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11.カツアゲ


 小さい頃は、自分が人とは違う特別な能力を持っているから周りに人がいないんだと勘違いをした事がよくあった。


 本当は自分から壁をつくっていたんだということにようやく気づいたから、今ここに二人の女の子がいるんだとそう思う。


 足早に午前中の授業をおわらせ、約束の中庭へと二人で向かった。カナリアには昨日帰り際に何も計画していなかったけど、時間と場所をそれとなく伝えておいて良かったと思う。



「一応ここで待ち合わせる事になってるんだ。」


「ほんとに来るの?」


 僕の朝の発言はどうやら嘘なんじゃないかとずっと疑っているらしい。授業間の十分休みに入るごとにいちいち確認してきた様子を(かんが)みても、僕の信用度は相当低いことがわかる。



「先輩ー!!すいません、遅れました。四時間目の授業がちょっと長引いちゃって……?」


「カナリア!良かった。もしかしたら中庭の場所とかよくわかんないかなって思ってたけど大丈夫だったみたいだね。」


 ここが記念すべき彼女達の初対面となった。


「先輩、誰ですか……?この人。」


「あんたこそいきなり何よ。制服見る限り後輩じゃない。」


 まず僕は問題が起きそうな方からこの諸々の状況を説明した。


 彼女は決して性別や学年で人を見たりはしないし、本当に自分のものさしでしか他人を測れない性格だからこそ、今ここでGOサインが出なかったなんて時には、今後一切僕たちを視界に入れることはないだろう。


 少し悩んだような素振りを見せたが、やはり彼女が何かを決めるときは、時間にしてそう長くはかからない。


「……まあいいわ。じゃあ今からこの子を含めた三人で私たちは超常現象研究部って事でいいのね?」


「そうなるね。わかってくれてありがとう。」


「先輩……?」


「ああ!うん。紹介するね。同じクラスの赤坂さん。僕と一緒にカナリアの選挙の手伝いをしてくれる事になったんだ。」


「そ、そうなんですか。それはいいんですけど……。なんかめっちゃ睨まれてるんですけど?」


 大丈夫、これは彼女にとって社交辞令の様なものだ。僕も初めて会った時は穴が空くほど睨まれた経験がある。ここでそれを言ったら本当にどこかに穴が空きそうだから控えるけど。


「まあとにかく!今後はまず三人で出来ることを考えていこう。それぞれに合った役割がきっとあると思うんだ。」


「生徒会選挙って言ったら普通は立候補者の推薦人がいて、その人も会では実際に演説をしてみせる必要があるのよね。」


 やっぱり赤坂さんがいると力になってくれるから安心できる。二人でカナリアのほうを見た。


「……。」

 

 なんとカナリアは下を向いてしまっている。


「……もしかして推薦人もいないのに立候補したわけ!?結構大胆なことするのね。」


「しょうがないじゃないですか!頼める人がいないんですよ。」


 赤坂さんはチラッと僕を見たあと口を開いた。


「まあ仕方ないから今回は私が推薦人をやるわ。」


「あなたがやるんですか……?」


「なに、不満?嫌ならこの話は全部なかったことに……」


「いや、や、やります。やって下さい。お願いします。他に頼める人いないんです。」


 遠くから見たら上級生二人にカツアゲをされている、いたいけな高校二年生の女の子だ。


「まあ当然ね。あともう一週間しかないから原稿は月曜日までに書いて、来週から毎日読み合わせをしていきましょう。」


「はい、わかりました。」


 カナリアにはまだ部活に入ってもらう説明はしていなかったから、なんだか騙しているようで申し訳ない気がしてきた。


「あと問題は……。」


「私の他にもう一人生徒会長に立候補している笹原さんです。」


「岡目くん、笹原さんに入る票をどうにか少なくするってのはできると思う?」


 正直ここで僕に振られても苦笑いしかできない。


「ダメです。笹原さんを落とすのはダメです。」

 

  それは彼女が発した誰よりも力強い声だった。


「……あんたの競走馬なんじゃないの?」

 

「すいません。笹原さんが傷付くやり方はナシでお願いします。どうにか他に方法は無いですか?」


「カナリアは完璧主義なんだよ。最終的に自分が納得するやり方じゃないとこの選挙もやる意味が無いって断言してたんだ。」


 赤坂さんを説得するように優しく言った。


「まあ私の選挙じゃないからいいけど。やり方は基本的にあんたに任せるわ。手伝って欲しいことがあったらなんでも言って。」


「わかったよ。」


「じゃあ私は部室に使えそうな教室を探してくるわ。まだ時間もあるから二人はお弁当でも食べてていいわよ。」


 そう言い残して彼女は連絡用通路に歩いて行った。




「あんなんだけど力にはなってくれると思うからさ……。迷惑かかると思うけど大目に見てくれると助かるよ。」


「わかりました。でも……部室?ってなんですか。」


「いや!なんでもないと思う!たぶん。気にしなくていいやつだと思う。」


 

 こうして僕の作戦と彼女の選挙、さらには彼女の部活が動き出したのだ。



 そのあとはカナリアから選挙に関する細かい情報や、やっていい活動とやらなければいけない仕事について詳しく聞いた。


 僕が活躍できるとしたら多分ここだろうと目をつけた。普段からルールや決まりごとの抜け目を探して生活している身からすると、学校が決めた原則というのには穴がありすぎるとしか思えない。


 こと生徒会選挙については年に一回しか行われないからという理由で基本的には全てが(あら)い。


 泣いても笑っても勝負の選挙日まではあと一週間しかない。ここでカナリアを勝たせる事が部員としての最初の仕事なんだろう。

この作品に目を通してくれた全ての人に感謝を伝えます。ありがとうございます。また、少しでも次が読みたいと思った方は評価の方をして頂けると幸いです。


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