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13.はじめてのメッセ


「早く書きなさいよ。」


 もちろんコレらの雑務は僕の担当になっている。限りなく半強制に近いワークシェリングだ。


「あの子……カナリアっていったっけ。金髪ツインテールの子。」


「うん。本名はカナリア・イリス・シャーロットっていうんだ。本人はハーフって言ってたよ。」


「あんたはどう思ってんの?部活に誘ったってことは少なくとも嫌いってことはなさそうだけど。」


 話しながら書類を書くと記入欄を間違いそうで怖い。予備の紙はもらっていないんだぞ。


「そうだ、まだ話してなかったけどあいつお嬢様なんだよ。聞いたことあるでしょ?Charlotteって。あいつのお爺ちゃんにあたる人がそこの会長なんだってさ。」


「え!?ホントに?Charlotteって言ったらアメリカの方でも三本の指に入る財閥じゃない。そうなの、あの子がね……。」


「普通の女子高校生に見えたのは両親が自由にさせてくれてるからなんだって言ってた。」


 最後に黒木先生のハンコを押して書類を完成させた。


「できた!出しに行こう。」


 彼女は決まって何気ない会話の中から面白そうな事だけを抜き取る。さっきから何か考えているのは多分、カナリアの会話になにか引っかかるものがあるんだろう。


 こうなると僕には手が付けられないからひとまず書類を先生に出しに行くことにした。



 トントン



「失礼します。」


 高校教師は残業が多いと聞いていたけど、本当にこんな人数がこの時間まで仕事をしているとは思っていなくてちょっと驚いた。


「あ、岡目くんね。書類受け取るわ。」


「ありがとうございます。……あの、部室なんですけど……。


 一通り先生に目を通される前に口に出すことで、まるで正しいことをしているように見られないかと期待しての提案だった。


「あー。元1-Eクラスの空き教室ね。あそこ使ってはないんだけど、部室として使うとなると許可が降りるかどうかは私にもわからないわ。」


「そうですよね……。」


「まあそこら辺は私がなんとか推してあげるわ。それよりも、この黒木先生って??」


「それは用務員の先生です。赤坂さんが気に入って連れてきたみたいなんですけど、顧問になることには承諾してくれているみたいでした。」


 仕事の関係で沢山の繋がりがある先生でも、さすがに用務員の先生の中の一人とは接点がなさそうだった。


「わかったわ!この書類はまとめて今週の職員会議の時に部活担当の先生たちに提案してあげる。」


「迷惑かけてすいません。」


 要件が済んでから逃げるように職員室をあとにした。あそこには状態異常の魔法がかけられているよな重い空気が(ただよ)っているから、息がしづらいような気がする。



 ◆◆◆◆◆




「赤坂さん?終わったよ。なんとか先生にはダメ出しを食らわずに済んでよかったよ。」


「ねえ、いま。今すぐ透明になってよ。」


 突然だった。声もちょっと変だった。


「え??どうしたのいきなり。」


「いいから!なりなさいよ!」


 いつもとは違うのがわかったから、すぐ彼女のいう通りにした。


「……なった、けど?」


「見えるわ。うん。見える。」


 わかりきったことを確認するのは必ず理由がある時だと、誰かが言っていたのを思い出した。が、それ以上を彼女に問いかける勇気は僕にはまだなかった。


「とりあえず……帰ろうか?」


「そうね。もうだいぶ時間も遅いし帰ることにするわ。」


 いつも彼女の情緒の変化にはあえて何も言わないことしている。まだまだ僕の踏み込んではいけないラインがあると思っているからだ。


 たしかに最近になって話す回数が増えたことには正直嬉しい気持ちがあった。限りなく友達のような振る舞いをしてくれた彼女に甘えていたのは事実だ。



――いけない、僕は空気だった。



 帰り道でも彼女は何も言わなかった。別れたあとも、少し後ろ姿を眺めていたのはあの赤髪の少女に何かを求めているからなのか。


 

 ピロン



 スマホの通知だ。普段から迷惑メールの通知は切ってあるから僕のスマホに通知が着くなんてことはありえないはずだ。


 送り主を見てようやく、昼休みにカナリアとメッセを交換したことを思い出した。記念すべき初メッセだと考えたら緊張してスマホを持つ手が震えてくる。


―――――――――――――――――――――――


from:カナリア


to:先輩



初メッセです。ちゃんと送れてますか?


スマホの扱いも慣れていないので、このメッセを送るのにも随分時間がかかってしまいました。



それと、選挙の事についても話したい事があるので明日も集まれませんか?



―――――――――――――――――――――――



 ここまでして貰ったからには、カナリアを生徒会長にまでしないと申し訳ない気がしてきた。明らかに個人的な恩で票を動かすことにはなるが、世の中も多分そうやって回っているのだろう。


 こういうのは時間を空けると取り返しのつかないことになってしまうと思ったから、家までの歩みを止めてでもすぐに返信をすることにした。



―――――――――――――――――――――――


from: 岡目 蓮


to: 返信先



ちゃんと届いてるぞ。


会議できそうな教室を見つけたから明日はそこに集合しようと思ってる。


元1-Eクラスの教室だ。カナリアは去年まで一年生だったから分かると思うけど、新館四階の一番端っこにある教室な。話はそこで聞く。



―――――――――――――――――――――――


 

 小学校の卒業文集と同じくらい、いやそれ以上に入念な見直しをしながら初めてのメッセをかいた。


 思っていた以上に周りが暗くなっていて、帰る足を少しだけ早くすることにした。最近は毎日が刺激的なことばかりで、一日の時間がやけに短く感じる。



 家に着いてからもスマホの通知を気にしてしまって何も出来ない。お風呂に入った直後に返信が来たら、寝てしまった後に返信が返ってきたらどうしようと考えるだけで全てが制限されてしまう。



 全てを諦めてベットに入って目を閉じた時に、ふと深瀬さんの様子がおかしかったことを思い出した。


――あれは、なんだったんだろう……。


 最近はいろんなことに振り回されているような気がするけど、同じクラスに深瀬さんがいるならそれで十分だ。


 


 だって彼女は僕の指針(ししん)だから。

この作品に目を通していただいた全ての方に感謝感激雨あられです。諸事情で毎日投稿は止まってしまいますが、これからも支持していただけると幸いです。

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