置き捨てられ棄てられた猫神様は背景モブの自分に寄生したい
※ 昔書いたやつを応募用にぶったぎった奴です。
それは有る日の事だった。
「さむっ……」
体を震わせながら空を見上げる。
空からは粉雪がフワフワと舞い降りていた。
雪は自分の前を走る自動車のヘッドライトを光を浴びダンスを踊ってるように見える。
季節は冬。
まだまだ寒い季節だ。
吐く息が白い。
その日も何時もの様に仕事を終え自分の家に帰ろうと歩きはじめる。
懐から煙草とライターを取り出し火をつける
フウ——……。
白煙を吐き煙草を堪能する。
咥えた煙草は褒められた行為ではないが止められない。
ミーミー。
ミーミー。
寒さに震えて鳴く声が聞こえた。
誰かが餌を与えたんだろうガツガツと何かを食べる音がする。
捨て猫だろうな。
餌を食べる時に何か紙の様なものを引っかく音がする。
段ボールかな?
捨て猫の定番だ。
段ボールに入れられて棄てられたんだろう。
恐らく生後間もないのだろう鳴き声から幼さを感じる。
生憎自分の家は実家暮しとは言え新築して三年。
実家では猫を飼えない。
猫は家を傷めるからだ。
一度飼っていた時期が有るが柱や畳がボロボロにされたのは良い思い出だ。
此れが新築する前だったから良かった。
そうでなければ家を建てた両親が怒り狂ってただろう。
但し今も生きてればと続くが。
二年前の冬。
父親が心不全で死んだ。
突然だった。
そして母も後を追うように死んだ。
そして広い家で自分は一人暮らしをする羽目に成った。
妻は居ない。
縁が無く自分の所に嫁いでくれる人は居ない。
いや居たか。
嫁いでくれそうな奴。
まあ両親が無くなり荒れてて結局別れたっけ……。
今思えば申し訳ない事をした。
あいつは人懐っこい笑みを浮かべ笑って許してくれたから良いけど。
寂しい。
そんな感情は有る。
しかし四十代もなって最早自分には縁が無いと諦めてる。
あいつが最後の縁だったんだろう。
ミーミー。
弱々しい声が聞こえる。
食べる音がしないという事は餌が足りなかったんだろうか?
あ~~。
ガシガシと頭をかきむしる。
「餌だけでも良いか」
家では飼えないがせめて餌だけでもやるか。
そう思いながら捨て猫の方を見てみた。
『棄て神です拾ってください』
そう書かれた段ボールの中に少女が居た。
新聞で出来た服を着た少女が。
しかも猫耳。
ピクンッと動くところを見ると付け耳ではないみたいだ。
彼女はキャットフードの残りをカリカリと齧ってる
「……」
思わず沈黙した。
目を逸らし再び煙草を吸う。
「ゲフッ!」
無意識にフィルターまで吸い込んだらしい。
火のついた煙草を棄て足で消す。
再び段ボールを見る。
其処にはやはり少女がいた。
しかも猫耳。
……。
疲れてるのかな~~幻覚が見えるんだけど……。
嫌な汗が流れてるのを感じた。
思わず硬直している自分。
自分を何事かと見上げる少女。
新聞紙で作られた服は防寒対策には不向きらしく寒さで震えている。
それよりも幼いとはい新聞紙で覆われてない異性の体を見ていたら自分が犯罪者になった気がした。
というか一部だが肌が見えるので犯罪者と罵られても仕方ない。
酷く自分が汚れている気がする。
そんな時だった目が合ったのは。
『御飯をくれるの?』
そんな期待にも見える目で見られた自分は酷い罪悪感に駆られた。
「そういえばキャットフードはコンビニでも売ってたな」
先程やろうとしていた行動を思い出した自分は近くのコンビニに走って駆け込んだ。
十分後。
「有難うございましたっ!」
コンビニのバイト店員の声を聴きながら鮭の御握りを二つと牛乳に紙の皿を買う。
牛乳は温めて貰った。
「江戸さん今お帰りですか……って何を買ったんです?」
自分に声をかけるコンビニの店員の姉ちゃん。
以前勤めていた会社の元後輩だ。
たが職場の空気が合わず直ぐに辞めて此処でバイトしてる奴だ。
因みに元カノです。
色々あって別れましたが何故かそれでも自分に構ってくる人懐っこい奴だ。
「キャットフードと牛乳だけど」
「牛乳は分かりますけどキャットフードって江戸さん猫を飼ってましたっけ?」
「いや~~あそこの捨て猫にやるやつを買ったんだよ」
「あ~~あいつですか~~あいつ昼間も結構食ったのにな~~」
自分が指さした方を見て眉を動かす元後輩。
「御前があいつに餌をやってるのか?」
「今日だけですよ~~もう三回やってるのにまだ食い足りないみたいですね」
「だろうな」
「はあ?」
「いや……何でもない、なあ」
「何です?」
「あれは子猫だよな?」
「はあ? 黒い猫ですけど……それが何か?」
「いや何でもない」
変な顔をされた。
段ボールに置かれていたキャットフードをやったのは此の元後輩らしい。
やはり捨て猫か……。
人では無いよな?
どうも仕事の疲れで幻覚が見えてるらしい。
猫が人に見えるなんておかしいよな。
そう思いながら再び段ボールを見る。
ミーミー。
鳴き声は猫。
しかしやはり目の前には少女がいた。
幻覚だよな……。
期待に満ちた目に耐えられない。
コンビニの御握りの包み紙を破り紙の皿に置く。
御握りを置いたら別の皿に牛乳を注ぐ。
「美味しいいいいいいっ!」
ガツガツと自分が渡した御握りをガツガツと食べる。
喋った。
遂に幻聴が聞こえ始めた。
人の言葉を喋っている。
精神が病んでしまったのかな?
明日病院に行こうか?
脳外科で良いかな?
それとと精神科に行った方が良いかな?
「御免ね~~自分の所では飼えないんだ」
頭を撫でる。
やはり此の感触は人の頭だ。
猫耳の付け根を触り本物だと確信する。
とうとう触感まで幻覚が及んでるみたいだ。
現実逃避をしたくなった。
「有難うございます」
「御粗末様」
だからウッカリしていた。
少女の御礼の言葉に思わず返事をしていた。
それが幻覚だと思っていても御礼を言われたら思わず条件反射で返事をしていた。
習慣だ。
目の前で人の姿をしてるのだ。
御礼を言われたら返事をするのは当然だ。
そして此れが運の尽きだった。
「ヴェ!?」
目の前の少女が驚愕の言葉を上げたのは当然の事だった。
やべっ。
嫌な汗が出る。
何やら唖然とした顔をした少女が居るが気にしないでおく。
その寒さに震え先の無い未来に絶望し塞ぎこんだ顔が希望に満ち溢れたものになったのは気のせいだろう。
自分には何も見えない。
目の前に居るのは唯の子猫だ。
我が家では猫は飼えないのは決定済みだ。
だから目の前の猫が人間ぽくても関係ない。
知らんぷりして帰るか~~。
ズザザザッ!
「今日の御飯は何にしようかな~~」
此れでも小学生時代は短距離走の江戸さんと言われたんだっ!
「待ってくださいっ!」
ダッシュで逃げる自分に声をかける少女。
ヤバイ。
面倒事の予感がする。
突然斜めに進行を変える。
唯の勘だ。
それは正しかった。
但し自分がもう少し足が速かったらだが。
ガバッ!
少女が飛びついてきたのだ。
但し最初は自分の胴体を狙ってたのだろう。
少女の体勢が崩れて足に狙いを定めなおしたみたいだ。
ガシッ! 足にしがみ付く柔らかい感触に嫌な汗をかく。
捕まった。
此の柔らかい感触は普通の男なら喜ぶべきだろう。
だが面倒事の予感しかしない自分には嫌な感触でしかない。
「あ~~疲れてるのかな足が重いな~~」
なので知らないふりをする。
「ちょっとおっ! 私の声が聞こえてるんでしょうっ! 無視しないでっ!」
少女の言葉を無視して歩く。
「いやあああっ! 話しを聞いてよっ!」
「あっ! そうか今日雨が降って泥濘が出来たんだっけ」
「無視するなっ! 聞こえてるんでしょうっ! ねえっ!」
片足が重いが気にせずに歩こうか~~。
気の所為だよな。
足に誰かが、しがみ付いて何かいないさ。
「人でなしっ! 話しを聞いてよっ!」
「はっはっはっ~~餌の御礼は良いからじゃれつくなよ~~ニャンコ」
多分傍目で見たら猫が餌をくれた自分にじゃれついてる様に見える……筈っ!
だから実際は必死の形相で自分に縋りつく少女などと誰も思うまい。
何だろう自分は悪くない筈なのに良心が痛む光景は。
親切で御飯と牛乳を上げただけなのにな~~。
「あれっぽっちの対価で私を散々弄んだ癖に用が無くなったら棄てるのねっ!」
「こらああっ! 人が聞いたら誤解を招く様なことを言うなっ!」
思わず少女の話しの内容が酷かったので大声で反論した。
それがいけなかった。
「江戸さん~~何やってるんですか~~」
コンビニから元後輩が出てきて此方に目を向ける。
ジト目で。
「……」
思わず引きつった笑みを浮かべると少女を強引に引き離す。
「え? もぐっ! きゅう~~」
戸惑う少との口をふさぎ首の後ろを叩いて気絶させる。
思わず猫耳の少女を抱きかかえ一目散にその場を逃げ出した。
傍目で見れば唯の誘拐犯だな~~。
泣きたいんだが……。
「江戸さん猫を飼う気になったのか……まあ良いけど」
その光景を唖然として見送り呟く元後輩だった。