ドラゴンの長
朦朧とする意識の中で、フータはホノカを見た。
「ごめんね」
最後にそう言って、ホノカは暗闇の向こうへと消えた。
フータは、目を覚ました。
どうやら仰向けに床に倒れているらしい。
そして、次に思ったのは、ここは天国か? ということだった。
(もしかして、地獄? それとも、まだ決まってないとか?)
すると、何者かに煙を吹きかけられた。
「ぐえっ、ゴホッ、ゴホッ……」
煙が目に入り、染みる。
「早く起きないと、燻製になっちまうぜ」
低く地響きのような声だが、相手は一体誰なのか。
突如、フータの目の前にアゴが現れたが、人間のものではない。
質感的にはトカゲに似ていて、色は赤。
それでいて、やたらでかい。
(……最悪だ。 俺は、ドラゴンのディナーとして運ばれたのか)
スパイクドラゴンは、フータにとどめを刺さず、この場所まで運んだらしい。
しかも、手足に力が入らず、逃げられない。
これから死ぬのなら、死んでいた方がよっぽどマシだった、と毒づく。
恐らく、ドラゴンのくせに流暢に話しかけてくるのは、自分が探していた長老だろう。
まさか、こんな形でここまでやって来るとは。
「ひと思いに殺してくれ」
「そうは行かねぇ。 どうだ? 俺たちドラゴンの仲間にならねぇか?」
「……ふざけんな」
妙な事を言い始めたドラゴンの長。
でかいタバコを吹かしながら、ガハハ、と笑う。
「お前、仲間に殺されかけたらしいじゃねーか。 気の毒にな」
「……」
フータは、思い出した。
ホノカが、自分に向けてボーガンの矢を放ったという事実。
(何で……)
「まあ、長いこと人間を見てきた俺には分かるぜ。 相手が気に入らないってだけで殺し合うのが人間だ」
フータは、ハブられていた。
理由は思い当たらない。
だが、このドラゴンが言うとおり、ただ気に入らない、それが理由なのか?
(そんな……)
フータは、ホノカや他の仲間の為に、犠牲になることを選んだ。
それは、間違いだったのか?
そこまでして守る価値のある仲間では無かったのか?
「お前はこのまま死に行く運命だが、もし、俺の子になると誓えば、力を分けてやる。 シーザーがお前を見込んで頼みに来たんだ。 感謝するんだな」
シーザー。
スパイクドラゴンのことか、と思惑する。
フータは、このままでは死ねない、と思った。
(ホノカにもう一度会って、確かめないといけない)
フータは、言った。
「……力を、くれ」
「よく言った。 力をやるから、早速仕事だ。 お前の仲間がすぐそこまで来ている」
ドラゴンの長は、おもむろに自分の腕を口に運ぶと、ガブリ、と噛みついて、そこから滴る血をフータに浴びせた。
死ぬ寸前だったフータの体に、再び力が宿る。
起き上がると、洞窟の入口へと歩き出した。
しばらく歩くと、入口付近にホノカが立っていた。
驚いた表情。
まるで、幽霊でも見たかのような顔つきである。
「何で、俺を殺そうとした」
「……」
ホノカは何も言わず、肩に乗っていたシマリスが形態変化して、剣になる。
それを手に取ると、切っ先をフータに向けた。




