6話 下着
そう言えば下着を買っていなかったと思い、下着屋を探す。
サービスカウンターの奥にいる女性に、女性下着売り場を聞く成人男性の図はもしかしてセクハラに該当するのではないかと不安になったが、カウンターの縁からちょこんと頭を覗かせる、年の割に発育の良い渚の姿を見つけて、その顔に営業スマイルを取り戻してくれた。
例の如く俺は女性用下着を購入する趣味を持ち合わせていないため、こういった店の作法を全く存じておらず、店の前でウロウロとしていたが、丁度客が少ないのかモールの廊下に出て客引きをしている従業員に声をかけられた。
「どうなさいました?」
例の如く不審者を見る目であった。変なおっさんに店の前でたむろされると商売にならないことは十分に承知しているので、手短に渚の下着を買いに来たことを告げる。
俺は隣の店が雑貨屋だったので、適当に店と廊下の境目辺りで雑貨を眺めながら、渚が帰ってくるのを待った。
「お父さん、お待たせしました。お嬢さん、今着けてらっしゃるのよりサイズが大きくなっていたので、新しいサイズの物をご用意しました」
「ああ、どうも」
お父さんではないのだが、お父さんでなければなんなのだと突っ込まれては返す言葉がないため、余計な言葉を噤んだ。妻に先立たれたシングルファーザーが娘と下着を買いにきた甲斐甲斐しい父親だと思われた方が、よっぽど印象が良い。
しかし俺が父親か。渚が11歳だから、俺は13・14歳で相手を孕ませたことになる。
確かに中学2年と言えば性欲真っ盛り。童貞は既に捨てていたと言えども、父親になるにはいささか早すぎる気がする。元より結婚は愚か親になるつもりなど毛頭なかったが。
渚は自分のバスト事情を赤裸々にバラされ、恥ずかしがって俯いていたので、俺も極力大したことないように振舞い、「フードコートでおやつにしようか」と言って、クレープを二人で購入して食べた。
結構な大荷物になったため、モール内の宅配便コーナーで段ボールを購入し、今日使うものだけを残して郵送した。隣の市だから翌日には届くらしい。
駐車場の警備員に、駐車券とモール内で購入したレシートを見せ、駐車代金を割り引いて貰った後、俺はバイクを走らせた。
「今日は楽しかったです」
「買い物しただけだよ。取りあえず食器と寝間着は買ったから、今日から使おうか。明日には他の物も届くから、確認するといい。棚に渚のスペースを作るから、好きなように使うといいよ」
下着屋の店員さんにお父さんと呼ばれて一つ気付いた。
姉が渚を宿した時、姉は当時19歳であった。
なぜ、10代という若さで出産を決意したのか、実家の反対を押しきり家を出てまで渚を産む程に、大切な存在だったのだろうか。姉にそうまでさせた渚の父親とは、一体誰かのか。
少しだけ気になった。
それはただの興味心で、渚の心に歩み寄ろうとか言う感情ではないことは確かだけど。
やはり俺は、死んだ姉をまだどこかで諦めきれないでいる。シスコンだったからな。