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蛇ノ足◆タイトル回収を雑にするな

 禁忌の契約。

 呼称の通り、それは契約の中でも最も異端とされる契り。

 悪魔の契約の内容はこうだ。


●悪魔は契約相手の魂を貰う

●契約相手は選んだ人物の死を貰う


 ──いたってシンプルな内容だが、ここには穴がある。それは、契約相手が自分自身を選んだ場合、だ。


 その場合でも契約は成立する。契約の公平性により、契約相手の選ぶ相手は悪魔側で指定できない。自分は選ぶな、という類の注意もできない。


 契約相手が自分自身を指定すること。


 これが禁忌の契約。


 魂を裁く仕事に就いている閻魔大王からすれば、契約の素質のある人間が、みすみすと自分の魂を差し出そうとするようなイカれた野郎は、正直なところさっさと裁いて地獄にぶち込みたいところ。


 しかし、素質が充分であり、或いはその狂気もまた悪魔の仕事には適している、やもしれない。


 そのために契約相手を半魔にし、死ニ噛ミとしての仕事、1週間の猶予を与える。


 使える者なら使う。使えない者なら地獄行き。


 果たして音沙汰ユイという人間は使える側に立てるのか、だけど……。


 なによりも死ニ噛ミになったことで私の生活は一変した。


 死ニ噛ミとしての仕事の内容はもちろんだけど、まず半魔になったことで身体能力が向上した。


 体育の授業で持久走があったけど、息切れもせずに学校の新記録を樹立した。

 小指を机の角にぶつけても全く痛くない。

 そこまで悪くなかった視力もなんだか上がっているようで、授業中にちょっと酔ってしまった。などなど。


 続いてレドルとの感覚、感情共有。これは厄介な部類。授業中に集中していないレドルと感覚を共有していると私まで集中できなくなるし、レドルが男の子に苛立ちを覚えている時は私までイライラしてくる。

 尿意とかは共有していないみたいだけど、痛みは共有するから、私がドジで転けたりすると、レドルが怒ってくる。


 いいところは……ご飯が2倍に美味しく感じるところ。レドルは野菜全般が嫌いみたいなので、野菜好きな私と彼女とで感覚と感情が衝突すると、どう足掻いても〝美味しい〟という感想が出てこなくなってしまう。なのでこれからは音沙汰家の調理担当としてレドルの野菜嫌いをなんとかしないと……。あれ。私なんだかお母さんっぽくなってない?


 変わったところを上げればキリがないんだけど、やっぱりインパクトが大きいのは、コレだ。


 たゆん。


 私の胸がウイ並に大きくなったこと。

 本編だとイベントありすぎてこのおっぱいイベント丸々カットされてたらしいけど、少なくともウイは泡を吹いて倒れそうになっていた。レドルは……興味なさそうだった。


 しかし。こうしてデカ乳になると、ウイの苦労が実感できる。男子の視線とかはぶっちゃけどうでもいい。


 ブラジャーを買い替えなければいけない。

 服が着れなくなる。

 肩が凝る。

 足元が見えないのは結構怖い。

 デカ乳の被害も上げだしたらキリがない。


 ごめんねウイ。嫌味言ってるとか思って……。


 よし。というわけで。


「奴隷少女、最強魔術と巨乳を持つ死神に転生してしまった為、素敵な終活をお届けする!!」


 カー、カー、とカラスの返事。呆れてるのか阿呆、とすら鳴いてくれない夕暮れの帰り道。


 静かにうなだれる私と、その横でため息をついて足を止める女子高生が二人。


「タイトル回収を雑にしないでくれない? 普通につまらないんですケド」


 手をひらひらと振って、救いようがない、というジェスチャーをするレドル。


「言わないとなんだか何処かの権力にコロッと捻り潰されてしまう感覚がしたんだよ……」

「ユイちゃん……」


 そのレドルの隣で、ハンカチで涙を拭っているピンク髪の女子。ウイ。


「ユイちゃんはもう遠い存在になっちゃったんだね」

「いや別に胸が大きくなっただけで大袈裟な……」


「だってッ!」


 ギュ──私の胸元に飛び込むウイ、しかし──!




 ぼよよん。




 弾き返されるウイ。衝撃で尻もちをつく私。なんて、残酷。


「ひどいよ……こんなのあんまりだよ……。ユイちゃん、薬に手を出してまで……こんな……」

「だから違うってば! 牛乳を一気飲みしたらこうなったんだって!」

「そんなの信じられるっ!?」


 うぅ……どうしてこういう時に限ってウイの天然は発動しないんだ。正論が過ぎるぞ……!


「主要な登場人物が全員巨乳とか、あまりにも古いよっ!」

「えー……そっち……」

「古のエロゲヒロインみたいなやつが言うなよって感じなんですけど☆」

「今の時代ほら、太ももだのお尻だの、様々なニーズに応えるのが王道でしょ!? なのに全員でかぱいって……。ファンアート描いてもらえないよ……」

「どこを目指してるのかな……ウイ……」

「はーー。分かってないなぁ古エロゲクソ女は。第一ね、ワタクシちゃんっていう究極のヒロインがいるんだから、なーんの問題もないじゃない☆」

「罵倒ヒロインの方こそ時代遅れだと思うよ」

「は──」


 ウイの冷ややかな発言に、ピキッと凍りつくレドル。


「ふ、二人とも喧嘩はやめてっ! 人気とかメタファーな話は置いておいて、これでお揃いの服を着れるようになったんだから、嬉しいよねっ! ねっっ!」


「テミャアらと一緒の服とかごめんなんですけど」


「ユイちゃん。他の女の匂いがする服とか、冗談きついよ。ユイちゃん」


「…………」


 死んだ目をする二人から目線を逸らして、沈みかけの夕日に問う。


 おっぱいの設定……要らなくないですか……?

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