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異世界で国盗り物語(仮称)  作者: 甘口神社エール
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プロローグ:一人と一羽と一匹の出逢い

 気がつくと広大な図書館のような空間で横たわっていた。とりあえずむくりと起き上がって周りを見渡すと、やっぱり沢山の本があった。地平線さえみえるような広い空間にずらりと本棚が並び、見たことのない字でタイトルが書かれた本が敷き詰められている。現実感のない、それでいて確実に夢でもない不思議な感覚の空間だ。


 自分の名前は、小此木(オコノギ) 雷央(ライオ)。今日から、高校一年生。


 うん、落ち着いて、自分のことも分かる。


 本当にここはどこだろうか。高校の入学式からの下校の途中――までの記憶しかない。そういえば、下校の途中に見慣れない何かを見かけたような。


「やっと目覚めたようだね」


 そうそう、今、目の前の足元でしゃべりかけてきている、この白い、ところどころ緑がかった太った鳥――フクロウ、かな。これを見かけたんだった。


挿絵(By みてみん)

(仮イメージ)


「なんだね、黙りこくって。それとも目を開けたまま寝てるっていうのかい。」


 なんだか、昔みたアニメの、おばあちゃん海賊みたいな喋り方だ。


「起きてる、よ。君は誰で、なにで、ここは、どこなの」


 得体の知れないフクロウにいきなり少し馬鹿にされたような言い方をされて、自分でも分かるくらい不機嫌に応答した。


「あたしは、フゥ。"物知り"フゥさんとだけ覚えておけば、とりあえずそれで良いよ。そしてここは、見た通りの書庫(ライブラリ)さ。聞きたいことはそれだけかい」


 ――なるほど、分からん。それでもこのフゥさんは自分で物知りというだけあって、聞けば答えてくれるようだ。


「ここ、知らないところだし、下校の途中で気絶させらたのかな。とにかく僕はあなたか、あなたの飼い主に誘拐されてるっていう認識で良いのかな」


 フクロウがなぜ会話できるのか、という根本のところについては、聞いてもしかたない気がしたのでスルーすることにした。


「――」

 ふと、フゥさんの丸いまなこが、もっと丸くなってこちらを見つめているような気がした。


「――そうさね。私がお前さんをここに連れてきた。それが事実さ。誘拐という表現は、心外だがね」


 それまで快活だった声色が明らかに穏やかになった。なんだかこちらを怖がらせまいとした気づかいのようでさえある。


「誘拐、じゃない、なら、なんだと言うの。」


 優しい気づかいを感じたとはいえ、現状を把握できているわけではないので、なんだかどうしようもない言い方をしてしまった。

 フゥさんはやっぱり少し言い淀むような仕草をみせている。


「――本人が覚えてないことをあえて伝えるのも、良い気はしないもんだね。お前さん、死んだんだよ」


 ――え?


 あ、そうだ。フゥさんの言葉をきっかけに、僕はフゥさんと出会ったときのことを鮮明に思い出した。

 志望校の入学式を終えて、新しい友達とのやりとりが楽しくて歩きスマホして、石かなにかにつまづいて、車道にころんで、そしてそのまま車に轢かれたんだ。即死だったんだろう。


 フゥさんは、"その後"に出会った。記憶を辿ると、目の前にフゥさんがいたときには、足元に自分の遺体があった。魂、霊、ともかく死んだあとにそういうものになってからの出会いだった。最も、そのあとすぐに改めて意識は失っていて、事故の部分の記憶は飛んでいたのだけど。


「そうか、すっかり思い出した。ありがとう。じゃあ、フゥさんは死神か天使で、ここは死後の世界、なんだね」


 先ほどまでは不審者に話しかけられていたように身構えていたものの、死んだ後だと実感すると、逆にすっかり安心できた。


「まぁ、誘拐云々よりはよほど近い認識さね。ただあたしは死神でも天使でもなく"物知りフゥ"で、ここは死後の世界というよりは、お前さんの言葉で言うところの"異世界"の入り口さね」

 

 ――異世界。その単語で、ハッとした。そうかこれ、異世界へ行く流れだ。ネットのノベルやコミックで流行している王道ファンタジーに踏み入れたことを自覚すると、死んで魂となっているのも、フクロウがしゃべるのも、不気味なくらい広いこの空間も、むしろ馴染みのあるようにも感じてきた。


 僕が何度もちいさくうなづきながら現状把握している様子に、フゥさんもあわせてうなづいているようだった。


「理解も受け入れもしたみたいだね。話が早くて助かるよ。――じゃあ本題だね。これからあたしと異世界へ行って、そこである国の王となる試練を、ともに受けてほしい」


 ――急な提案。つまり、フゥさんの騎士になれ、みたいなことかな。フクロウの年齢は分からないけれど、これから自国の王位を目指すならそこまでの年令じゃないんだろう。おばあちゃん海賊って言って、ごめんなさい。


「楽しそうって気持ちの方が強いから手伝っても良いんだけど、自分で言うのもなんだけど、こんななんの取り柄もない子どもを騎士にしても大丈夫なものなの」


 正直な気持ちをそのままぶつけてみた。勉強も体力も、頑張ってきたけれど、全体でみれば平凡な程度だ。特に超人めいた知謀で軍師となる――みたいな"ルート"は絶対に通れない自信がある。


「――まだ少し勘違いがあるね。いやさ、これはあたしの言い方が悪かったね。王となるのは、あたしじゃなくて、雷央(ライオ)、お前さんだよ」


 そっち?!騎士じゃなくて王を目指す"やつ"かぁ。そのジャンルも名作ばかりなんだけど、いざ自分のこととなると、こう、荊の道感強いなぁ〜。スローライフみたいなやつを想定していたんだけどな。


「う〜ん。結局のところ、もう死んじゃってるから、出来そう、出来なそう、で、やるかやらないかを今判断するものでもなさそうなんだけど、フゥさんはあくまで僕自身の同意というか、決心を求めてるんだね」


 もし、ここでやらない。と決めたら、どうなるんだろうか。ここではない死後の世界に送り直されるのだろうか。それともこの霊魂の状態が雲散霧消するのだろうか。はたまた生き返るのだろうか。なんだか聞いてしまったらなんにしても後戻りできないような気がして、直接そこにはふれなかった。


「そうさね。お前さんが王となるかどうかの話さ。お前さんが決めて、あたしが手伝う。"手伝わせてほしい"。そういう話さ」


 言葉と口調の強さに、きっとフゥさんにはフゥさんの深い、それでいて話しづらい事情があるのだろうと感じた。

 フゥさんは隠し事をしている上でも、真摯で、嘘のない気持ちが伝わってきた。


「――うん。分かった。やってみよう。とにかく、やってみよう。」


 具体的な内容はなにひとつ分からいまま、話を引き受けることを決めた。頭のどこかでは詐欺とか陰謀とか、そういうのかもしれないと冷静に見ながら、それでもフゥさんの言葉と姿勢には信頼足るものがあると心が訴えていた。


「良かったよ。――本当に、良かったよ。なら、必ずあたしがお前さんを唯一無二の真の王にしてみせるよ。それじゃあ早速だけど、そこの机の上にある本を手にしてくれたまえよ。」


 フゥさんが視線をやった先に、ふと気づくと、先ほどまでなかったはずの簡素なテーブルが現れていた。不思議だけど、無限とも思えるような四方に広がる本棚の"圧"に比べれば、そのくらいの不思議は気にするほどのことでもなかった。


 テーブルの上に、一冊の、百科事典ほどの大きく分厚い本が置いてあった。


「これだね。――あ、この文字、読めるようになってる。"熾天使、リュツィフェール、の、加護"。これって――「本当かい!本当に、リュツィフェールと、そう書いてあるんだね?!」


 いきなり感情を昂らせて話をさえぎってきたフゥさんに若干引きながら、もう一度本のタイトルをゆっくり読み直してみて、「間違いないよ」と答えた。


「その本は、手にしたものが聖なる存在から加護を受けられる聖遺物(レリカリ)の本さ。この聖遺物図書館レリカリ・ライブラリーを治めるあたしからのプレゼントさね。そして、手にした者の素質によって加護する存在が決まる――要は、表題(タイトル)と"効能"を変えるのさ。」


 引き続き興奮ぎみに、まくしたてるフゥさん。


「この、熾天使、リュツィ、フェール、は、じゃあ"当たり"の加護なんだ。」


 表題を指先でなぞりながら、聞き慣れない言い慣れない音をゆっくりと口にする。


 パラパラパラ――


 ふたたび表題をなぞり終えるのと同時に、ひとりでに本が開いた。そして、"魔法のランプ"のように、本の中から煙が吹き上がる。「うわ」――とっさに本から手を離し、一歩後ろに引いてしまった。


「"当たり"なんてもんじゃあないよ。――この無数無類の聖遺物を収納する図書館において一番強力な加護であって、つまりは世界一等の加護なのよ」


 これを聞いて、ラッキー。と単純に思えたら、楽だったかもしれない。明らかにフゥさんの声色が、それまでと変わって、畏怖というか恐怖というか、そういうものの類が染み出しているのがすぐに分かった。


「その加護を過去に受けたものはたった二人しか、歴史上に記録されていないさね。一人はある世界を統べた最初の大王に、もう一人は別の世界を滅ぼした魔王になったのよ。それももう――ものすごく昔の話なのだけどね」


 フゥさんの話が終わるころには、本から噴き上がる煙がゆっくりと晴れていく。やっぱりというか、魔法のランプから現れる精霊"ジン"のように、それがいた。


「――にゃんだぁ。ずいぶん久しぶりに呼ばれて出てきたら、今度のあるじは、もやしみたぁな子どもだにゃあ」


挿絵(By みてみん)

(仮イメージ)


 ――猫?ネコだ。キャットだ。黒ぐろとした綺麗な毛並みの、抱きかかえきれないくらい大きい黒猫だ。サイズはトラほどで、背中に乗ってしまえそうだ。しかし、トラくらい大きいネコって、トラとは違うのだろうか。


「ご無沙汰しております、リュツィフェール様。聖遺物図書館長のフゥでございます。そしてこたびの我らが主、小此木 雷央様です。リュツィフェール様のお力添え、是非ともよろしくお願いいたします」


 フゥさん。さっきまでの"きっぷ"の良い喋り方だけじゃなくて、そんなにかしこまった喋り方もできるんだ。というか、一応主人だと言ってくれた僕に対するよりも明らかにかしこまっているんだな。

 見るからに緊張している様子だ。


「フゥも久しぶりだにゃあね。しかし、んん、主、呼びづらい名前だにゃあ。ラィ。ラィと呼ぶにゃ。代わりにワガハイのことはロキと呼ぶが良い、にゃ。これまでの主にはそう呼ばせてきたにゃあよ」

 

 対して奔放なリュツィフェール様。結構強引に、あだ名をつけるタイプなんだな。もとい、ロキ様。様もいらないのかな。ロキさん、かなぁ。


「――はい。とりあえず、分からないことばかりなので、色々教えて、くだ、さい。ロキ、さん。」


 "加護を与える存在"が親しみ深く声をかけてきたときに、どういう表現が正しいのかが分からない。片言の敬語のようなもので、話しかけてしまったが、特に不快にしたということもなさそうだ。


「とりあえず、"ここ"から移動するにゃあ。ラィ、フゥ、背中に乗るにゃあ」


 やっぱり、乗れるんだ。おづおづと近づいてロキさんにそっと触れると、シルクよりもすべすべで触り心地の良い毛並みに、気持ち良すぎて背筋にゾワっと一筋の冷たいものが走るほどだった。


「ほいにゃ」


 ロキさんが体勢を変えて膝を折り、乗りやすくしてくれる。「よっ」と、またいで、乗り込んだ。そして、ぱたぱたと飛んできたフゥさんは、ロキさんに座るボクの左肩に止まった。止まられている感覚はあるものの、重さは全く感じない。


「ほいじゃ、行くにゃ」


 ロキさんがすくっと立つと、少し背中がゆれて体勢がふらついたが、すぐ乗馬のような姿勢で落ち着いた。とはいえロキさんは猫なので掴まれるような長い首はないのだけど。


「お願いいたします、リュツィフェール様」


フゥさんは引き続きかしこまったままだ。階位というか身分のようなものの違いは大きそうだ。

うなづきながらロキさんが、ずんっと、大きく一歩、ゆっくりのっしりと前進する。そのまま二歩目――とはならなかった。ぴたりと動きを止めて、器用にこちら、というよりは、背中のフゥさんの方を振り向いた。

 

「――?ところで、どこに行くのかにゃ」


「もうっ!――こほん、失礼いたしました。"パンゲア"の"ウル山山頂"でお願いいたします。」


「そうだったにゃ――じゃあ、改めて――行くにゃ!」


 フゥさんとボクをのせたロキさんが力強く跳躍すると、目の前に"ブンッ"と不思議な空間が現れて、そのまま飛び込んだ。ワープだ!



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