第一話『凍てつく命:1』
数日後の雪の日。異常気象だった。
春と夏の境目、まだ薄紅色の葉がちらほら木に止まっている中で風音の母が3人目の子を出産していて、ある燃える脅威がとある病院の人気のない部屋で、ガソリンを撒く。子供はすぐにでも夫婦の話し合いで「怜」と名付けられ、一家は母と怜を残して猩々緋家の建物へ帰宅し始めた。
母は赤毛で父は金髪なのだが、風音と太陽は赤毛で、1人だけ怜は金髪であった。
火事の騒ぎに家族全員が気付いたのは走行中の車の中で時間は40分後、春の陽気が街一体を包む、タイヤがアスファルトを擦っている最中。急いでUターンしたが、風音は白龍から分けてもらった瞬間移動で一人、母の元へ。車内全員、まだ気付いていない。
燃え盛る建物の中、瓦礫の下敷きになっている母とその目の前で産声を上げている怜の前に風音は降り立った。
「風音……? なんで? とにかく怜だけでも! 私はいいから!」
「瞬間移動の能力を得たの。お母さんも帰ろう!」
「だめ。もう、助からない。わかるの」
「なんで?」
「いいから!! 能力あっても助からなくなる!」
「うん」
好きなお母さんの言い分を守ろうと決意した。怜を抱いて燃え盛る病院から、一足先に何台もある消防車や警察車両、そして無謀にも野次馬も出来ていた。風音は怜を抱いたまま小走りで一緒に泣き続けた。白い薄手のワンピースだったので、脚元は頬のように赤くなった。人のいない場所で再び瞬間移動を使い、お家に帰る。
一足帰った風音となぜか生存している怜に、母が他界したという思惑が父親は激しいパニックを起こす。花が生けられた高級の壺を次々壊し、壁も何箇所かへこむ。いったん3兄弟で風音の部屋へと避難した。
それからというもの、風音達の父親は怜が病院を燃やしたとずっと言い続けるようになった。正気ではないのだ。財産を全て最龍侍学園に寄付しようとしたり、未解決事件の冤罪も数件起こした。当然、長官の退職はスムーズに行われた。とはなったものの、1年後に電撃で復帰した。この暗いご時世の中で就いた者は次々謎に他界するか、怖気付いて辞めていったからだ。
一方で風音は白龍と通話で連携を取りながら禁書探しをしていて、拡大を続ける大分県現地で風音と黒猫の迅、もう一人は緑川探偵事務所にいたツクモという女子高生風の風貌をしているが、実情は人形に魂が宿ったいわゆる付喪神である。真っ白い髪の毛の存在と、真夏の紫外線が肌に刺す、最も都心部の中を歩いている。
「生憎、主である緑川探偵は別件で不在ですが、わたしめが迷宮を解きましょう!」
気だるそうな迅は風音の右肩で半分溶けながらかすれた声で返答する。
「期待してるよ。変な人だけど」
「そうだね」
風音もだるそうだった。本当にこんなのが探せるのだろうかと、ソーダのアイスをかじる。
「悪魔でも情報は内密で、うっかり大声で、これどこですか!! など言わないように」
「ラジャー!」
心配になるほど得意気に敬礼のポーズを取り、数歩遅れてから早歩きで追いつく。