魔導
従順な使用人は便利だ。本棚は背が高い。
つまり取れない。使用人は便利だ。
あの夜から、父の態度が変わり、それに伴って家の態度が変わった。
公表会があったが、思ったよりもうまく行った。
黒髪を差別する声も多少はあったが、年不相応な淑女の振る舞いで
表面上は黙らせた。だが、あくまでも「表面上は」だ。
これからのクソ親父の働きに期待しよう家に関する事だから期待していいはずだ。
そして、今に至る。本は面白い。
とくに貴族が権力で握りつぶしたであろう史実の歪み。
今では法で禁止されているがどこかでは奴隷や密輸もやっているんだろうか。
ディオ侯爵家が没落したのがある日全員切られていたというのも不思議だな。
何をやらかしたらそんな目に会うのだろうか。
本には魔術教本などもある。
私は魔術が使えない。黒髪は魔族の色で、穢れている証拠だ。
天族の白い髪と対局に位置する黒髪は魔法を使えない
というのは3歳児でも知っている常識だ。
それでも、試してみたくなるのは少年少女の性だろう。
それに、黒髪について研究すればあの人に会えるかもしれない。
近くにいた赤髪の使用人に炎の魔導書を取ってもらい、呪文を詠唱する。
「フィアム」
その瞬間、炎が部屋を焼き尽くした。
「何事だ! おいお前、何をしている!」
クソ親父が使用人に怒鳴った。
「いやっ これは私じゃ…」
「口答えするな!」
盛大な勘違いだ。見当違いも甚だしい。
「違うの。私が命令してやらせたこと。
全責任は私にあるから、この子は見逃してあげて。」
「なっ………わかった。お前は2週間謹慎処分とする。」
そう言い残して、クソ親父は去った。
あまり納得していない様子だが、これでこの場は凌げた。
それにしても、2週間か。少し痛いが、思ったより短いな。
「あの、お嬢様…」
「あなたを私の専属使用人にする。名前は?」
「えっ レアルタと申します。」
「よろしくね。」
黒髪で魔術を使えるなんてイレギュラーは想像していなかった。
この事件と私の体を世に出すわけには行かない。ここでもみ消す。有無は言わさん。