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10.うさぎとかめ


「あのお金返します。メロンパンの。」


 帰り支度をしている途中で彼女が言った。


「あーあれね。いいよ別に。頼んできた人もそんなに気にしてなかったし、アレは特別に奢りって事で。」


「いや、私完璧じゃないと気が済まないんです。今回協力してくれていなくてもいつか返そうと思っていました。」


 三百円を財布から出して丁寧に手のひらに置いてくれた。


「まあ、そこまで言うなら貰っとくよ。ここのメロンパン美味しいんだってね。詳しい人がそう言ってたよ。」


「……早く二十円返してください。」


「え?ああ、うん。そういえば二百八十円だったっけ。ごめんごめん。」


 彼女の言う完璧とはまさにこういう事なんだろう。


「しかしなぁ……カナリアにいくら友達がいないからって笹原さんだけにあんなに人が集まるのはちょっと不思議だよなぁ。なんか思い当たる節はないのか?」


 話している横目で彼女が睨んできたのが見えたので目を合わせなかった。友達が少ないのは認めても、人に言われるのは(しゃく)に触るらしい。


「多分原因は私じゃなくて笹原さんの方にあると思っています。」


「それは?」


「彼女は運動神経も良くて勉強もできる。顔も良ければコミュニケーション能力も高くて二年生の間では中心人物なんです。それに前期の生徒会の書記も務めていましたし、生徒会に入ること自体彼女にとってはエスカレーターに乗っているようなもんなんです。」


「……正直それは手強いな。それだけ聞いても彼女に生徒会長をやってもらいたいくらいだ。」


「実際……私が笹原さんに勝っている要素なんて一つもないんです。」


 (うつむ)く彼女をもう一度頭からつま先まで見直してみた。


「そうでもないだろ。同じ人間なんていないんだし、どっちが勝つか分からないから選挙があるんだ。それにな、亀には亀の戦い方ってのがあるんだよ。」


「笹原さんがうさぎで私が亀ってことですか?」


「ああ、そうだよ?」


 暗くてもツインテールの先がユラユラと揺れているのがわかる。


「先輩に友達がいない理由がなんとなくわかった気がします……。」


「え?なんて?」


 周りが静かだから、コツコツと地面のアスファルトと彼女のローファーがぶつかる音がよく聞こえてくる。


「なんでもないです!じゃあ私こっちの道なんで……。」


「作戦は明日考えよう。とりあえず今日と明日の朝は休んだ方がいい。」


「わかりました!では!」


 走っている車のライトにも反射する彼女の髪は、よく見たらスカートの丈と同じくらいの長さがあったことにその時気づいた。




 ◆◆◆◆◆



 次の日、いろんなことに首を突っ込んでしまったがためにとてつもない使命感に背中を押されて、いつもより三十分も早く登校してしまっていた。



 ガラガラガラ



 数十分後にはあり得ないくらいに騒がしくなるこの教室もこの時間だと怖いくらいに静かだ。


「あ……岡目くん。おはよう。」


 角の席に座っていた深瀬さんと目が合って少し驚いた。


「深瀬さん早いね!おはよう。ごめん気づかなかったよ。」


「全然大丈夫だよ!岡目くんこそいつもより早いね。この時間いつも私一人だからなんか不思議な感じだよ。」


 朝から神様の顔を拝めるなんて、僕は結構罪深い人間だったのかもしれない。


「あっ、そういえばこの前の……」


「ひゃっほぅ〜ぃ、俺が一番乗り!!!」


 彼女の言葉を遮るようにクラスでもダントツにうるさい田中が教室に入ってきた。


「あれ!なんだよぅ!先客いるじゃーん。なんか早起きできたから俺が一番かと思ったのになあー。ちぇー。」


 深瀬さんは何も言わずに笑いかけてくれたが、当然そこで僕たちの会話は終わってしまった。


――くそ、田中め。こちとら早起きは三文の徳だったのに。


 

 ガシャーン


 入ってきた瞬間にわかる。危ないこと大好きトンデモ赤髪の登場だ。


「あ、あんたももう来てたのね。昨日の件どうなったのよ!」


「あーうん。書類、まとめておいたよ。あとは部室とメンバーをもう一人探さないといけないみたい。」


「部室ね……。まあ適当に部室棟をまわってそこら辺のちっちゃい部活から奪い取ればいけると思うわ。」


 彼女の標的になってしまった部活には今から謝っておきます。ゴメンなさい。


「メンバーなんだけどちょっと僕に心当たりがあって……。」


「珍しいわね。あんたこの学校に友達いないのに見つけてきたわけ?やるじゃない。」


 評価されるのは嬉しい事なのかもしれないけど、その中身80%くらいは皮肉で詰まっているようだ。


「まあとにかく!昼休み紹介するよ。このクラスとかではないから待ち合わせしないといけないし。」


「……わかったわ。でもつまんない奴はいらないわよ?私の部活は面白くないといけないの!」


 そう念を押されると自信がない。


 それから数分もしないうちに教室は人で溢れて、チャイムが鳴った後HRが始まった。



 意外にも、僕は様々な問題を一気に解決する策を昨日の夜に思いついていたのだ。これが成功すれば僕が今抱えている問題を同時に処理できる。



 作戦はとても簡単である。ずばり、カナリア・イリス・シャーロットを超常現象研究部に入れることだ。


 彼女が無事生徒会長となれば、先生からの評価も高くなる事だろう。そしてそんな彼女が所属しようとする部活を指導者たちは頭ごなしに否定できなくなる。わけのわからない活動方針でさえ色眼鏡をかけてくれるかもしれない。


 そのメリットを伝えれば赤坂さんもカナリアの選挙を手伝ってくれるに違いない。この部活を成功させたいという気持ちが一番強い彼女ならこのチャンスは逃さないはずだ。


 元々、僕だけの協力で生徒会長になれたのならこの学校は生徒会長で溢れかえってしまうと思っていた。行動力のある赤坂さんの手を借りる事でカナリアとの約束も守られるというわけだ。


 我ながら完璧な作戦だと思う。彼女と彼女の関係性に目を(つぶ)れば。


この作品に目を通してくれた全ての人に感謝を伝えます。ありがとうございます。また、少しでも次が読みたいと思った方は評価の方をして頂けると幸いです。

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