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異世界で国盗り物語(仮称)  作者: 甘口神社エール
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1話:ウル神殿にて

「ここが"パンゲア"――ラィからみた、異世界のひとつにゃ。そしてそこにみえるのが"ウル山"にゃ。このパンゲアで最高峰の霊峰で、世界の中心に聳え立っているにゃ」


 ロキさんは状況を把握していないボクに、優しく教えてくれる。でも実はそれどころじゃなくて――


「ねえ、落ちてない?!これ、ロキさん、落ちてるよね、うわぁああ!!」


 ひゅーん。ロキさんがボクとフゥさんを乗せたまま図書館からワープした先は、なにもない、空のなかだった。

そのまま自由落下のスピードで、"真下"に見えるウル山めがけて飛び降りている最中だ。世界最高峰だというだけあって、近づくごとにその大きさが良く分かる。


 したことないけど、スカイダイビングする人ってこんな視界なんだろうか。ぶつかる!という気持ちに打ち勝てず、ぎゅっと目をつむってしまう。


 目をつむったまま、振り飛ばされそうな風圧に耐え、ぎゅっとロキさんの背中の毛を掴む手にめいっぱいの力を込める。

長毛のロキさんに密着すると、飼い猫のミリン(ノルウェージャンフォレストキャット)をもふもふしてるときのことを思い出して、超上空を落ちてることの怖さに加えて、気持ちよさと、もの悲しさも同時におそってきた。


(ミリン――もう会えないのか)


 ロキさんとフゥさんには聞こえないように、小さく小さく呟いた。目元に涙がたまる感覚は、怖さのせいだ。


「ねぇ、まだなの――って、落ちるよ!ぶつかるよ!」


 みずっぽい瞼を開けると、いつのまにか、視界は端から端まで山だった。超スピードで地面に激突する寸前――!


 体にかかっていた風圧が急に止んで、一瞬、ふわっと、無重力のようにロキさんごと、空に浮いた。

そしてゆっくりと沈み、ロキさんは四つ足で着地する。


「にゃんだか、ラィがわぁわぁと叫んでたけど、にゃんだったんにゃ。とにかく、着いたにゃ。ここがウル山山頂のウル神殿だにゃ」


 ロキさんが降り立った眼前には、異世界であっても一目で分かるほどの歴史を感じる屋敷があった。石造りの、城だ。

 ジャンボジェット機さえもそのまま入れそうなほど巨大な門の両端には、これまた巨大な石像が左右に一体ずつ設置されている。

 二体ともフゥさんに良く似た、まるっこいフクロウの石像だ。

 

「時空転送の大仕事、お疲れ様でした。リュツィフェール様。お二人の案内は、ここからは私が致します。」


 フゥさんが肩からぱたぱたと飛び立って巨大な門の前へ行くと、ひとりでに門が開き出した。


「"ここ"からはにゃあはゲストだにゃ。フゥ"さん"、よろしくたのむにゃあよ」


「ここって、フゥさんの、おうち、なの」


 ぱたぱたと門から城までの一本道を飛んで先導するフゥさんが、進行しながら後ろを向いた。器用だなあ。そういえば鳥の視界は角度が広いんだっけ。


「そのようなもの"さね"。当面はラィとロキ"さん"、お前さんがたの寝所でもあるよ」


 口調が、すっかりとロキさんが現れる前に戻っていた。ロキさんもそれが当然というような素ぶりだ。

 ロキさんのさっきの"ゲストになった"、というのが、上下関係というか、ふたりの関係性を切り替えたポイントなのだろうか。こうした異国の礼儀やマナーには口を出さないのが、最低限の世界共通のしきたりだろう。


「しっかし、大きくて、綺麗だねえ」


「お前さんが気に入ってくれたら、なによりさ」


 遠目には歴史を感じた石造りの超巨大建造物は、逆に近づくごとに艶やかな印象が強まっていった。大昔に大理石だけで建てられ、そのまま欠けひとつなく大切に保存されているような古くも新しい感覚だ。


「さあ、ようこそウル神殿本殿へ」


 案内された建物の中は、外見以上に広いように思えた。いくつかの階段と通路を渡った時間は小一時間ほどもかかったんじゃないだろうか。

 ようやく通された本殿の中央には、 五つの、大きな――それぞれ人の大人くらいありそうな縦長の――宝石が並んで浮遊していた。

 一番大きい真ん中のひとつだけ白く輝いていて、他の四つは色を失ったように暗い。


 ――この白く輝いてる宝石、すごく綺麗だ。


「気になるやね」


 宝石の白い光に魅入られていたようで、フゥさんにかけられた声に思いのほかビクッと驚いてしまった。


「まぁ、これだけ意味ありげに飾られていたら、ね。あ、それぞれ紋様も刻まれてるんだ――白いやつに刻まれてるのは、"それ"と、同じ?」


 少し見上げるように宝石にやった視線の先に、本殿の天井を埋め尽くすように大きな紋様、魔法陣のような、絵画のようなものが描かれていた。

 宝石自体が白く輝いてるのでそれに刻まれた紋様はハッキリとは見えないものの、雰囲気は殆ど同じように見えた。


「そうさね。とても大切だからね。覚えておいてくれよ、"ウル紋様"さ」


 ウル山ウル神殿のウル紋様――紋様は複雑だけど、名前は、覚えやすくて良いな。しかし、本当に綺麗だ。


 それに、温かい――「えっ?」


 気づくと、紋様に夢中になるあまり、白い宝石に触れていた。それ自体が発熱しているようなぬくもりを感じた瞬間、宝石がひときわ強く輝き、触れた左手そのものも発光しはじめた。


聖痕刻印(スティグマ)が済んだね――話が早いのは良いことさね」


 先導して前を飛んでいたフゥさんが左肩に戻ってきた。左手はすぐに発光が止み、代わりに手の甲に白いウル紋様が刺青のように刻まれた。

 痛みや熱はない。紋様の筋を右手の指でかいてみても、他の皮膚となんら変わらない。


「"クリスタル"がお前さんを認めたのさ。まあ、あたしが選んだんだから当たり前さね。」


「これがクリスタルなんだね」


 少し嬉しそうな声色のフゥさんから出てきた単語、"クリスタル"。ファンタジーゲームの鉄板だ!たしかに言われてみると、それらしく見えてきた。


「そして、その手の甲の紋様はこの世界の民にとっては信仰の対象だけど、クリスタルに認められたお前さん自身には実用的な効能も多い――紋様に触れながら"ステータス"と唱えてみなさ」


「"ステータス"――」


 掛け声に紋様が反応して小さく光り、プロジェクターのように可視光線を発して、目の前に見慣れたインターフェースのステータスページを表示しはじめた。


「ベーシックステータスページ」


公開名:「未設定」(真名:小此木 雷央)

 

レベル:1


ステータス:

最大HP 10

最大MP 3

物理攻撃力1

魔法攻撃力1

物理防御力3

魔法防御力2

精神耐久力50

俊敏性 3

罠耐性 0

敵愾心耐性 5


スキル:

恒常:熾天使リュツィフェールの加護、ウル紋様

発動:ステータス、スキャン、クラウド


いくつか少し分かりにくい情報があるが、そこを触れると補足情報が表示された。


精神耐久力:攻撃的な精神魔法への耐久力

敵愾心耐性:敵から狙われにくくなる

スキャン:消費MP1。対象のスキャン用ステータスページを開く。

クラウド:消費MP1。PTメンバー間でアイテムと一部のスキル、バフを共有できる異空間ストレージを開く。


――などだ。熾天使リュツィフェールの加護とウル紋様は長々しい補足情報も表示され、さらに補足が必要な部分だらけで一旦読むのを諦めた。


「公開名っていうのは、決めておいた方が良さそうだね」

未設定と表示された部分に触れると見慣れたキーボード式の入力画面が表示された。

「ラィで良いにゃ。ラィにするにゃ」というロキさんの強い要望により、ラィと打ち込み決定する。


公開名:ラィ(真名:小此木 雷央)


 問題なく設定できたようだ。

とにかく実質今使える魔法――スキルは、対象の解析をするスキャンとクラウドのようだ。これがどれだけ有用かは状況によるのだけど――


「"スキャン"」


 物は試しと、そのまま紋章に触れながら、スキャンを唱える。リストが表示され、フゥさんとロキさんをそれぞれ選んでみた。


公開名:フゥ

種族:風梟(ふうろう)

 

レベル:5000


ステータス:

最大HP 10000

最大MP 30000

物理攻撃力5000

魔法攻撃力5000

物理防御力5000

魔法防御力5000

精神耐久力5000

俊敏性 10


公開スキル:

常時:ウル紋様

発動:癒しの風、亡び(ほろび)の嵐


一目でぶっとんでることが分かるフゥさんのステータス値が表示された。


「お前さんのスキャンは特別製さね。元は自分と同格程度までの相手を観察するスキルだけど、ウル紋様の力で、破格の対象の広さを持ってるさね。

 いくつかのステータスはパーティメンバーに公開するかどうかを設定できるよ。人に教えたくない項目もあれば、持っていることを知っていて欲しいスキルもあるからね。」


公開名:リューツィフェール

種族:天使、猫


レベル:非公開


ステータス:

非公開


ロキさんもまた、別の意味で不穏なステータスだ。何も分からない。あとやっぱり猫ではあるんだ。


「うぅん――ああ、気にするにゃ。まだおみゃあさんのスキャンの熟練度じゃあオレのステータスを正確に読み取れてないだけにゃ。いつか見えるようになるにゃよ。

 現状でもおみゃあさんのスキャンが効かない人間はいにゃいだろうけどにゃ」


「熟練度ってことなら、色んな対象に使っていけば良いのかなー――うん?なに、これ」


 ひとまずスキャンのリストを閉じようとしたところ、それまでフゥとロキの2列しかなかったリストがずらっと一気に増えていく。これまで無人のように見えた神殿の住人だろうか。


「フェニ、ガイガ、ヴィーズ...フゥさん、知ってる?」


 リストは増え続け、最初に表示された三つの名前を伝えるとフゥさんが飛び上がった。


「しまった!やつら、もう来たよ!ロキさん、雷央様に結界を!」


「もう張ってるにゃ」


 ロキさんの返事に合わせたように、パリン、パリンッ!と本殿の高い壁に貼られていたステンドグラスが一斉に割れた。数えきれないほどの何かが、すさまじい速度で部屋の中央、"ここ"に向かって飛び込んできた。

 

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