4話 魔道具便りの勇者俺
「…ねぇ。私たちに足りないものって、なんだと思う?」
寝転んでいる俺の上をまたがりながら偉そうにいう。
「んー恋愛要素とかじゃないかー」
俺はアストから追加でもらった単語帳2を読んでいる。
「んん…まあそれもそうね。でもそれじゃないわ!ほかに何だと思う?」
「んーなんだろー戦闘描写?」
「それもそうだわ!でも違うのよ!装備よ!!私たちには武器や防具が足りないと思うの!」
「あぁ確かに。お前、ずっと制服だしな。」
ううむ。もう少しで見えそう。
「そうよ!私も転生の醍醐味メイドインジャパンのジャージがよかったわ!」
「でもよぉユーカ。俺らは一文無しだぜ…」
「じゃーん!5万カーキよ!」
ビラッと華やかに見せる。お、水色か…
「下のお料理屋さんでいっぱい頑張ったのよ!」
「物価から見るに日本円だと大体…10万円前後か…よくこの数日でためれたな…」
「そうよ!色々なお客さんからチップを貰ったの!いやぁ可愛いって本当に使えるわね…しょうがないん
だから今回ばかりは、私が装備を奢ってあげるわ!」
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木製のドアを開けると、またもやチリんっとベルが鳴って広がるのは、杖、剣、盾、鎧。
さまざな武器たちが机にきれいに鎮座していて男心を最高にくすぐられる。
「へいらっしゃい嬢ちゃんと兄ちゃん!」
裏からガコガコしていたのをやめ、ゆっくりを声をかけてくる
「ニドラさんじゃない!あなたのお店だったのね!」
いつの間に仲良くなったんだよ
「で、嬢ちゃんは何を探しに来たんだ?」
「そうね!私が剣が欲しいわ!」
ユーカは剣のコーナーを物珍しそうに物色している
「お前には聖剣があるだろ?」
「あなた本当に馬鹿ね、雑魚相手に強強剣を振り回すわけにはいかないでしょ?」
「さすが嬢ちゃん。頭がさえてるな。神から授かった剣ってのは、魔力消費も激しんだ。よって、ここぞって時に使うもんだぜ。」
「なんでユーカの剣が神から貰ったものってわかるんだ?」
「まあ、長いんでな…」
いや、ただの鍛冶屋だろ、かっこつけんな。
「お、この剣いいわね…」
ユーカが持っているのは、聖剣より短く、細く、これもこれでかっこいい。
「カゲ、あなたは異世界系以外のアニメとか見たりするかしら?」
「急になんの話だよ」
「いいから答えて。」
「まあ小学5年生から不登校だし、ある程度は目を通しているぞ。」
「…野暮なこと聞いてしまったわね…」
目を少し細めて、俺に同情を向けている。
「やめろ!そんな目で見るな俺を!!」
「じゃあ、このネタはわかるわね」
そういって彼女は手に持っていた剣を真上に投げ、投げたほうの腕を剣の通り道になるであろう場所に移
動させる。
剣は宙に舞うと同時にくるくる回転ししながら物理法則に従い、落ちる。
「や、やめろ!それは、いろんな意味でアウトだ!!」
慌ててユーカの方に駆け寄る俺であるが、当然間に合うことはなく。
くるくると回転する剣は見事、うまーくユーカの腕をすり抜け、キンッ!っと地面に突き刺さる。
顔を少し下に向けつつニヤっと、笑う。
「貰った!」
「まったく大したもんだぜ嬢ちゃん…」
「お前なぁ、それ腕がなくなってたらどうしてたんだよ」
「どうせ『腕生やしの祝福』とかあるでしょ」
それもそうだ。
「嬢ちゃんはそれで決まりだとして、兄ちゃんは何をお探しなんだ」
「実は俺、冒険者になったばかりで、まだ何もわからないんだ」
「おう、そういうことなら俺様にまかせろ!職業とスキルやらなんやら教えてくれ!」
ユーカや俺に比べたらアレだがきれいな歯を見せて親指を立たせている。
「すごいわよ異世界!歯がキラーンってなってるわ!」
「『アイテムボックス16』ってのがある。職業は『無職だ』」
鏡がないのでわからないが、きっと俺の顔は赤いだろう。
「がっはっはっは!!!たまげたぜ兄ちゃん!アイボで無職なんざ初めて聞いたよ!」
アイテムボックスのことをアイボと略さないでくれ。
「そういえば、アストも無職と聞いて結構笑ってたわね!」
「ロングフォンの旦那も笑っちまうレベルか!こりゃ鍛冶屋として腕が鳴るな!1日ばかり時間をくれ!」
こうして僕たちは、ステータスをコピーしてもらい、鍛冶屋をでた。
~~~~~~1日後~~~~~~~
「またせたな兄ちゃん!!」
「おう、できてるか!?」
「一つはまだ未完成だが、ほかの武器たちは、在庫の合成やらなんやらで元々あったやつを加工したから意外に早く終わったぜ!」
「なるほど!都合のいい設定なのね!」
店主は両腕いっぱいに抱えた装備たちを机にガサゴソ置き始めた。
「兄ちゃんの強みは、アイボでの手数の多さだ。そして、あんたの奥さんが前衛職ってことを考えると、中遠距離特化の方が望ましいな。まずはこのブーツだ!」
長靴のような長さの靴を持って、嬉しそうに話す。こっからは解説パートだ。
「こいつは持ち主の俊敏性、ジャンプ力を底上げしてくれる優れもんさ。だが、歩いている間は、アホみ
たいに重いから、アイボを持ってるやつにしか使いこなせねぇ…」
「私も使いたいわ!」
やっとユーカに勝った気がした。
「お次はこいつ。こいつは時限式で爆発する爆弾だ。」
6角形の薄くて平な爆弾。マインスイーパーみたいな感じか。
「まあ、こいつの難点は魔力操作が難しいところだ。ミスって自爆したやつが後を絶たない。」
難点どころじゃねえよ。俺魔力が何なのかいまいちわかってないんだぞ。
「3つ目はこの弓だ。まあ特にいうことはない。」
「4つ目は短剣だ。剣は戦闘以外でも使えるしもておいた方がいい。」
「5つ目はこの風呂敷。サイズ調節可能で、滑空もできるぜ。」
「6つ目は縄、捕縛用とはいわねぇ、だがかなり頑丈でかなり伸びるぜ。」
「7つ目は煙幕。まあこいつもいうことはねえな。」
「8つ目は杖だ。どうせ後々魔法を覚えるんだから、持っておけ。」
淡々と説明するニドラに俺はもちろん興味津々だが、ユーカは立ったまま寝ている。
「まあこれで全部だな。説明したりねえが、お前さんの戦闘の幅を狭めるわけにはいかねぇ…説明書だけ渡しておく。」
「あぁありがとう。全部でいくらだ」
昨日の剣の分も忘れていた。持ち金で足りるだろうか…
「いらねぇよ金なんて。」
「?」
「お前んとこの嬢ちゃん、酒場で魔王を倒すとか言ってたが。倒してくれるっつーなら、金なんていらねえよ」
魔王ってそんなヤバいやつなのか?だとしたら尚更やりたくないんだが…
「俺の女房と娘を殺した憎いやつだ…敵を討ってくれ…」
店主は首から下げているペンダントを意味深に眺める。
「おい過去回想は入んないぞ!」
「…つーわけで今回は無料でもらってけ、そこの嬢ちゃんには内緒だぞ」
こんなシリアスな感じになろうとしているのに、ユーカは鼻提灯を膨らましながら寝ている。
俺は早速俊足ブーツを履いて、縄でユーカを縛り、宿まで引っ張る。
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「え、たった100カーキでいいの?」
「ああ、あったもので作ったから、金がかからなかったらしいぜ、もぐもぐ」
「そう、つまりお金が浮いたのね…もぐもぐ」
「まあこれであと5日くらいは持つんじゃないか?っておい聞いてんのかよ。」
俺の話なんかに耳を傾けず机の上にたつ。なんだか嫌な予感。
「みんな!!今日の夕飯はオーク料理すべてを私が払うわ!!お食べなさい!!」
胸を張っていう。
「おおー!!嬢ちゃん気がきくじゃなーか!!」
「太っ腹だぜー!!」
冒険者のヤジを気持ちよく聞いている。
「やっぱ異世界っていいわね!!」
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「お会計。20万カーキになります。」
「…」
「20万カーキになります。」
「…リボ払いで頼むわ…」
「ないです。」