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file2 グランピング婚活殺人事件 5話


 夢の中で流れているこの曲……

(これは……カーペンターズ?)

 僕の記憶が確かなら、『青春の輝き(Ⅰ Need To Be In Love)』か。


 事件解決に向けて見る夢は、時々、聞こえてくる曲が事件の糸口になっていることがある。


 ピーナッツの殻が落ちているバーは、いつもと同じ景色が垣間見え、マスターのしゃがれた声も何もかも同じ景色なのだが、流れているこの曲の歌詞だけが何かを警告するかのように耳に入ってくる。


 I know I need to be in love

 私には愛が必要だとわかってる


 I know I wasted too much time

 多くの時間を無駄にしたこともわかっているの


 I know I ask perfection of a quite imperfect world

 私は不完全な世界に完璧を求めている


 And fool enough to think that 's what I'll find

 運命の人を見つけられると思うほど愚かだ


(まさか、恋……がキーワードなんか?)


「お・そ・い! やっと来た」

 もう一人の僕が眉根を寄せながら、僕を出迎えた。

「薬なんて飲むから、身体に負担がかかったんちゃうか? 入眠するの辛かったやろ?」と彼は息がかかるほど、僕に顔を近づけて怒った。

 

 彼の言う通り、眠る直前、確かに身体はだるかった。

 頭痛がして、息も浅く……眠るというよりも、いきなりシャットダウンしたかのような入眠だった。

 それが東伯のおじさんが調合した薬のせいかどうかまではわからないが、気分の悪い眠りの入り口だったことは確か。

「まあ、今回は期待してへん……まだ死体が見つかっただけやもんな」

「そうやな」

「ほな、順番に話してくれるか?」

 そして、彼はテーブルについた引出しから、紙とペンを出し僕に差し出した。

「まずは、この事件の登場人物……現状は、こうなってる」

 もう一人の僕が先ほどとは打って変わって目をキラキラさせ、ペンを握る僕の動向を見守っている。


 見つかったご遺体は、青田さんだった。

 浅黄さん、桃山さんに続いて三体目のご遺体だ。


《死亡》

青田桐生(30)会社役員 婚活パーティー主催者

浅黄康太(28)税理士

桃山はるか(24)看護師

《行方不明者》

黒沢勇樹(55)グランピング施設の施設長

緑川ゆみ(27)イベントプランナー

《容疑者》

赤井大和(28)広告代理店勤務

白木優一郎(27)医師

紫野純絵(28)作家


「本当にこれだけなんかなぁ?」

「これだけというと?」

「この八人だけなんか? 今回の事件にかかわっているのは?」

 コイツが意味不明なことを言うのはいつものこと。

 だけど、コイツが僕の潜在意識の一部だとしたら、この疑問符にも何か意味があるに違いない。

「他に誰かおらんかったんか?」

「他?」

「だって、この八人はアリバイあるんやろ?」

「そうや。アリバイがある」

 そういえば、先ほど白木と赤井の昔話に出てきた青田の恋人の話。

 緑川にいじめられていたとかいう……僕はどうもそれが気になっている。


「もしかしたら、他にもおるかもしれん……」

「せやろ! もっと考えてみ?」

「いやいや……おまえも考えろや!」

「はぁ? 僕が考えてええんか? 僕が解決したら、お前は何かしてくれるんか?」

 と、もう一人の僕がふふんと鼻を鳴らした。

「何をしてほしいんや……ここは僕の夢の中やぞ?」

「はぁ。お前は何もわかってない。……まあ、ええわ。案外、近くに首謀者は潜んでるんとちゃうかな……僕はそう思うてる」

「首謀者がおるということは……協力者もいるかもしれへん……ということか?」

「意外な人物がその首謀者かもしれへん」

 ……意外な人物か。

 

――そういえばあの時、紫野さんは言っていた。

「私は、今回初めて緑川さんに誘われて、ここに参加したんです」

「緑川さんとはもともと知り合いなんですか?」


 僕がそう問うと、紫野さんは頷いていた。

 紫野さんと緑川さんは、いつからの知り合いなんだろう?


「どうや? あやしいヤツがお前の頭の中にも浮かんできたやろ?」

「あやしいかどうかはさておき、起きたら確認したいことはできたわ」

 しかし、紙に書いた人物以外に、もし容疑者がいるとしたならば……それが誰で、どんな人物なのかは全く想像もつかない。

「三人も殺されたということは……連続殺人になるやん!? うひゃ! まだ誰か殺されるかもしれへんな!」

 急に喜び勇む、もう一人の僕。

 どうして、人の死をこいつは喜ぶのだろう?

「喜ぶなや……縁起でもない。お前のそういうところが僕は嫌いや」

 とつい、言ってしまった。

 一瞬、彼が悲し気に見えた気がしたが、気のせいやんな……?

 ほら、すぐににっこりと口角を上げた彼が僕の顔を覗き込んだ。

「嫌い? つれないなぁ……そんなことはないはずや。お前が僕を必要としているのはわかってるんやで」

 僕を見据えたその目は、笑っていなかった。

 夢の中にいるのに、背筋に冷たさを感じて何だかやけに身体が重い。

 束の間の沈黙の後、僕は椅子から立ち上がって彼に背を向けた。

「事件が解決したら、報告しに来てや?」

 投げかけられた言葉に、返事を返す。

「ああ。わかった」

 そして、僕はこのバーを後にした。



*************************************



 朝六時。

 カイリが目覚めると、傍には北堂が突っ伏していた。

(夢の中の重さは、いつきだったのか……?)

 窓から差し込む光で、カイリは目を細める。

「夢から覚めたのに、カーペンターズの曲が耳に残ってる……」

 夢にかかっていた『カーペンターズ・青春の輝き(Ⅰ Need To Be In Love)』のような悲しい恋を経験した人物を探そうと、カイリは決意する。


 ベッドから身体を起こし、北堂が起きないよう配慮しつつ立ち上がった彼は、昨夜、皆がお弁当を食べていた広間へ向かった。

 広間では、みんな布団を運んできたようで……白木、赤井、紫野も修学旅行生のように並んで眠っていた。


 そんな中、中戸は椅子に座ったままで眠っている。

 どうして彼女だけ椅子に? と思うがきっと布団が足りなかったのだろう。

 「私はいいので皆さんどうぞ」と言っているのを想像し、カイリの口元は柔らかく緩んだ。

「園子さん……身体が痛くなるで?」 

「ん……ぇ? あ……カイリさん? あっ、おはようございます!」

「しーっ!」

 まだ皆が眠っていることを知らせるため、人差し指を唇にかざしたカイリは視線を他三人へと向けた。

 中戸もそれを察して、両手で口元を隠す。

「あ……すみません。あの、今何時ですか?」

「まだ六時や」

 小声でカイリに時間を聞いた彼女は、椅子から立ち上がりどこかへと行こうとする。カイリが小首をかしげたので、中戸はその理由を彼に告げる。

「カイリさんが起きたら知らせてくれって、南条さんが……私、ちょっと行ってきますね。そうだ……あと、北堂さんがカイリさんの朝食を昨日夜のうちに作って、冷蔵庫に入れてあります。俺より先に起きたら食べるように伝えてって」

「園子さん、ありがとう。じゃあ、食べながら待ってるわ」

「ええ」


 

 今朝用意されていたのは、豆のスープだった。

 レンズ豆の入ったトマトのスープ。

 紙袋に入っているカイリの好きなハイジの白パンを軽くトースターで焼いて、彼は自分の朝食を用意した。とはいってもほとんどが北堂が作って置いたものを温め直すだけだ。

 そのトースターの音で目が覚めたのか、北堂がのそりとカイリのところへと起きてきた。トレーにスープとパンをのせ、運ぶ途中のカイリに声をかける。

「……悪いな。お前が起きる前に俺が起きるつもりやったんやけど……」

「いつき。起こしてもうたな。悪い」

「ええねん。昨日あれからの話したかったし」

「ほな、テラス出よか。まだみんな寝てるし」

 そこへ、南条を連れた中戸が戻ってくる。

 テラスへ出ることがわかったのか、中戸は南条と北堂に「紅茶でいいですか?」と気を配る。問われた二人は小さく頷いて、カイリの後に続いた。



 潮の香りがする宮津市、二日目の朝。

 まさか、こんなことになるとはと思っているような顔の中戸園子。

 昨日の事情聴取の報告を聞きながらカイリは、中戸の淹れた紅茶のカップを鼻先へと近づけた。

「眠っている三名のアリバイはあった。行方不明者の黒沢と緑川はまだ戻ってはいない……」

 南条がカイリに報告をする。

「いったい、犯人は誰なんや……」

「滝にあった下足痕は残念ながら、特定にはならずだ」

「あんな水場で下足痕調べたんかいな!? ムダやろ~!」

「無駄かもしれないが、調べるのが鑑識の仕事だ」

 と南条は北堂と話しながら、カップに角砂糖を五つも入れた。

 そんな南条に、中戸は目を丸くする。

「なんだ?」

 中戸の反応に気が付く南条れみ。

「……あ、いえ。糖分必要ですよね!」

「え……? 悪い、私はいくつ砂糖を入れた?」

「五つ、です」

 どうやら、無意識のうちにしでかした様子。

 頭を抱える南条に、北堂が笑いをこらえている。

「それ、私が飲みますよ。南条さんはこっちのティーカップの紅茶を飲んで下さい」

 優しい中戸に、南条も申し訳なさそうな顔をする。

「あ、いやしかし……それじゃ……」

「いいんです。私は甘いの好きなんです。それに、牛乳を入れて温め直しますから。皆さんにもパン焼いてきますね」

 さすがは園子さんと言わんばかりに、カイリは中戸を見てにっこりと笑みを浮かべた。


 しばらくして朝食会議が終わり、カイリは夢での事を思い出していた。

 きっと彼らの過去に何かあるのだろうということを思いながら、

 バーでかかっていたカーペンターズが再び頭の中に流れている。


 カイリが目を閉じて考えこんでいると、中戸が戻って来た。

 二杯目の温かいミルクティの入ったマグカップを手に、カイリの様子を伺う。

「カイリさん、まだ眠たいですか?」

「いや……そういえば、園子さんは紫野さんとずっと一緒でしたよね?」

「ええ。そうですね。私、取り調べの時も側にいましたよ」

「何か変わった様子はなかったですか?」

「変わった様子ですか……?」

 しばし、考えている中戸に南条が話しかけた。

「……私は、あれが気になったぞ。『緑川さんとは昨年偶然出会ったんです』と言っていただろう? 偶然に出会ったヤツとこういう集まりに参加するということがあるのか? よほど仲良くしていたということなのだろうか?」

 と不思議そうにする南条に、中戸が口を開く。

「そうですね……女性同士だと、ノリのいい子たちはすぐに打ち解けて、集まりでも参加するんじゃないでしょうか。たぶん……」

「私には理解できん」

「私もです……あ、でもそういえば、お弁当を取りに行った時、紫野さんが言ってました。緑川さんがいなくなって私が心配していると、彼女は心配もしないで『あの人、そういうところがありはるんです。どうせ、先にドームテントに戻ってたりするんやと思います。気にしはらなくてもええですよ』って。少しの棘がある言い方をしてました。仲が良かったというより、少なくとも紫野さんは緑川さんをあまりよく思ってはなかったのかも」

 同じ性別でも、生き様が違うと理解できないことはよくある。

「緑川が紫野を誘ったのは事実……」

 傍から見ても、明るい緑川と大人しそうな紫野がつるんでいるのはミスマッチな感じがした。だけど、そういう見た目だけで判断するほどこの集まりに参加している連中は子供ではない。

「だとしたら、良く思っていない相手に誘われて参加するか?」

 南条はさらに頭を抱えた。

 その話を聞いてカイリは何かをふと思いつき、中戸にあるお願いをした。



*************************************


『お姉ちゃん。私ね……好きな人ができたの』

 そう書かれたLINEのメッセージが仄白く、暗闇に浮かぶ。

 淡いピンク色のスマートフォンには、たくさんの可愛いチャームがついている。

 黒い手袋をはめた手が、そのスマートフォンを持っていた。


「ねえ、誰なの? どうしてこんなことを!? 私が何をしたって言うのよ!!」

 暗闇で目隠しをされ両手両足を拘束されて、叫んでいるのは緑川ゆみ・二十七歳。

 この場にもう一人いる黒手袋の人物の性別、容姿まではよくわからない。

 ボイスチェンジャーで変えた声だけが、さらなる恐怖を緑川ゆみに与えていた。


『お前も私の娘のように苦しみ、ここで命を落とすのだ』


「なっ……! 何を言ってるの? あなたの娘と私とどんな関係があるって言うのよ!!」

『関係? あるさ。お前が苦痛を与えていた可哀そうな若者は他にもたくさんいたそうだが、そのたくさん心当たりがある中に私の娘はいる!』

 だんだんとボイスチェンジャーの声の荒々しさが増してゆく。


「心当たりなんて、ないわよ!」

『嘘をつくな!!!』

「ヒイッ……!」


*************************************


 それから、中戸は広間に戻る。

 皆が目を覚まして、珈琲を飲んでいた。

「あ、皆さん。パンもあるんですよ、今、用意しますね」

 中戸が備え付けのキッチンへと向かおうとすると、紫野が後を追うように付いてきた。



※このfile2 グランピング婚活殺人事件の最終話

6話のUPは4月の予定です。少しお待ちください。 

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