入学式
入学式。それは、校長と学年首席と生徒会長が
長々と話をするだけの世界一つまらない時間だ。
まあ、100点を取った二人と話してみたいからそれが楽しみではあるが。
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「王立学園校長のフォーテというものだ。新入生諸君。歓迎する。…」
長い話に興味はない。だから聞かない。
入学試験首席と次席の椅子が空白だ。体調不良なら心配だが…
「この学園にて、これから6年間を有意義に【ガチャ】すご…何事だ!」
扉が開けられた。不審者でも出たか?
「あ、もう始業式始まってんの?」
「とっくの前に始まってますよ〜!遅刻ですよ?」
「まあいいんじゃね?」
「いいんですけど〜」
なんだあいつは。なんなんだ。言動はまるで違う。髪の色も違う。
あの人の髪色は私とは違う澄んだ黒だ。だがあいつは灰色だ。でも…
顔も体格も何もかも5年前のあの人と同じだ。
「校長喋ってなくね?校長挨拶終わったの?」
「まだ壇上に立ってますし終わってないんじゃないですか?」
「でもかんけーねーだろ」
「それもそうですね」
そう言うと、無理やり壇上に上がって拡声の魔導具を手に取った。
「やあやあ諸君。俺が新入生首席のフィリオ、平民だ」
周囲がざわつく。
首席がまともな学習環境がない平民だと分かれば当然だ。
「突然だが、ノブレス・オブリージュというものを知っているか?
もとは強者の責務という意味だが、現在は貴族の責務という意味で使われている。
弱きを助け、強きをくじくという意味だな。
だが、現状はどうだ?王族や公爵家とつながりを持つために子供を
道具のように扱う貴族家当主たち。貴族の重税に耐えられず自ら命を絶つ平民。
弱きを虐げ、強きに媚びているじゃないか。
俺はそれを正す。なにか質問はあるか?」
ザワザワ…ザワザワ…ザワザワ…ザワザワ…
ふと、誰かが挙手した。
「そこのお前」
「この学園の生徒会副会長であるアペルト・デヴォツィオーネだ。
栄光ある入学式に遅刻したと思えば校長に対する狼藉。決して見過ごせるもの
ではない。除籍もあるだろう。そのことに対してどう考える?」
「生徒会長なのか。お前優秀なんだな」
「そんなことは今はどうでもいい。質問に答えろ」
「優秀なら父親の弟への暴行見過ごしてないで止めてから物言えや。
俺が止めるまで殴られ続けてたから全部ボロボロじゃねえか」
「なっ!」
「あとはなさそうだな。これで入学式を終わる」
あんな不良みたいな喋り方。
多分あの人と同一人物じゃないな。そう信じよう。
一章スタート