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1.禁色


「さあみんな、これは何色に見える?」


 先生がチョークを持った手を指さしながら生徒の方を振り返ってみせた。


「何言ってんだよ先生、赤に決まってんじゃん!」

「正解だ。じゃあこれは?」


 今度は黒板に手をついて教室を見渡す。


「緑だと思います。」


 クラスでは一番成績のいい深瀬さんが手を挙げながら答えた。斜め後ろからは若干イライラした顔のように見える。


「正しい。よくできたな。」

「先生なんでそんな当たり前の事聞くんだよ。いい加減授業始めようぜ。」


 真面目に話を聞いていなかったりバカバカしいと始めから聞く耳を持たない者も多かったが、口に出さないまでもクラスの大半がそいつと同じことを思っていただろう。


「わかったわかった。じゃあ最後の質問だ。これは何色に見える?」

 先生は誇らしげな顔で教卓の前にある何もない空間を指差してそう言った。


 クラス全体がポカンとした顔色をみせて、次には少し考えようと試みて数分を使ったが、とうとう質問の意味が分からないという答えが出た。


「これは()()という色だ。」


「人間には一つだけ見えない色が存在するんだ。眼球の中の網膜にある細胞の機能で光を感じ取ってそれを色と認識しているわけなんだが、これがどうも赤の光と緑の光は打ち消し合う性質を持っているもんだから、同時にその光が入ってきた時に人間にはなんの色も感じ取れないんだ。」


 先生は黒板に図を描きながら沢山のチョークを使って丁寧に説明した。


「光が来てんのに目に見えないから何色かもわからないって、なんかそれってインチキじゃないですか?」


 さっきの先生の質問の答えは禁色というのが正解だったらしい。


「それこそが禁色だ。赤でもあり緑でもある。そこに存在はしても認識されなければ存在しないことになるんだ。」


「はい。お遊びはここまで!じゃあ授業始めてくぞ…………」



 ◆◆◆◆◆

 


 少し遅れてしまったが僕の名前は 岡目(おかめ)蓮 

 

 こうやって橋の欄干に立っているのは、なにも身を投げようってわけではない。気持ちがいいからここに立っているし、周りの人になんら迷惑はかけていない。


 僕は透明人間だ。


 正確には人間の目に映る状態と映らない状態とを切り替えられる、結構便利な能力を持っている。


 だからここに立っていても僕を心配する人間は一人としていないし、こんな感じで普通に目の前を歩いていても目が合うなんてことは一切ない。


 元より僕が人間の目に映っていたとしても、心配なんかされない。運動も出来なければ勉強も出来ない。目つきも悪いし背が高い方でもない。


 つまり彼女はおろか、心配してくれる友人の類も存在しない。さっきは透明人間を便利な能力と言ったが、僕が使うと実はそんなこともなかったりする。


 クラスが騒がしい中、いきなり能力を使っても僕が消えたなんてことに気づく奴はほぼいない。


 能力なんか使わなくても僕は 空気 だ。


 そういえば、さっき先生が言っていた禁色に近いような気もする。存在していても認識されない。


 いっそここから飛び降りてみるか。ニュースにでもなれば少しは僕のことを考えてくれる奴が出てくるんじゃないか。


 いや、まず川に落ちたことにも気づかれないだろうな。

 

「あんた、なにしてんの?」

「なに……?なにってそりゃあ……」


 声に反射して応えてしまったが、残念ながらこれは僕に向けられた質問ではない。


 振り返ってみると赤い髪の女の子が立っていた。見た目からして同年代くらいだろうか。


「な、なによ。」


 どうゆうことだ。めちゃくちゃ目が合っている。腕を組みながら確実にこちらを見ている。


 そんなはずはない。彼女以外が素通りしているということは能力が発動していることに間違いはない。


「だからあんた、そこで何してんのよ。」

「……」

「何とか言いなさいよ。」

「け……景色を見てるんだ。ここに立った方が見やすいと思って。」


「ふーん。そう。」

「えーっと、なんか用ですか?」


「なんでもないわ、じゃあね。」


 不満そうな顔をしてそのまま行ってしまった。姿が見えなくなるまで一度も振り返ることはなかった。


 これが彼女 赤坂撫子(なでしこ) との最悪で最低な出会いだった。





 「疲れたな……ただいま……」


 そうか、この春から両親は仕事の都合でこの家にはいないんだった。僕には兄弟もいないからこんな広い家で一人暮らしをしていたんだった。


 お腹も空いていなかったからすぐ二階に上がって、自室のベットに腰掛けて鞄を置いた。


「……しかし、彼女は一体何だったんだ?」


 今までに能力を使った状態で人とコミュニケーションをとったことなんてなかったからか、彼女と別れてからもずっとモヤモヤしている。


 仕方ない……。今日も書いて寝るか。


 自分の能力に目覚めた小学三年生の頃から毎日の出来事を日記帳につけている。これは僕自身の細かい性格もあるが、幼いながらも人とは違うこの能力についてなんとなく記録に残そうと思ったんだろう。


「もう、二十三冊目になるのか。」


 はじめてつけた一番端にある俺ノート①は擦れてボロボロだ。


 僕はいつもとは違った今日の出来事をノートに記すことにした。


―――――――――――――――――――――――

4月9日 金曜日


いつものように能力を使っていたら赤髪の女の子と目が合った。なんと俺の姿が見えていたらしい。


彼女が僕と同じように特殊能力を持っているのか、僕の能力が弱くなったのかはまだわからない。


それはそうと初対面の人間にあんな冷たい態度で鋭く睨みつけるのはどうかと思う。


僕も人のこと言えないけど。


―――――――――――――――――――――――


この作品に目を通してくれた全ての人に感謝を伝えます。ありがとうございます。また、少しでも次が読みたいと思った方は評価の方をして頂けると幸いです。

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