第34話 サキュバスの長老を訪問、ちゃんとお婆ちゃんでした。
「人間の『お客様』は、本当に久しぶりだわ」
どっぷり夜になってから、
ようやく面会出来たサキュバスの長老、
その姿はすっかり、ちゃんとしたお婆ちゃん。
(でも衣装は、サキュバスなんだよなあ)
下手するとこれを着るのに時間がかかったのでは、
具体的な描写は控えさせていただきます、うん、レディだからね、
メイドサキュバスから出されたお茶? は今度は灰色、でも味はこれ甘酒に近いな、美味しい。
「前にもお客様が」
「まだ旧道が生きていた頃はね、迷い込んだ方々を保護したり、
最も『悪い』人間と『邪まな』人間はお客様ではありませんが」
イシタさんも普通にメイドさんから甘酒茶を貰って飲んでいる、
なんで甘酒っぽい味なのにお茶かって? そりゃあサキュバスメイドさんに、
わざわざ『粗茶ですが』と言って出されたからですよ、クリスちゃんも美味しそう。
(あ、互いの自己紹介は終わっています)
領主の三男だってこともね。
「それで長老様!」「はいはい小さな聖女様」
「どうやって『悪い人間』と『邪まな』人間であると、わかるのですか?!」
「それはね、私は基本的に見てわかるけど、具体的にはこれを使うのよ、アレを」「はい」
メイドさんが持って来たのは、古臭い天秤。
(あっ、クリスちゃんは見えないだろうから説明しなきゃ)
わかるかな天秤。
「ええっと、それって重さを測る道具ですよね、天秤」
「そうよ、その名も『業の天秤』悪い人間かどうか、これでわかるわ、持ってみて」
「僕からですか、どう持てば」「水平に持てば、両手で受け皿を作ってくれれば乗せてあげるわ」
言われた通りにすると、
何やら湯気のような白い霧が全体から薄く出て、
ゆっくりと少しだけ左側に傾いた、微笑む長老のお婆さん。
「これは、良い方ですか」
「ええ、大変だったわね、すでに五十年近い濃さの人生を送って来たようだわ」
「そんなに」「きっと過酷な状況だったのでしょう? 居るのよ一年で五年分の人生を過ごしたような人間が」
……これ、絶対に前世の分も含まれている!
良かった~、家族の付き合いで無理矢理、炊き出しのボランティアさせられてて!
あとサインも断らないで良かった、ファミレスで食事中、隣りの席のおばちゃんに料理の書かれた宣伝シート(下敷きのやつ)持って来られて、
『これにサインちょうだい』
て言われて嫌な顔せず裏に書いてあげて良かった、
しかもそいつ書くもの持ってなかったから俺が自分のサインペン使って!
さあ、続いてクリスちゃんの番か、七歳の聖女様に業なんて無さそうだけれども。
「続いて聖女様」「はい」
クリスちゃんなら大丈夫だろう、
盲目ながら両手でお皿を作って、
そこに今度は俺が乗せると、って、ええっ?!
(ドス黒い霧が、もやもやと!!)
そして、俺の時とは反対側にガチャンと!!
「こ、これは」
「相当悪い事をしてきたね」
「えっ、なんで」「お願いされた通り、治療をしてきただけですが」「それだ!!」
悪い山賊が悪さをして帰ってきて、
それを治していたら、そりゃあ業も溜まるさ!
でも、じゃあ『悪い聖女』と判断されたクリスちゃんは……?!
(雰囲気を察してか、息を呑むクリスちゃん)
そして少しの沈黙のあと……
「あの、長老様?」
緊張からか、
声が上ずっているな、
可愛らしい少女声ながら。
「さぞかし辛い道具として生きてきたのでしょう、
こちらもこちらで年齢の倍の濃さを感じますね、
大丈夫ですよ、大人になるまでに挽回すれば良いのです」
ほっ、許された、
大人になった時点で悪い方へ傾いてなければ良いのか、
こっちの世界だと十五歳が成人だから、あと七年ちょっとは猶予があるな。
(まあ、駄目そうならもう来なきゃ良い話だ)
天秤が布で包まれる、
そして仕舞われずにメイドさんがそのまま籠の中へ。
「あれっ、仕舞わないんですか」
「さっき聞いたわ、悪人を連れて来てくれたんでしょう?」
「あっ、それのチェックに」「正式に、処分して良い人間か確かめさせて貰うわ」
そしてアウトなら……
「もし、ぎりぎり悪人じゃないのが居たら」
「悪の方に傾いても、傾き切らなければ解放ね、
記憶を消して旧道に放り投げる、場合によっては新しい道まで連れて行ってあげるわ」
そっちなら人通りもあるだろうからね。
「逆に、悪い人間を連れ去ったりは」
「そもそも人はめったに近寄らないわね、
昔は新しいダンジョンを探す冒険者が、たまーに迷い込んだわ、普通は入れないけれども」
俺はすでに持っている魔法かなんかで見破られたけど、
普通の人にとっちゃ、単なる深い森にしか見えないからね、
あとはサキュバス側が力尽きて倒れた冒険者を保護してくれていたりも、していそう。
「じゃあ、明確にその、サキュバスに会いに来る人間は」
「以前、人間の御当主が一度だけ近くまで、おそらくメイドに出していたミロルを探しに」
あんのリーゼントめ!!
「追い返したんですか」
「もし本当にミロルに恋をして、相思相愛なら村へ入れる許可も出したかも知れないわ、
でもすでに妻子あるご当主様、自力でここを探し当てられる程の強い気持ちや行動までは無かったようね」
それでも、こんな所まで来た根性は凄い。
「もし自力で入って来られたら」
「その時はミロルも、本気で対処したでしょうね、ただ……」「ただ?」
「この村に入る人間にはひとつ、ルールというか掟があるのよ、それは……」「それは?!」
サキュバスの長老の、
その紅い目が鋭く光った!
「決して、我々に発情しないこと」
「あっ」「その気になった瞬間、それはお客様ではなく、餌よ」
「ぼ、ぼぼぼ、僕もですか」「子供は適応外、安心して良いわ」「良かったーーー!!」
といったようなお話をして、
長老様へのご挨拶は終わったのでした。




