第106話 冒険者学校が、無駄かどうか。
「ナレット=フォン=バルバート辺境伯閣下、我がグラン=フィッツジェラルド、
冒険者学校へ入学するため、ここ領都バルバートを通り抜けることをお許し下さい!」
「いや、冒険者学校とか必要か? 十五歳になれば普通にギルドへ登録できるだろ」「いえその、基本を」
三十代中盤、王城から派遣されてきた辺境伯、
確かに上から物を言ってくる感じは出来るだけ会いたくない、
鼻で笑ってはあきらかに見下してくる感じ、これ姉上も苦労していそうだ。
「三年間、冒険者学校で学んだ所で最初に入ったダンジョンで死んでは全てが無駄だろう」
「だからこそ、死なないために」「冒険者など死ぬ仕事だ、死ぬための学校とは馬鹿らしい」
「しかしながら私は独立のため家を出る身」「おおそうか、つまりは子爵家からのやっかい払いか、納得した」
なんだかなあ、
まあ言いたい事はあるが、
ここはグッと堪えておこう。
(父上や兄上のためにもね)
そしてアトリちゃんが大きな箱を二つ献上する。
「眼鏡メイド、開けよ」「はいっ」
片方は高級水魔石が十二個、
もう片方は高級回復ポーションが十二個だ。
(さっきとまったく同じ物を贈るのは、不味いらしい)
なぜかというと、
同じ物だと渡す順番で優越がついてしまうから!
だから違う物でも同じ価値に、で頭を捻った結果が数で合わせる、と。
(あまり高価で無いものも、ダースで贈れば格好はつく)
前世のマナーです。
「なるほど、魔石の方は加工すれば良いアクセサリーになるな、
回復ポーションは衛兵に回そう、最近、アースドラゴンが暴れていてな」
「領地内でですか」「すでに冒険者が喰い殺されている、次の番は……誰になるやら」
あっ、これ俺たちとでも?!
本当に次の番ってことじゃなく、
冒険者になると、こういう危険があると。
「それではこのあたりで」
「アースドラゴンを退治してきてくれるのかい?」
「無理ですね」「もし首を獲ってきたら、冒険者学校での便宜を図ってあげよう」
……まあ王城と繋がりがあるなら出来るだろうね。
「普通に入学試験を受けて普通に入学しますよ」
「貴族枠だから合格は確定だろう、そうだな、寮だと大変だろう」
「まあ確かに」「貴族寮の良い部屋に入れるようにしてあげよう、個室でメイド部屋付きだ」
……それはちょっとありがたい、
地味ハーレムが全員女子寮だと、
男子寮の俺はひとり、相部屋ガチャもあるだろう。
「本当に首を持ってきたら」
「方法は問わないよ、君たちが持ってきたらね」
「まあ、冒険者ギルドで情報を集めてみます」「期待してるよ、HIP隊の諸君!」
知ってるんじゃん、いや間違ってるけど!
「SET隊ですっ!!」
ということで屋敷を後にする、
いや十二歳の無名冒険者予備軍に何て無茶振りを。
(ひょっとして、死んで来いってことか?!)
とりあえず馬車へ。
「ガルダさん、冒険者ギルドまで戻って」
「宿が先では」「いや、先に覗いておきたい」
「わかりやした」「みんなもいいよね?」「ええ」「はい」「はいっ」「かしこまりましたご主人様」
馬車の中で考える。
(冒険者学校って、いわば前世の専門学校みたいなもんだ)
そして専門学校は馬鹿に出来ない、
まずコネが出来る、普通に冒険者ギルドへ行って、
どこどこに入れてくださ~い、とかよほど人の居ないパーティーでないと無理だろう。
(専門学校でも、そこでしか取れない資格とか就職先とか、あるからね)
もちろん行くのが無駄に思える専門学校もある、
声優の専門学校とかユーチューバ―の専門学校とか、
ただ、そういうのを頭ごなしに否定する人は、人の人生を否定する権利は無い。
(いや、思うんですよ、専門学校って夢に満ち溢れている)
例えばその専門学校生がお金だけかかってまったく無駄な二年間を過ごしたとしよう、
いや実際に無駄だったとしてもだ現実的にその後の仕事として、まったく関係のない職業についたとする。
でも、傍から見ればその二年間は『無駄』だったとしても、本人にとってはかけがえのない、夢に満ち溢れた幸せな二年になる可能性もある。
(死ぬ瞬間、『一番幸せだったのは、あの専門学校に通った二年間だったなあ……』なんてことも十分、ありえる)
その幸せを、下手すると人生最高の喜びに満ち溢れた時間を、
そんな『無駄だから』と言って奪うのは違うと思うんですよ、
いや学費を払った親は言えますよ、それに関しては謝る必要は、ある。
(でも案外、そういう二年間が人生で一番自由だったりする、若いし)
ただーし! 居たんですよ、声優の専門学校を二年通って、
その後、別の声優の専門学校に二年通って、卒業してまた別の声優の専門学校に……
さすがにそれは誰か止めろっていう、六年も大人になりたくないピーターパ……あっ、冒険者ギルドに着いた。
(俺は冒険者学校の三年間を、無駄にするつもりは無いけどな)
そう、頑張って地味ハーレムを、
地味な冒険者パーティーに仕上げるために、
地味に立ち回る方法を、みんなで学ぶために……!!




