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魔女とティア -再び-3

投稿します。

 ティアの足を捕えたそれは紛れもなく氷だった。しかし、今ティアは魔法を使っていない。ならば、誰の魔法なのか自ずと答えは分かる。しかし、ティアは信じたくなかった。


 「う、そ...」


 「ふふ、ティア、気づいちゃった?それ、私の氷魔法...覚えちゃった♪」


 「っ!!」

 

 この言葉にティアの何かが傷付いた。ティアの瞳から涙が溢れてポロポロと流れる。悲しくて悔しくて、色んな感情が渦を巻いてぐちゃぐちゃだ。しかし、ノラは止まらない。ティアは無理矢理氷を引きはがすと、魔力を全身に巡らせて今出せる全力で駆け出すために一歩を踏み出す。


 「つっ!?」


 ずきりと足首に痛みが走り顔を顰める。どうやら先程の転倒で足を捻ったらしい。痛いのを我慢して何とかノラと距離を取ろうとするがノラには追いつかれてしまう。ノラは楽しそうだ。


 「あら、追いかけっこはおしまい?」


 ノラは氷魔法で追い打ちをかける。ノラから放たれたそれは地面を伝いティアに向かう。


 「くっ!」


 ティアは両手を翳して氷の壁を生み出して防ぐ。しかし、氷がぶつかった瞬間、氷の壁から氷柱がティアに向かって伸びてきた。


 「!?」


 自分の魔法であるはずの氷が自身に牙をむいている状況にティアは混乱しながらも何とか躱す。ノラはニヤニヤとしながらティアに言う。


 「残念。その氷は私のものにしたの。すごいでしょ?」


 どうも氷の主導権を奪われたらしい。ティアはそんな事できるのか!?と感心しながらも冷や汗をかいていた。


 (勝て、ない...)


 ノラとティアの差はやはり圧倒的だ。ノラが扱える魔法は多岐に渡る。ティアの特有と思っていた氷魔法すら使えるのだ。圧倒的な才能と実力の差に打ちのめされてティアは諦めそうになる。しかし、ノラはそんなことお構いなしだ。


 「さあ、ティア♪今度は躱せるかしら?」


 ノラは周囲に火、水、風の球体を生み出す。さらに雨雲から雷が轟く。それらは一気にティアに襲い掛かった。


 「っ!?」


 足を痛め、心が折れかけているティアは目を見開くしかできない...


 爆音とともにそれらは地面に激突、地面に煙を伴いながら大きな穴を開けた。雷を使った故か雨雲から雨が降り始める。ノラは雨に濡れるのを気にすることもなくティアのいる位置を見ていた。


 「流石に死んじゃったかしら?」


 無邪気に笑うノラ。煙が止んで穴の全貌が見えた時、ノラの表情が固まった。そこにティアはいなかったのだ。


 「あら?」


 ノラはキョロキョロと見渡すが周囲には誰もおらず、雨の音だけが響いていた。ノラはそれでも余裕を崩すことはない。ノラの目はティアを逃さないからだ。

 彼女の目は魔力が見えるが、それは無色ではない。適応する属性か、性格か分からないがとにかく人によって様々な色に見える。ノラが初めてティアを見た時ティアが纏う魔力の色は他の人とは全く違っていた。


 (透き通った青...濃くもなく薄くもない濁りのない色...それがティアの色。こんなの見たことなかった。たから、見逃すはずがない。)


 ノラはひと目見たときからティアの色に惹かれていた。だから、ティアに興味を持ったのだ。ノラは周囲を注意深く探す。そんなに遠くには行けないはず...

 しかし、ノラはティアを見つけられない。まるで何かに妨害されている...


 「っ!?」


 ノラはバッと手に空から降ってきたそれを見た。それは水よりも冷たく僅かに青い魔力が視えた。


 「雨...だけじゃない!!これは、何?」


 いつの間にかそれは雨ではなくなっていた。水では無くもっと冷たい…氷...雪だ。


 「つ、冷たい。寒い。」


 ノラは両腕で体を抱きしめ震え始める。


 「こんなに冷たいなんて」


 ノラにとってそれは初めての経験だった。

 だが、それよりもノラが気になったのはそれが持つ魔力の残滓だ。 


 「この色...ティアの。まさか!」


 ノラが勢いよく振り向いたときには、何かが目の前に迫ってきていた。


  

----------------------------------------------------------------

 (ノラの攻撃時)

 迫りくるノラの魔球。火、水、風、雷...それを一人で繰り出したのはおそらく魔法のエキスパートですらハンカチを噛みすぎて引き千切るくらいの才能だ。しかし、今の光景は嫉妬ではなく青褪めるだけだ。

 一方、ティアの状態は最悪だ。右足を負傷しており、差し迫る火球を躱すことは出来ない。また、氷の壁も容易く壊されることも分かっていた。普段なら諦めないティアも今の精神状態では青褪めて立ちすくむだけだ。


 1発目、雷の球はティアの真上を通り地面を焼き焦がす。


 2発目、風の球はティアがダメ元で作り出した氷の壁に阻まれて消滅した。しかし、氷壁は大きく抉れる。

 

 3発目、水球は氷壁に穴を開け、ティアの目の前にぶつかりティアにも水がかかる。ティアは次々と氷壁を生み出す。


 4発目、火球は残りの氷壁を溶かしていきながら消失。


 5発目、6発目、火と風の球が混ざり合い、爆風を生み出して氷壁を跡形もなく消し飛ばす


 7発目、氷壁が間に合わず、ティアの眼の前に火球が迫る。感じるのは一つ。


 「...死」


 迫りくるそれにティアは立ち尽くすしかない。時間は長く感じるようになり、ゆっくりゆっくりと迫ってきた。


 「...」


 ティアの頭に走馬灯がよぎる。


 友人と言ってくれたソフィー

 

 身分も関係なく受け入れてくれたエドワード、アン


 ガシガシと頭を撫で不器用ながらも接してくれたギルバート


 そんなギルバートと共に自身を保護して魔法を教えてくれたセドリック


 見知らぬ自分を気遣ってくれた宿屋の女主人


 放浪していた自分を連れて娘のように接してくれたおじさん


 王城から逃げ出して、怪しまれてもそれでも匿ってくれたお婆さん...そして、


 「システィナ...」


 身分も関係なく、帰ってくる場所になると言ってくれたシスティナ...彼女とは何か強い縁を感じていた。

 彼女に会えなくなるのは無性に悲しく、そして申し訳なかった。


 「ごめん」


 ティアはポツリと零すと目を閉じる。

 差し迫る火球にいよいよ熱を感じる。そんな時、ティアの脳裏に光景がよぎる。


 幼い少女が青い髪をはためかせて花畑をタタタと走り抜け、誰かの足にしがみつく。相手はそんな彼女を叱ることなく頭をガシガシと撫で、少女は気持ちよさそうに目を細める。そして少女…ティアは真上を見てその人の靡く黄色の髪を目にした。彼女は言う。


 誰なのか今のティアには分からない。しかし、大切な人だと本能的に感じた。彼女は何を伝えたのか?


 それは無意識だった。ティアは魔力を右腕の手甲に集めたのだ。そして、手甲はティアに応えた。


 “我、使う、可能。“


 「!」


 ティアは咄嗟に右手を近くの木の枝に向けると、手甲から糸が飛び出して枝に絡まる。そして、糸を巻き上げるように手甲が動き、その勢いでティアは木まで飛び移ることができた。


 火球はティアの眼の前をよぎり地面に爆風を起こしていた。


 「はぁ、はぁ、はぁ」


 ティアは肩で息をしながら手甲を見た。すると、ティアの頭に言葉が入ってきた。


 “汝、我、同胞、救う。感謝、我、汝、使う、許す。“


 断片的だが、言葉が伝わった。この手甲は女盗賊から奪ったものだ。どうやらこの手甲は特殊な魔石が仕込まれており、無理矢理制御させていたようだ。今の声はおそらくその魔石の意志だろう。


 「ありが、とう。」


 ティアがお礼をすると、手甲から何かが出てきて、ティアの肩に登ってきた。


 “我、汝、相性、悪い。我、土、汝、氷。故、力、限定。“


 残念なお知らせだ。ティアの魔力は蜘蛛の力を上手く使えないらしい。何となく伝わったが、使用回数に制限があるようだ。確かに氷は蜘蛛にはあまり良いものではない。


 「でも、何も、ない、より、まし。」


 ティアは前を見た。眠りについていた記憶がティアの気力を呼び覚ましたのだ。


 (生きて、帰る。だから...)


 今、死ぬ訳にはいかない。ティアは必死で考える。ふと、ノラはティアの魔力が視えると言っていたことを思い出した。


 (前、髪色、変えて、ばれた。まさか、今、バレてる?)


 ティアは一瞬で顔を青褪める。もし場所を知られていれば直ぐに攻撃されてしまう。木の上にいるティアは攻撃を躱すことが難しい。


 幸いまだ気付かれていないようだが、時間の問題だ。


 (姿、隠す、駄目、意味、ない。魔力、魔力、魔力...!)


 ティアはハットすると直ぐに全身から微量の魔力を放出し始めた。魔力は霧のように広がっていく。そして、雨とともに下へ降っていった。そう、魔力が視られるのなら、一面をティアの魔力で包んでしまえばいい。ティアはそう考えた。ティアの左目は魔力を色で見分けられる。だから、ティアの魔力の位置も把握できる。


 (これで、全部、私、の、魔力。)


 しかし、これも時間稼ぎに過ぎない。いくら多くてもティアの魔力は有限だ。なにか一手を打たなくてはいけない。ティアは腰に着いた袋から何かを取り出した。魔物を呼ぶベルだ。


 「これ、使う...」


 何が出てくるかわからないので正直賭けだ。だが、何もしないで後悔はしたくない。


 「ん!」


 ティアはベルに魔力を込めて鳴らす。すると、ティアの目の前に何か魔法陣が浮き出て何かが姿を表した。それは...


 ぷちょん


 「...」


 ティアも目を点にした。体は液体のよう。シルエットは丸い。ポヨポヨ跳ねるそれは俗に言うスライムだった。スライムはポヨポヨ跳ねる。ティアはおずおずと手を伸ばしてスライムに触れる。ぷにゅぷにゅ...


 「♪〜」


 ティアは心地いいさわり心地に少しニヤける。と、そんなことをしている場合ではない。そもそもスライムは何ができるんだ?ティアの住んでいたスラム街の外には魔物が溢れていたが、王城の近くが所以か魔物はでかいトカゲとか人型だった。スライムは生息域が違うらしい。弱いので稼ぎやすいと歩いていた冒険者達がぼやいていたのを耳にしたことがある。


 「貴方、何、できる?」


 とりあえず尋ねてみるが、スライムは跳ねるだけだ。ティアは人差し指でスライムに触れる。プニッとスライムの体に指が入る。ポヨンポヨンと揺れるスライム、どうやらなんともないらしい。ティアは試しに魔力を少し流した。すると、スライムの形状が変わりだしたのだ。それを見たティアはこれだ!と思いついた。

 ノラの背後に現れたそれは、勢いよくノラに迫る。ノラは反応できず...


 キンッ

 

 刃物がぶつかる音が響く。それ...ティアは驚愕の表情を浮かべていた。彼女の手には女盗賊の使っていた短刀が握られていた。刃はノラに当たらず、背後に展開されていた魔法壁に阻まれたのだ。投擲用の為かナイフは折れて地面に刃が落ちる。


 ノラはゆっくり振り向いて口元をニヤリと歪ませた。


 「ふふ、残念。そして、捕まえたわ!」


 突如、地面から水が湧き出て触手の様にティアの体に絡みつき、足も手も縛られて自由を奪われてしまう。ティアは必死にもがくも体は動かない。


 「!?」


 ノラはティアの頬に触れる。


 「さぁ、ティア〜♪、次はどうする?それとも降参かしら?」


 ノラは指を通してティアに氷魔法を放つ。パキパキと音を立ててティアの頬が凍りつく。


 「っ!?っ!!」


 ノラはゾクゾクとしながら口元を更に歪ませた。


 「ああ〜いい表情ぉ♪」


 これで終わりか?と思われたが...




 カラン


 と音を立ててティアの足元に何かが落ちる。


 「あら?」


 それはナイフだった。何の変哲もないナイフ…それがどうしたとノラはティアに魔力を流し続けようとするが突如、ノラの腕がティアの体に呑み込まれた。


 「!」


 人ではありえない状況にノラは驚いて引き離そうとするも、一緒に液体もくっついて離れない。ベトベト奇妙な感触に流石のノラも身震いする。


 「いやぁ!何これ?」


 ぬめぬめした感覚に思わずノラの顔が引き攣る。それに意識を取られて反応が遅かった。突如ティアの体が光出して大爆発を起こし、ノラは巻き込まれた。

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