6話 滞在1ヶ月にして初クエスト
「おはよう貧乏達。」
そう言って俺はカーテンを開ける。
まだ春で、花粉がかなり入ってくるので、すぐに閉める。
俺の一日は早い。まずはコーヒーを朝に嗜んで朝風呂に入る。
あれ、風呂の水が出ない。ユーカの奴水道代払い忘れたな…
仕方ない。今日はキャンセルしよう。
それから、街の外周だ。
ランニングで持久力を鍛えることと、街の安全のためパトロールだ。
靴を履きドアを開ける。
まだ春なので少し冷えるな。今日は辞めておこう。
「ただいま!!!」
すごい勢いで帰ってきたのは、ユーカ。まあ俺の家来みたいなもんだ。
「ねえカゲ!あなた水道代払った?手を洗おうとしたら水が出ないんだけど!?」
「あ、あぁ水道はなんかモンスターが川の水を全部毒に変えたから今ストップしてるらしいんだ」
「そう、まったく物騒ね。」
「そうだな。」
ふうぅ。うまく騙せたようだだな。
「そんなことより見てよこれ!」
ユーカは嬉しそうに、今買ってきた買い物袋の中をガサゴソ漁り、本を二冊取り出す。
「単語帳ならよそを当たってくれ。」
「違うわ、ラブコメよ、ラブコメ!私は一巻を立ち読みしてきちゃったから、一巻を読ませてあげるわ!」
そういって、ソファに座っている俺に本をポイっと投げつける。
「おお、まさかこの世界にもラブコメがあるとは。」
「本屋の店主さんに聞いたらね、その作者さん結構人気らしくて、ほかにも色々出してるんだって」
タイトルは『俺にだけデレデレな女の子』作者は『ザコ』
ざっと読んでみた感じ、普通のラブコメ。
ストーリーもどっかで聞いたことあるようなものを詰め合わせたよくあるやつ。
だが、転生してから約一か月。俺らはもう飢えている。異世界に来てからというもの、テレビもゲームもPCない。暇すぎてもはやなんでもいいし、売っていることさえ面白さを覚える。
「どう?実に普通で面白いでしょ?」
「まあ、実に普通だな。」
「作者の名前が『ザコ』って名前なの以外は実に普通よね!」
この作者はおそらく異世界転生者なのかもしれない。
ほぼパクリみたいなもんだな。面白味も全くない。
「………ユーカ、3巻は売ってたか?」
「え、なに。この小説の続きが読みたいの?」
「いや、まあなんというか、研究だな。うん」
「まあ、今度買い物行くときに買ってきてあげるわ。」
~~~~~~昼頃~~~~~~~
「ギルド内でカゲが家を買ったという噂を耳にしたので来てみたが、君たちは一緒に住んでいるのかい?」
黒いトレンチコートを着たイケメンは出された紅茶をすする。
「そうよ。」
「だからどうしたんだよ」
アストが家に来た。
「いや…なんでもない。ところで、君たち冒険者はやめるのかい?」
「やめるわけでしょ?スローライフは魔王を倒してからよ。」
「俺はやめてもいいんだが…」
バシッとユーカに叩かれる。痛い。
「やはりそうだと思ったよ。」
もう一度深刻そうに紅茶をすする。
「なんで男ってすぐもったいぶるのよ。」
「君たち、このままだと冒険者を剥奪してしまうよ。」
「剥奪?俺らはなにもしていないぞ」
「何もしてないからだよ。冒険者登録後一か月討伐クエストをしないと、冒険者として報酬がもらえないんだ」
「え」
ユーカは紅茶をこぼす。口からドバドバ出ちゃってる。紅茶がね。
「あなたね!そういう大事なことは先に言いなさいよ!」
「い、いやぁあんな張り切っていたから、まさか一か月間も新婚生活をしているなんて…」
「まだ結婚してないわ!だれがこんなバカな高校生と付き合わなきゃいけないのよ!」
同じ高校でしょ。、いや待てよ、こいつ。俺が同じ高校とは知らないのか?まあ言わなくてもいいか。
「とにかく、街外れのスライムでも倒して来たらどうだ?」
「それでいうとアスト。俺らはこの家に住み着いてた幽霊を討伐したぞ?」
「なるほど、それは惜しいことをしたね。ギルドへ一度討伐依頼を預かって、倒した後報告しに行かなければいけないんだ。」
「勉強になったわねカゲ」
「そうだな」
「じゃ、私夕飯の支度あるから、カゲ一人で行ってきなさいよ。」
なんでだよと言いたいところだが、正直スライムくらいなら、倒せそうではある。
「わかった、じゃあ行ってくるわ。ほらアスト行くぞ」
「僕も行くのかい?」
紅茶を一気飲みし、身支度をする
「じゃあ私も行くわ」
「ユーカは夕飯の支度するんじゃないのか?」
「今日は外食よ」
靴を履き終えた俺とアストはユーカが着替えるのを待っている。
「ユーカ君が行くなら僕は行く必要ないね。あと、スライム討伐の依頼はすでに君名義で受けているから、そのまま森へ行ってくれてかまわないよ。」
そういって彼はスタスタと帰った。
~~~~~~~~~~~~~~~
「どこにスライムがいるんだ?」
「武器屋のニドラさんが石ころの裏のいるっていってたわ」
「ダンゴムシみたいだな」
俺たちは小さな石ころをひっくり返しては戻す、を繰り返している。
「なかなかいないわねー」
「ひょっとして、もういないんじゃないか?スライムなんてザコモンスター、申請するまでもなく倒されているんじゃないか?」
「カゲは馬鹿ね。最近のスライムは実は弱くなくて、打撃無効とか色々強いってのがテンプレよ」
「いやいや、スライムが強いわけないだろ?」
「言ったわね?じゃあ賭けましょ!」
「望むところだ。罰ゲームはなんだ」
「敗北者は勝者の言うことをなんでも聞く。いい?」
「あ、あぁいいけど、死ねとかは無しだからな?」
「え?じゃあもう罰ゲームなくていいわ。」
こいつ、殺す気だったのか
「…ねえもう帰りたいんだけど」
「しかたないだろ?クエスト失敗のペナルティがあるし、クエストやんなきゃ免許剥奪だぞ?」
「んー」
かれこれ20分は探しているが、まったく見つからない。
「本当に武器屋の店主の言ってることはあってるのか?」
「おそらくあってるわ!だって武器屋の店主よ?」
「ちょっと一休みするか。」
と、俺が木に寄りかかった時だった。
俺視点では、瞬きをして瞼を開けた瞬間。あたり一面は水中で、呼吸ができない。
「ん”ん”ーー!!!!いぎがでぎない!!!」
くそ!手で掴めない!
「カゲ!!そいつはスライムよ!!木の上にいたのね!!!やっぱりスライムは強かったじゃない!!!」
「いっでるばあいが!!!早く倒せ!!!…おぼぼぼぼぼ……」
まずい!意識が…
「ああ~!!かげー!!」
~~~~~~~~~~~~
「ねえ!そろそろ起きなさいってば!!!」
「んあぁ」
目を開けるといつもより身長が高い。いやこれは、ユーカにおんぶしてもらっているからだろう。
「スライムは倒したのか?」
「ちゃちゃっと片づけたわ!」
見渡すとまだ外壁の外のようだ。あたり一面は草原。これがまさに大草原不可避なのだろう。
「なあユーカ」
「なに?」
「俺、この世界結構好きかもしれない」
「本場の大草原不可避ね。」
スライムにとって粘着性を帯びたユーカの制服はこのきれいな草原を見渡さなければオートエイムで眼球が動いてしまう。気がした。
「そういえば、水道止まってるらしいわね」
「だから今日は混浴の銭湯でもいこうか。水道代は明日払いに行くよ」
「え?モンスターが川の水全部毒に変えたんじゃないの?」
「あ」