ガソリン
現れたのは、トゲトゲに身を包んだ、スパイクドラゴン。
角を生やしており、サイズは翼竜の2倍。
それが、ガソリンスタンドの建物の裏手に身を潜めていた。
フータがライトボーガンを乱射するも、装甲が硬い。
「ダメだ、弾かれる」
「フータ、車に乗って」
諦めて逃げるのか。
ホノカは突然、ホースを掴んだまま、その場にガソリンをまき散らし始めた。
「フータ、運転代わって!」
慌てて運転席に乗り込むフータ。
ホノカが乗り込んだのを確認し、車を発進させる。
ホノカは、車内に転がっているライトボーガンを拾い、地面に向けて発射。
火花が散って、床面に火の手が上がる。
「ゴルアアアアアーーッ」
スパイクドラゴンが叫ぶ。
「フータ、もっとスピード上げて!」
「わかっ……」
言いかけた次の瞬間、耳鳴り。
とてつもない轟音が、辺りを包んだ。
熱風が、背中を押す。
ガソリンスタンドのガソリンに引火して、大爆発が起こった。
「ドラゴンは!?」
振り向くと、煙で何も見えないが、あの爆破では恐らく助からないだろう。
「地面にクラック (亀裂)があったから、上手いこと誘爆出来るかなって。 うまくいったわね」
地下タンクのガソリンに火を付けるという発想。
ワイルドだろう? と言いたげな顔でフータを見やる。
(な、何てヤツだ)
今夜は震えて眠ることになりそうだ。
一方、レッド、ドクター、クルミの方も、旅は順調であった。
ジープを旅館の駐車場に止め、街を散策する。
この一帯は温泉街で、地面から湯気が立ち上ている。
「誰もいねーな」
レッドが呟く。
かつての観光地も、今はゴーストタウンである。
「その代わり、ドラゴンもいないみたいですね。 この硫黄の匂いを嫌っているのかも知れません」
適当なコンビニで夕食を買うと、旅館に戻ってくる。
「ひとっ風呂、あびっか」
レッド、ドクターは男湯。
クルミは女湯でそれぞれ風呂に入り、浴衣に着替えて部屋で合流した。
コンビニの飯を食いつつ、クルミが言った。
「やっぱり、フータさん、気の毒です」
「……」
それは、他の2人も同意であった。
フータを無視することに、内心、罪悪感を覚えていた。
「ちっ……」
舌打ちするレッド。
レッドが一番、自分に嫌気が差していた。
「腹立つぜ…… いじめみてーになっちまってよ」
誰かをハブにする行為。
一番嫌悪していたことを自分がしているという事実に、レッドは疑問を感じていた。
すると、ドクターが立ち上がった。
「僕も同じ事、思ってました。 もし、まだ間に合うのなら……」
「引き返そう」
レッドが2人を見て、言った。




