溝
その日の昼。
フータはトイレで弁当を食べていた。
「……」
涙目になりながら、ガフッ、ガフッ、とサンドイッチを無理やり胃に押し込む。
いつもなら、5人揃って昼食を取るのに、なぜ、一人で食べているのか。
きっかけは、班編成が決まってからのメンバーの態度であった。
あの日以来、フータはどことなくよそよそしいみなの態度が気になっていた。
そして、シマリスが現れ、フータの代わりと言わんばかりにその輪に加わり、自分の居場所が無くなるのでは? という不安を抱く。
そして、溝が深まる決定的な事件。
それは、地下のショッピングモールでの出来事である。
このショッピングモールは、生存している人間らが新宿駅の地下を改良して作った施設で、ドラ専の地下と繋がっている。 (外敵が入って来ないよう、ここから外へは出れない)
そこには駅弁なる物も売られていて、遠征の際に食べる弁当をみんなで選ぼう、とレッドが提案し、フータはそれを楽しみにしていた。
フータが翌朝起きて他の者の部屋に向かうと、既に誰もいなかった。
仕方なく一人で地下へと向かうと、自分を除くメンバーが先に弁当を買って戻って来たのだ。
(あいつら、どういうつもりだよっ!)
フータは、拳を握り締めた。
みな、下を向いてフータをスルーしていく。
思わずカッとなって怒鳴り散らそうとしたが、どうにか踏みとどまると、彼らの背に向かって捨て台詞を吐いた。
「俺が何をしたのが知らないけど、別に謝るつもりはねーよ。 仲良しこよしでやってればいいさ」
フータの本心ではなかった。
本当は、自分も仲間に入りたい。
それでも、フータにもプライドがある。
自分が悪いことをした訳でも無いのに、頭を下げるのは納得いかない。
そしてそのまま、一人でショッピングモールへと向かった。
クルミが一瞬気に掛けたが、ホノカが仕方ない、と諭した。
あっという間に、決行日がやって来た。
フータは心を閉ざし、俯いて目を合わせようとしない。
なぜ、こんなことになってしまったのか、自分でも分からない。
つまらない意地で、後に引けなくなってしまった。
唯一の救いは、こちらのメンバーがホノカだけであること。
シマリスは所詮データだし、今この状況でレッドやドクターと一緒にいても気まずいだけである。
武器一式を積んだジープが2台並んでいて、レッド、ドクター、クルミが先に乗り込み、出発した。
「……フータ、行くわよ」
「……」
ホノカも、フータがこんな風になるとは思わなかったが、無理矢理車に乗るよう促す。
「いつまでそうしてるのか知らないけど、仕事はしてよね」
ホノカも内心では、自分に非があることは分かっていた。
それでも、これが自分の使命だと言い聞かせ、ハンドルを握った。
「……」
まだ若いフータは、中々気持ちの切り替えが出来ないでいたが、もし、和解案を先に通せば、みんなを見返せるかも知れない。
そうすれば、きっと態度も変わるだろう。
そう思うと、少し明るい気持ちになった。
3人を乗せたジープが、走り出した。




