正体
「おい、聞こえるか? お前の企みは見破った。 観念して正体を教えろ」
フータが無線機に向かって、質問する。
すると、反応があった。
「助け…… 下さい。 私…… 名前…… レイミ」
「えっ」
lisukoでもホノカでもない、別の女性。
やや雑音混じりであったが、声はめちゃフータの好みであった。
(この子、絶対可愛いでしょ!)
ドキドキしながら、更に質問する。
「あ、あの…… あなたは一体」
「私は…… 未来から転送…… 身動きが取れな…… 助けて」
にわかには信じ難い。
未来から転送されてきたというこの女性。
断片的なセリフをつなぎ合わせると、どうやらそういうことらしく、現状、身動きが取れないらしい。
(やっぱり、何かのイタズラか? 迂闊に外に出ればドラゴンの餌食になりかねないし)
フータがどうしようかと悩んでいると、決め手の言葉が聞こえた。
「あのっ…… 助け、くれたら、何でも…… ます」
(な、何だって!?)
助けてくれたら何でもする。
あんなことや、こんなことまでしてくれるというのか!
フータは、ダメ元で質問してみた。
「い、イチャイチャしても、良いですか?」
千載一遇のチャンス。
フータはプライドをかなぐり捨てた。
「いい、ですよ…… それ、くらい……」
思わず、フータの鼻から血が流れる。
(オッケー出ちゃったよ!)
「ちょっと準備するから、待ってて!」
翌朝、フータは授業を腹痛と偽り休みにした。
地下から脚立、虫除けスプレーを持ち、腰にはナイフ。
ポケットにはドラゴンキャンディを入れてきた。
「準備万端だ」
昨日の夜、フータは無線機の相手、レイミの救出作成を考えた。
まず、夜中に外を歩くのは危険な為、昼間に決行する。
危険な理由は、そこら辺に生息しているネコ・ドラゴンは夜目が効く為、こちらが不利になるからである。
フータは、1階のエントランスの天井に付いている感知器の真下に脚立を置き、スプレーを手にした。
(今から、こいつにスプレーを吹きかけて、誤報を起こす)
通常、外を出歩くことは禁止されており、教師の許可が必要になるが、火事などの緊急時の場合、脱出経路を確保するため、自動的に出入り口が開く仕組みになっている。
今回は、スプレーで擬似的に火事の状況を作り出す。
スプレーを感知器に吹きかけると、
「ビー、ビー、火事です! 速やかに避難して下さい!」
スピーカーから音声が流れる。
「よしっ、上手く行った!」
フータは、脚立から飛び降りて、外に面している扉に走った。
そして、そこから外へと出る。
(久しぶりの、外だ)
何年ぶりか。
もしかしたら、この学校に来たとき以来かも知れない。
フータは、姿を晒さないよう、腰をかがめてその場から離れた。