救出
声は、ブロック塀の付近から聞こえてくる。
「おいおい、何でこんな中にいんだよ……」
「いや、転送した時にこの座標に建物があるとは思わなくて」
(なんか、物凄い間抜けなシチュエーションだな)
そう思ったフータであったが、天然っぽくて可愛いか? と思い直すと、どうやって壁を壊すかを考える。
ナイフじゃどう考えても無理で、車を突っ込ませるにしても、キーがない。
(金物屋がありゃ、ハンマーが置いてあるか?)
狭い路地に入り、店を探す。
すると、足元に水たまりがあることに気づいた。
「……いや、違う」
それは、水たまりでは無く血だまり。
建物と建物の隙間から、素早く影が通り過ぎたかと思うと、竜の叫び。
恐らく、少し先で竜と竜が争っているのだろう。
(食うモンがないから、ドラゴン同時で争ってんのか)
フータは、閃いた。
腰を落とし、血に手を触れると、それを舐める。
これで、鎖魔法が一度だけ使える。
ナイフを構えて、じりじりと争いの起こっている方へと向かう。
建物を抜けた先に、ネコと翼竜が激しく揉み合っている場面に遭遇した。
「ピュイーッ」
フータが指で輪を作り、それを口に含んで笛を鳴らす。
「こっちだ!」
手をぶんぶん振り回してアピールすると、目を血走らせてネコが走ってきた。
建物の隙間を逆走し、元の位置まで戻る。
ネコが一足で建物を飛び越え、数メーター後ろに降り立つ。
その瞬間、手をかざし、ネコの体とレイミの埋まっている壁とを鎖で繋げる。
フータが全力で走る。
ネコが追う。
鎖が一直線に引っ張られ、壁面にヒビ。
そして、限界を超え、壁が砕けた。
「っし!」
破片が飛び散り、その内の一つから声がした。
「ここです!」
「……へ?」
破片の大きさは、せいぜい30センチ四方。
まさか、レイミは妖精みたいな小型なのか?
だが、今は悩んでる暇は無く、フータはそれを小脇に抱えて、中華料理屋の中へと逃げ込んだ。
「うらっ」
ブロックの塊を地面に落として、破壊。
砕けた石の中から、何かが起き上がる。
「いてて…… もう少し、優しく助けてくれでいす」
フータは、固まった。
何か言いたくても、言葉が出てこない。
目の前にいるのは、ピンク色の、りす。
「お前…… レイミ?」
「レイミはお前をおびき出す為の罠でいす。 自分はシマリスでいす」
フータは、目の前の生物に、殺意を覚えた。