蛇ノ足◆悪魔の秘密
12月16日。月曜日。
私とレドルはいつも通り学校に登校し、きちんと授業を受けて、放課後になった。
冬は太陽の沈みが早い。16時を過ぎたところで、もう夕焼けはピークといえる。
私とレドルは伊藤先生のいる、体育館の職員待機室に来ていた。伊藤先生に成り行きと事情を説明し、明日の夜、ラブホテルに潜入する方法を聞いていた。
伊藤先生は悩む素振り無く、パッとアイディアを出してくれた。……伊藤先生を頼る以上、変態的な仕打ちを覚悟していたけど、誠に残念なことに私たちの予想は大的中。
明日の夜。私とレドルはレズビアンを演じることになったのでした。なんだそれ。
「最後に質問いいですか?」
「可憐な少女たちと1秒でも多く同じ空気を吸えるということに、幸福を感じないとでも思うかい? 答えはもちろん、イエスだ」
先週、レドルのせいで散らかったはずの職員待機室は、綺麗さっぱり元通りとなっていた。伊藤先生以外の教員は出払っているようなので、その他の先生の椅子をお借りして、私とレドルは伊藤先生の話を聞いていた。……ちなみにお茶を出すのではなくプロテインを出された。
「……じゃあ聞きますけど。伊藤先生みたいなサポート専門の悪魔について聞きたくて」
「僕たちの存在について、か。よし。いいだろう。
悪魔は現世において様々な仕事をしているが、僕たちはサポート専門の悪魔なんだ。ここまでは知ってるよね?」
「はい」
「僕たちのようなサポート専門の悪魔は、それぞれのエリアを管轄していて、僕が一人でこの町を管轄している。必ず一人というわけはなく、二人、三人、多いところだと五人でサポート業務をこなしている地域もあるね」
「へぇ……。例えば、大都市とかですか」
「御名答。一人ではカバーしきれないところは、複数人でサポートをしているわけだ。
主な業務は……まぁ何でも屋と思ってくれていい。街の案内、鍵の作成、証明書の偽造、変装道具調達、暗殺器具調達、近隣トラブル解決、恋愛相談、スプーン曲げ。なんでもござれだ」
「……なんか変なのも混じってた気がしますけど。なんでもできちゃうんですね」
「悪魔の中でも選りすぐりの悪魔でなければこの仕事は務まらないからね。まったく、充実した毎日だよ。勃起が止まらない」
「いやそんなコト全然聞いてないですけど」
「選りすぐりといっても……そこのリトルクイーンには、敵わないがね」
会話に入ることなく、ネイルを塗って暇をつぶしていたレドル。伊藤先生による嫌味風味の発言と視線に全く反応することなく、そのままネイルをいじっていた。
……おかしいな。いつものレドルなら即キレるのに。
「レドルってなにか特別なんですか?」
「それは彼女の口から聞くべきだ」
◆──◆──◆
意味深な会話でお開きになり、私とレドルは並んで帰る。終始無言だったレドルに、
「ねぇ。レドルって常世で何かあったの? この前言ってた〝悲願〟ってのと何か関係があるの?」
「テミャアの記憶力って日に日に衰退していくのかにゃあ。阿呆と喋っていると阿呆病が伝染るからマジやめてほしいんですけど☆
……言ったでしょ。教える気なんて微塵もない。人の過去をほじくる暇あったら、テミャアは仕事に集中してればいいの。分かった?」
「…………うん」
「納得してないじゃん」
感情共有によって、生半可な返事の真意はすぐに暴かれる。でも仕方がないだろう。内緒話は気になるのが人間の性。半間になっても変わる訳がないのだから。
「絶対に教えないからね」




