システィナとルーツ3
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システィナが高熱を出して数日、彼女は夢でティアと会えていた。具合の悪そうなシスティナにティアはおろおろするばかりであったが、これは勝利の勲章とシスティナは誇っていた。しかし、症状が落ち着いで数日を境にパタリとティアと会えなくなっていた。システィナはティアの身に何かあったのではないかと不安でたまらなかった。
「ティア、どうしたの?」
これまでも会いない日がなかったわけではない。しかし、パタリと会えない日が続くのは無かった。彼女は数日前にあったティアのために買ったマグカップが割れたシーンを思い出す。これが不吉な予感を知らせるようで堪らなく不安であった。
システィナは不安を隠すように勉学、剣術に打ち込む。そうして数日後、父アルフレッドが帰還した。
<馬車の中>
アルフレッドは部下からの報告書に目を通していた。内容は彼が去った後のエドワード領の件であった。
「フィンは問題なくまとめてくれたようだな。後は指示を待つだけか...。」
アルフレッドが司令官である例の男を連れ帰ったため、指示役が抜けたことによる混乱が予想された。そこで、アルフレッドは部下のフィンを配置して団員をまとめさせた。フィンはその後、団員が滞在する屋敷にて待機を命じたようだ。どうも団員達は領内で評判が悪く、待機させることにしたのだそうだ。
「彼らについてはフィンに任せるか。あの男の件が片付くまでは大人しくしてもらおう。」
現在男は王城に滞在中で、王との謁見待ちである。アルフレッドも同席予定だが、まだ時間があるので一度自身の領に戻ることにしたのだ。
アルフレッドもう一枚に目を通した。内容は例の少女についてだ。
「初めて対面したが、そっくりだったな。だが...」
報告書には、少女がエドワードの娘であるソフィーを守るために盗賊、魔女と勇敢に戦ったことが書かれていた。そして、ソフィーを逃がすことに成功するも少女は行方不明になったとあった。
「システィナにどう話すべきか、いや、伏せておくか。あの子はまだ幼い。」
少女はシスティナを知っていたことから彼女が屋敷で看病を受けた少女と同一人物であることは確実だ。そして、システィナが非常にティアを気にかけていることをアルフレッドは知っていた。なので、なおさらシスティナに事実を伝えることが憚れた。
アルフレッドが外を見るとすでに城が見えていた。
<システィナの個室>
部屋の外から父アルフレッドの馬車が到着したのが見えた。普段父は書斎で少し執事と話をしてから部屋に来る。だが、今回は執事がお願いを聞いてくれることもあり、居ても立っても居られないおられず、部屋を出ることにした。
「お父様の部屋に行くわ。」
「しかし、まだお仕事をされているのでは?」
「部屋の前で待つならいいでしょ?」
「まぁ...」
こうして侍女のジュリーを説得して、アルフレッドの書斎に向かった。既にアルフレッドは書斎で執事からの報告を受けていた。システィナは扉の前で耳を傾ける。
「...です。問題は特にありませんでした。」
「そうか...分かった。」
ぺらりと紙をめくる音とが聞こえてきた。しばしの沈黙の後、アルフレッドは静かに口を開いた。
「ところで、システィナに似た青い髪の少女のことを覚えているか?」
「ええ...ティアさんがどうかされましたか?」
ドキンっシスティナは目を見開き少し震えながらもっと聞きたいと耳を扉に押し付ける。どくどくと心臓が鳴り響いた。
「...実はな...」
その先の言葉は聞きたくなかったが…
「エドワード領にいたようだ。私も会ったが、逃げられてな。その後、魔女と戦い...生死不明になったそうだ。」
バンッ!!
「「!?」」
2人が驚く中、扉を思いっ切り開けたのはシスティナであった。2人はシスティナがいるとは思わず驚いていた。
「システィナ...」
「どういうこと?ティアが生死不明って...」
その時、部屋の気温が変化した。
「っ!」
「これは...」
2人は一瞬にしてまるで燃え盛る火の熱を受けるかのような熱風を感じた。その熱源がシスティナであることは明らかであった。
「ねぇ...なんで?教えてよ!何でお父様がいながら!!」
システィナの怒気と共に髪に再び真紅のメッシュが入る。その姿にアルフレッドは驚愕する。
「お前!?」
「答えて!!」
アルフレッドの言葉を遮りシスティナが手を翳すと熱風が彼に向かう。アルフレッドは動くことなく同じく魔法で弾き返す。2人の熱風がぶつかり部屋の紙が何枚も吹き飛ぶ。所々、煤けて燃え始めているものもあった。
「落ち着きなさい、システィナ。」
「お父様!何でいつも肝心なことを教えてくれないの?お母様のことも!」
アルフレッドの制止も無視してシスティナの手から炎が噴出る。そして炎はまるで彼女の感情を表す様に荒れ狂うと少しずつ剣の形を取り始めた。
「いかん!」
アルフレッドが危機を察して魔力を高めると、目の前に真紅の剣が現れる。彼はそれを掴むとシスティナに剣を向ける。システィナもまだ未完成ではあるが炎の剣をアルフレッドに向ける。そして...2人は同時に駆け出し、アルフレッドとシスティナの剣が交わった。
ガシャン!!
「!?」
システィナの剣はアルフレッドの剣により脆くもあっさり崩れ去る。しかし、システィナは諦めずに右手をアルフレッドに向ける。アルフレッドはシスティナの手を掴むと背負投た。
どん!!
「かはっ!」
システィナは背中からまともに地面に激突し、息を吐き出す。
「アルフレッド様!やり過ぎです!」
執事は珍しく声を荒げるが、アルフレッドは無視してシスティナを見る。システィナはぷるぷる震えながら起き上がろうとする。
「ま、まだ...」
「システィナ...」
システィナは涙を流していた。ポタポタと流すそれは怒りか悲しみか...。アルフレッドは再び剣をシスティナに向けて臨戦態勢をとる。
「ティア...どう、して...」
しかし、限界だったようで、システィナは気を失った。同時に部屋の室温はもとに戻り、髪色も青一色に戻った。様子を観察したアルフレッドは剣を虚空に消す。執事はゆっくりと近づくと彼を殴った。
「ぐっ!」
「申し訳ありません。ですが、おそらくあの方ならこうするかと...」
「そうだな。」
「今の力をご覧になったでしょう?システィナ様は貴方が思うほど子供ではありません。その力は私たちが知る間に大きくなっています。もう隠すのはやめましょう。彼女には知る権利があるのです。」
執事の訴えにアルフレッドは目を閉じるとゆっくりと開き答えた。
「分かった。真実を話す時が来たようだな。」
アルフレッドは静かにシスティナの髪に触れる。
(元に戻っている。先程のは...)
真紅のメッシュ...何故そう見えたのか、それが現実か想像か今は誰もわからない。しかし、システィナの魔法は確実に強力なものになっていた。
「本当に大きくなったな。」
アルフレッドは嬉しいような悲しいような複雑な表情をした。それは子の成長を喜ぶ気持ちとこれから彼女が立ち向かう運命に対する申し訳なさを含んでいた。
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