あんまりなら『余白記入』を使ってあげるかな。
「ええっと、背中を向けてくれるかな」
「はい、翼が珍しいですか?」「そうじゃないけど」
翼だけ器用に出しているこの服装が、
ちょっと気にはなっているけど、それよりも……
(よし、ステータス、オープン!!)




