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ティアと傷3

投稿します。

 フリルのついたスカートのある就寝用のワンピースを着て、青い髪を靡かせつつ赤い瞳がティアを優しく見ている。ティアはそこにいるはずがないその人を見て目を見開いた。


 「シ、システィナ」


 「ええ、久しぶりね、ティア。」


 ティアの目の前にはシスティナが立っていた。システィナはティアの頬を優しく触る。ティアは潤んだ瞳でシスティナに問う。


 「どう、して、ここに?...」


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 <数刻前>

 アルフレッド侯爵の娘システィナは自室にいた。


 「明日は馬に乗るのね?」


 「はい。システィナ様、嬉しそうですね。」


 システィナ専任侍女のジュリーは冷たい水をカップに注ぎながら答えた。


 「ええ。やっぱり体を動かす方が私は好きよ。」


 システィナは笑顔で答える。システィナは勉強、礼儀作法をしながら剣や乗馬も習っていた。これは侯爵でありながら騎士でもあるアルフレッドの影響だ。システィナは勉強をサボることはないが、あまり好きではなく剣や乗馬の方が好きだった。ジュリーは軽くため息をつく。


 「それは貴族の娘が普通するようなことではありませんよ?」


 「いいじゃない。私はアルフレッド侯爵、お父様の娘なんだから。」


 システィナは少しムッとしながら答え、カップの水を飲んだ。ジュリーはふと棚にある青いラインの入ったカップを見る。


 「システィナ様、このカップ...アルフレッド様に渡さないのですか?」


 そのカップはシスティナの持つ赤いラインの入ったカップと対となるデザインだ。ある時システィナが執事に頼んでペアカップを買ってもらったものだ。ジュリーはてっきりアルフレッド侯爵に渡すと考えていたが、システィナは首を振って答える。


 「渡さないわ。それはティアのものよ。」


 ティア...それはある日突然屋敷に現れてそしていなくなった少女のことだ。ジュリーは彼女の世話していたので覚えている。


 「ああ、彼女ですか...ですが、彼女が居なくなってもう半年以上ですよ?もう...」


 「あの子は、帰ってくるわ。約束したもの!」


 システィナはジュリーの発言を遮るように答える。システィナはティアという少女を気に入っていた。ジュリーはそんなシスティナの様子にくすっと微笑みながら返した。


 「ご気分を害して申し訳ありません。それにしても本当にお気に召しているんですね…そういえば彼女、幼かった頃のシスティナ様に似ていますよね。」


 これはティアを見た従者全員の共通意見だが、ティアはシスティナによく似ていた。2人違いといえば瞳の色と性格、身長位だ。ティアは青い瞳で、システィナは赤い瞳、ティアは人見知りが激しく、システィナは活発である、身長はシスティナの方が大きい。それ位の差しかないため、ティアの姿を見た従者の中にはシスティナの妹が発見されたとパニックになって卒倒した人物もいる。それも今ではいい思い出だが、システィナは頷きながら答えた。


 「そうなの!だから、なんだか他人に思えなくって...」


 システィナはティアを妹の様に扱っている。初めて出会った時から親近感があり、不思議と彼女の考えが分かるのだ。ジュリーは楽しそうに話すシスティナの様子を見て微笑む。


 「それでは、そろそろお休みになった方が...」


 「ええ...もっと」


 システィナは拒否しようとしたが、何かを感じて固まった。


 "貴方に、助けてほしいこと、ある。"


 謎の声が聞こえてきてシスティナはキョロキョロするがこの部屋にはジュリーと自分以外いない。さらに声は続ける。


 "このままだと、ティア、危ない。"


 システィナはティアの名を聞いて慌てて問いただす。


 「ティアがどうしたの?」


 「シ、システィナ様、突然どうされたのですか?」


 ジュリーは声が聞こえていないので主人の奇行に驚く。システィナはジュリーに問う。


 「声が聞こえないの?」


 「私には...」


 "駄目、この声、貴方しか、届かない。頭で念じる、会話できる。"


 システィナは言われた通りにする。目を閉じて念じみた。


 "聞こえる?"


 "聞こえる。"


 どうやら届いているようなのでシスティナは改めて尋ねた。


 "ティアが危ないとはどういうこと?"


 "ティア、魔力、暴走してる。もし、止められないと、命、危ない。"


 思ったよりも危険な状況に慌ててシスティナは尋ねる。


 "わ、私はどうすればいいの?"


 "まず、寝る。"


 "分かったわ。"


 システィナは目を開けてジュリーを見る。ジュリーは突然目を閉じて動かなくなった彼女を心配していた。


 「システィナ様、ご気分が優れないのですか?」


 「ち、違うわ。ちょっと眠くなったの。もう寝るわ。」


 「そうでしたか。」


 「ええ、もう眠るから下がっていいわよ。」


 システィナはそう言うとベッドに横になりシーツを被った。ジュリーはその様子を少し不思議そうに見たが、気を取り直して一礼した。


 「それではおやすみなさい。」


 「ええ、おやすみ。」


 ジュリーが部屋から出るとシスティナは再び目を閉じて念じた。


 "さぁ次は?"


 "これから、貴方と、ティア、繋げる。"


 "そんなことは出来るの?"


 システィナは不安そうに問う。


 "大丈夫。貴方、(えにし)、繋がってる。私、貴方と、会話、できる。これ、証拠。"


 "私はそこで何をすればいいの?"


 "ティア、沈んでる、何とか、浮上して。"


 さっぱり状況が分からないシスティナは困惑した。


 "沈んでいるの?さっぱりわからないわ..."


 "大丈夫、多分。始める。"


 "ちょ、ちょっと..."


 システィナは止めようとするが、突然体がふっと浮かび上がる感じがした。そして、何かを感じた。


 「これは...」


 そして、一瞬で気付けばそこには真っ青な海が一面に広がっていた。


 「え?何?ここ。」


 システィナが水面に着地すると陸でもないのに浮かべた。


 「ど、どういうこと?とりあえず、どうすればいいのかしら?早くしないとティアが...」


 システィナが焦りつつキョロキョロする。しかし、一面青い海が広がっており、島も魚も何もいない。システィナが段々不安になってくると突然、システィナの頭に声が聞こえた。


 "あ、貴方、システィナなの?"


 「え?そうだけど。」


 謎の声がまた聞こえてきた。しかし、先ほどとは声が異なりなんだか酷く懐かしい声だ。初めて聞いたはずなのに…


 "どうして貴方がここに?"


 「私もわからないわ。ティアが危ないと聞いてここに連れてこられたの。」


 "まさか...ティアの...。でもシスティナを連れてくるなんて..."


 「ティアを助けるにはどうすればいいの?あの子を助けたいの!」


 声はしばし無言になった後に答えた。


 "...底にティアが沈んでいるわ。まず潜ってティアを見つけて欲しいの。そしたら、彼女に声をかけてあげて。今、ティアには誰かの声が必要だから。"


 「ここ息できるの?」


 システィナは不安そうな表情だ。屋敷のプールで溺れかけた事があるためだ。声は優しく答えた。


 "大丈夫。ここは特殊な世界。貴方が溺れることはないわ。大丈夫、出来るわ。"


 「うん!分かった!ならやってみる。」


 システィナは軽く息を吸い込むと一気に飛び込んだ。やはり水に入るので安心だとしてもやってしまったようだ。システィナが潜ると周囲は誰もいなくなった。そんな中、声はまるでここにいるかのようにぽつりと零した。


 "ごめんなさい、システィナ。貴方にこんな危険なことをさせてしまって...私はここで祈るしかできないなんて無力ね..."


 声が漏らした呟きは誰にも聞かれず虚しく響くだけだった。

 潜ったシスティナは辺りをキョロキョロ見渡すが何もない。


 (海って初めて来たけど魚、いないじゃない。それにしても呼吸も出来て目も開けられる...不思議な所ね。)


 システィナはどんどん深く潜るとやがてあたりは暗くなり冷えてきた。


 (寒い...ティア、どこ?)


 暗くて寒い場所にいるシスティナは段々不安を募らせて辺りを見渡すことが多くなった。しかし、何も見えず焦りだけが募る。システィナは体を包む冷たさでティアとの出会いを思い出した。


 (そういえばあの子、初めて会った時、すごい冷たかったわ。)


 当時、ティアは氷魔法の制御が上手くなかったので自身の体温も下げてしまっていた。システィナは逆に熱を加える魔法が使えたのでそれで助かったが、実はかなり危険な状態であった。


 (こんな冷たい所にあの子1人いさせるわけにはいかない!)


 システィナは必死で探すが辺りが暗くて何も見えず、焦りだけが募る。


 "システィナ、焦っては駄目。"


 不思議な声はシスティナに冷静さを求めた。


 「で、でも、このままじゃ...」


 "落ち着いて、貴方ならティアを見つけられる。心を落ち着かせて感じるの。"


 システィナは言われた通りは目を閉じる。すると、心が落ち着くと同時に何かを感じた。これは...


 (ティアと初めて会った時の感覚だ。)


 ティアがシスティナの屋敷に来た時、彼女はパニックになり逃げた時があった。しかし、システィナは何となく感知できて簡単にティアの居場所を探すことが出来たのだ。今、その感覚が再び現れたのだ。そして、僅かにティアの気配を感じる事ができた。


 (見つけた!)


 システィナは足で蹴り上げて何とか移動する。そして、遂にティアを見つけた。ティアは抵抗することなく沈んでおり、手足が動いている様子もない。不安になったシスティナはティアの背中から回り込むとティアに触れる。


 (冷たい...)


 ティアの体はかなり冷たくなっていた。このままでは死んでしまうと感じたシスティナは以前のようにティアを魔法で温め始めた。以前よりもコントロールが上手くなったので順調にティアに熱が伝わったようだ。その証拠にティアがぼそっと言葉を漏らした。


「だ、れ?」


 ティアの声にシスティナは優しく答えた。


 「私よ。」


 「!?」


 ティアが声で誰か察したようで、驚いて振り向いてきた。そんなティアをシスティナは笑顔で迎える。


 「シ、システィナ」


 「ええ、久しぶりね、ティア。」


 ティアはシスティナを見て目を見開き、やがて潤み始める。システィナはティアの頬に優しく触れた。


 「どう、して、ここに?...ほん、もの?」


 「ええ、そうよ。偽物なわけないじゃない。貴方が危ないって聞いたから駆けつけたの。」


 システィナは得意気に答える。


 「シ、シス、ティナ...」


 「さぁ!早くここから出ましょう?」


 システィナは手を出してティアを誘う。しかし、ティアは俯いてシスティナの手を握ろうとしない。


 「私、ここ、出たく、ない...」


 「ティア?」


 「皆、怖い...」


 ティアは先程の映像で過去が蘇り、人間不信が出てきてしまったのだ。大人から暴力を振るわれ、子供からは仲間はずれにされてしまったティアは人が怖くて信じられないのだ。システィナはティアを励まそうと声をかける。


 「でも、このままだと貴方死んじゃうわ。」


 「なら、いい。」


 ティアは暗い笑顔で呟く。


 「え?」


 「このまま1人なら...」


 ティアの言葉にシスティナはぷるぷると震え、遂に爆発した。


 「馬鹿!」


 システィナはパンッとティアの頬を叩いて叱りつけた。ティアは叩かれた頬に触れながら目を見開いてシスティナを見つめている。


 「私達また会うんでしょ?なら、こんなとこで死なないでよ!」


 「シス、ティナ...」


 「私を1人にしないでよ!!!うぅ〜。」


 今度はシスティナが泣き出してしまいティアはオロオロした。


 「近い年のお友達は貴方が初めてなの!!」


 「っ!」


 システィナは生まれてから城を外出したのは数えられるくらいしかない。周りはシスティナを可愛がってくれたが、皆年上でジュリーも含め所詮従者と主という線引がされており、友人は1人もいなかった。ティアはシスティナが初めて何の障害もなく親しくできる女の子だった。システィナはティアを抱き締めてわんわん泣き出した。


 「こんなとこで死なないでよ〜。わぁぁぁぁ。」


 「ご、ごめん、なさい...」


 ティアはシスティナの背中を擦ることしか出来なかった。やがて、システィナが泣き止むとティアは話しかけた。


 「落ち、着いた?」


 「...」


 システィナはムスッとしたままティアを見つめる。ティアはポロポロと本音を溢した。


 「ごめん、なさい。私、も、シス、ティナ、友達、思う。」


 「...」


 「ここ、出る。」


 ティアの言葉にシスティナはやっと口を開いた。


 「もう、ここにいるなんて言わない?」


 「ん。」


 「また、会いに来てくれる?」


 システィナの問にティアはキョトンとして首を傾げる。


 「ん?もう、会ってる。」


 「もうっ!意地悪言わないで!」


 システィナが頬を膨らませてティアをペシペシ叩く。そして、ティアとシスティナは互いに見詰め合いクスクス笑いあった。


 「もうっ!ティアの意地悪...」


 「ごめん。ふふっ。」


 互いに笑い合った後、2人は手を握り合って額をコツンと突き合わせた。


 「不思議ね?私達...何だか会えるだけで嬉しい。」


 「私、も...」


 ティアもシスティナも会った回数は僅かな筈なのに何故か昔から一緒にいたかのような親近感を抱いている。2人は互いに額を擦り合う。それが彼女達にとって意味があるようだ。そして、互いに元の姿勢に戻ると2人は上を見上げた。


 「さぁ、戻りましょう。」


 「ん。」


 「...」


 「...」


 2人は無言になった後、ポツリとティアが溢した。


 「どう、やって?」


 困り果てる2人であった。

ありがとうございました。

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