周波数
「やるしかないか……」
フータは覚悟を決め、霊と対話することを決めた。
書きかけの原稿を手に入れ、それを完成させる。
そうすれば、声も消えるだろう。
(これで消えなかったら、漫画家になるしかないかもな……)
lisukoが納得するまで、漫画を書くしかない。
幽霊に漫画の書き方を教わるとか、どっかの囲碁漫画に似てるな、とフータは思った。
時刻は夜中の0時。
そろそろ、声が聞こえる時間だ。
「……」
一向に声は聞こえず、シン、と静まり返る部屋の中。
昼間なら、窓の外を翼竜が滑空しているが、そんな姿もない。
フータが欠伸をしようとした、その時だった。
「……けて、たす、けて」
「来たっ」
ノイズを含んだ、声。
「おい、lisukoか? 俺の声が聞こえるか!?」
しかし、呼びかけには答えず、助けて、助けてと一方的な呼びかけのみ。
(……上?)
ふと、天井から声がすることに気がついた。
そちらを見やる。
「放送の機器からか?」
フータの目に付いたのは、天井面に取り付けられているスピーカーで、普段はここからラジオのBGMが流れている。
(ただのイタズラか?)
無線機を使って、ラジオの周波数に合わせて声を送っている可能性が浮上。
lisukoの声は、ただのイタズラかも知れない。
しかし、一体誰が何の目的で?
ホノカが自分を脅かすために、そんなことをしているのだろうか。
(だったら、逆に脅かしてやる)
部屋から出ると、エレベーターを使って地下1階に移動。
通路脇にある倉庫の扉を開けた。
この部屋には、建物の補修や設備の修理をするための道具類が並んでいる。
フータは、その中から広域の周波数をカバーできる無線機を1台、手に取った。
更に、放送室のある部屋に向かい、扉を開けた。
(鍵、してないのかよ)
この時間帯は何も放送していないが、選択している周波数を確認することが出来た。
「1113KHzか」
フータは、無線の周波数を1113KHzに合わせ、呼びかけた。