第27話:元男子の妊娠リスク
「望まない妊娠をして苦しむのはいつの時代もぼくたち女子なのにね」
良太が不満そうに言った。医学が発達した現代でさえも安産、早産、死産などの言葉があるように、死亡リスクは決して0ではない。だから妊娠リスクとは…最悪の場合は母子の死にもつながるとても危険なことなのだ。
「ホテルとか絶対に嫌だし、わたしもその後のこと考えちゃうからお金もらってもついていこうとは絶対に思わないけど…」
援助交際の話…明人が話をつづけた。
子どもが欲しいとも、いまさら男の人の裸を見たいなどとも思わないので、愛のない…お金だけの関係にどんなよさがあるのか全くわからない。誰かを好きになったらキスぐらいならしてみたいが…竜二達にはその先はいくら大金をもらおうとも、ありえないことだった。
「…ストレスとかあると、お金もらえるならって思っちゃう子も実際いるらしいよー。高校生の元男子はT-VIDとか複雑な学校生活で日々のストレスから承認欲求に飢えているってのは専門家の人たちがよくいう話だしー…社会的に活躍できるのってどうしても大半が男子でしょ?わたしたち女子が周囲から能力で認められることって男子と違ってなかなか難しいってわたし思うんだよねー」
明人が言うように医師、弁護士、政治家、経営者、そしてTV局や新聞社のマスコミから発明家…社会的地位の高いありとあらゆる職業を男性が占めているといって過言ではない。元女子と違い、体力的な差もあるし、本来、違いのないはずだった勉強の成績だって性別適応特別講習の弊害で年々、元女子に離されている気がする。悔しく悲しい現実だがT-VID後の元男子である女子の立場は明人が言うように弱いのである。
「そうだよね。ぼくたち女子って…周囲からマウンティング女子とかいわれないようにする必要あるし…なにかと制約多いよね」
良太が複雑な表情で同意した。
本来、ただでさえ立場の弱いT-VID感染者の元男子は、同性で足の引っ張り合いなどしている場合ではないのだ。いくら偉そうな学者から、生物学的な特徴からやむを得ないという説明があったからとはいえ…そんな男の言葉を素直に信じて諦めてしまっている元男子も元男子である。性別適応特別講習を通じて『マウンティング女子』という概念を植え付けた大人たちを今の竜二は許せそうになかった。
「そんなときに…たとえ身体目的だけでも…『わたしのことを認めてくれる』、『わたしのことを気にかけてくれる』って男は…魅力的にうつってしまうことがあるらしいよー」
「マジかよ?そんな理由で……その…あんなこと男とするのかよ…おれ、それマジ理解できない」
「竜ちゃんはそうかもだけどーそういう話らしいよ。もちろんわたしだってそういうことは怖いし、理解できないけど」
「でも、ぼくやっぱり男の人ってちょっと嫌いかもっ。そういうことって男だってリスクないわけじゃないだろうし、お金出してまでそういうことしたがるなんてぼくぜんぜん理解できない。クラスの男子だって…なんかすっごくエッチなこと平気で話すしっ」
良太が不満そうに言った。
教室では聞いているだけで恥ずかしくなるような猥談をする男子もいる。だから、クラスの男子たちはそういうエッチなことに夢中らしいことは竜二も知っているつもりだ。
「女とやりてぇー」
「動画じゃ飽きちゃうしな!」
「何言ってるの?。そういう動画だって奥深いんだよ!フェチって言葉理解してないよね!?」
卑猥な言葉を話しながら、愚痴をいいつも、そんな猥談で子どもの用に楽しそうにはしゃぐ男子たち。竜二はそんな男子たちの話を聴くたび、耳を疑い顔を真っ赤にしている覚えがあった。
そういうことは汚らわしく思えるし、恥ずかしいし、痛そうだ。それから、とても怖い。
「そりゃおれだって…そういう動画は楽しんでるぞ…スク水とかコスチュームプレイとかもありだし!」
「あぁ、スク水っていえば…昔の人はいいよなぁ…あんな漫画や動画でしかみたことねぇような…水着…本当に一度でいいからリアルでおがんでみてぇよ」
「ブルマとか…スク水とかエッチな漫画じゃ定番だけど…旧世紀の遺物だしね」
竜二だってそれがどういう衣装を示すのか…言葉の意味ぐらいわかる。…が…大昔の女子の体操服であるブルマにしろ、今のスパッツ型のスクール水着とは違い太もも丸出しの…昔のワンピース型スクール水着にしろ、竜二たち現代女子高校生からは理解できない代物だった。
そもそもどうしてその時代、学校に性欲の対象となるような衣装を半強制的に持ち込んだのかわからない。それは現代の女子制服のスカートだって同じなのかもしれないが…わざわざそれである必要はなく、ブルマや昔のスクール水着は、スカートとは別次元の男が喜ぶだけのいやらしい衣装だという思いがあった。
自分も男だったらそういう女子の衣装に夢中になっていたのだろうか?
絶対違う!と思いたい。
自分だったら…そんな性欲まみれな男ではなく……そう…乙女ゲームに出てくるような…優しいイケメンになっていたはず…である。
「ぼくはメイド服の方がいいなー」
「おぉーメイドもいいよな!巨乳ロリのメイドとかマジ最高!」
「そういえば今度、あの作品の水着回あるらしいよ!」
だけど…男子たちが言うように…漫画やアニメでは男子がはしゃぎそうなお色気シーンは残念ながらよく描かれている。竜二だって『フリーダム』の対談動画で言及されるまで気づかなかったし、今にはじまったことでもないので、下手をすれば女子である元男子だってそれを「当たり前」もしくは「男子なら仕方ない」と思っている風潮は確実にあった。
「ご主人様~~~」
ドジっ子メイドでやたらと胸が大きい女の子。
どうしたらこんな目になるというようなデフォルメされた女の子の巨大な目。
ありえないほど短いスカートに、胸を半分露出させた女性キャラ。はたまた…見るのも恥ずかしいような衣装を身にまとった女性キャラ。
なにも大人の男性向け漫画の話ではない。竜二たち女子もよく読む少年漫画にも…下手をすると少女漫画にもでてきそうなキャラクターの話だ。
女性キャラの胸の大きさに関しては自分のことがあるので、誰かに話すとブーメランになりそうで怖いが…最近、過激派組織『フリーダム』が言っていたように…大人たちが自分たち元男子を性欲の対象としてみているような気もして、フリーダムのそんな主張を聞いて以来、竜二はなんともいえない複雑な気分だった。
正直、そんな話、聞かなければよかったと思ったほどだ。知らぬが仏という言葉もある。先日の「フリーダム」の人の対談動画を見て、そう思った元男子は意外と多い気がした。
「あぁ、やっぱり女の子とキャッキャうふふしてぇ!!」
元女子である男子たちがどうしてそういう猥談に夢中なのか…そもそもどうしてこんなに平気で会話できるのか…天地がひっくり返っても公衆の面前…それも異性がいる場所で猥談などしようとも思わない竜二には彼らの気持ちが心底理解できそうになかった。




