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115歳の魔法少年とそよ風魔法少女  作者: 湯樹
序章 エレント村編
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九節 紅色の騎士

「ニコル・ラデール……だと!? いや、いいや! 百年前の、それも人間がこの時代にいるわけがない! 仮に生きていたとしても――」


「少年の姿をしているはずがない。そう言いたいんだろう?」


 名前を聞いて慌てふためくネロに僕は淡々と話す。若返ったり、時を超える魔法がないわけではないけれど、お生憎様そこまでふざけたトンデモ魔法は流石に使えない。


「ちょっとワケありだけど僕は正真正銘百年前……正確には百年以上前から生きている人間だよ。さて――」


 一息置いて続ける。


「このまま去るならばこちらも深追いはしない。しかし、まだ戦うというのならそれ相応の覚悟はしてもらおう。さぁ、どうする。魔神族、ネロ・デッドマン」


「答えは――こうするに決まっているでしょう!」


 ネロが出した答えは、僕と戦うこと。目の前に大きな魔方陣を描き、再び魔獣を召喚しようとするがそれを黙って見ているほど僕もお人好しじゃない。


「《電撃ライザー》」


 魔法を唱え、電撃を飛ばす。しかし――


「そこまでだ」


 どこからか聞えた声と共にネロの目の前に黒い炎の壁が現れ、僕の魔法は防がれた。


 炎の壁が消え声の主が姿を現す。真っ赤な兜と鎧を纏った、まるで騎士のような出で立ちをした人物が目の前に立っていた。


「……私は村人達を無力化しろと伝えたはずだが、なんだこの有様は」


「――ッ! 申し訳ございません! 邪魔立てする者が現れまして――」


「あぁ、言葉が足らなかったか。戦闘行為を行わずに無力化しろと伝えたはずだが貴様には難しい内容だったかな」


「――ッ!」


 紅い騎士の言葉にネロはどこか怯えているように見えた。


「そもそも外部から何者も侵入出来ないよう、結界を張るのも貴様の仕事だったと私は認識しているのだが、それすらも満足にこなすことも叶わないか。いや――ニコル・ラデールと言ったか、かの伝説の魔法使いが相手では無茶な注文だったかな」


 紅い騎士はそう言ってネロから僕へ視線を向け、ふふっと不敵に笑ってみせた。


「ニコル・ラデール。その名前と姿はこの身体がよく覚えているぞ」


「生憎だけど僕はあなたのような紅い鎧を纏った魔神族は知らないなぁ」


「ふふ、それもそうだったな」


「?」


 紅い騎士が何を言いたいのか分からないけれど、これだけは言える。

 こいつは強い。戦闘になればこの村が吹き飛ぶのを覚悟しなくてはいけないだろう。というか正直今の状態で勝てるかどうかは怪しいところだ。


「そんなに身構えるなニコル・ラデールよ。窮地に陥っている無能な部下のもとにはせ参じた……が、私は私の用件を済ませたのでな、すぐにでも部下を連れて帰るとするさ」


「用件?」


「これだよ」


 そう言って紅い騎士は一本の剣を僕に見せつける。それは――


「選定の剣! 何故魔神族がその剣を抜ける!」


 記念祭に催し物として企画されていた選定の剣、かつて僕と共に戦った勇者の剣。剣が認めない限り決して抜けないはずなのに何故――


「さぁ。しかし、この剣が抜けた者は勇者となる……だったかな? 魔神族なのに勇者とは……ふふっ、困ったものだ」


「悪いけどその剣返して貰っていいかな。知り合いの物なんだよね……!」


 不敵に笑う紅い騎士に僕は問うが、


「断る」


 紅い騎士に即答で断られた。なら乱暴だけど――!


「《雷撃グロム・ライザー》!」


「《炎壁フェゴ・ウォール》!」


 魔獣を一撃で屠った魔法で紅い騎士を攻撃するも、向こうも即座に反応しネロを救ったとき同様の炎の壁を出して防ぎきってみせる。


「申し訳ないがこちらとしても村を焼き尽くしたいわけではないのでね。ここいらで失礼するよ」


 炎の壁の向こうから聞える声が徐々に小さくなる。せめて――


「名前教えて欲しいなぁ……!」


「……クリム。クリム・ガーナ。またどこかで会おう伝説の魔法使いよ」


 クリム・ガーナ。そう告げた声の主は炎の壁が消えた先にはもう既に居らず、広場には陽が差し込んでいた。



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「これで王都へ連れて行く方はすべてですね」


 魔神族の襲撃があった翌日の朝、王都から使者がやってきた。村や家屋に衰弱した人々を回復させる結界を張ったものの効果があまりなく、王都の回復魔法を得意とする魔法使いが多く居る場所へ連れて行くためだ。

 ちなみに連れて行く人達の多くは当時屋外に出ていた人や老人たちだ。


「えぇ。あとは護衛も兼ねて僕も王都に行きます」


「私も行きます!」


「……本当についてくるの?」


「もちろんです! 私はししょーの弟子ですからね!」


 先日のネロとの戦いの最中に目を覚ましたシエルはどうやら僕の名前をバッチリ聞いていたらしく、僕を見る眼差しが今までの八割増しで輝いている。目から光線が出るんじゃないかな。


「ご両親の許可は頂いているから反対はしないけど……でも例の件はちゃんと守ってよ?」


「はい!」


 例の件、というのは魔法を教えるにあたっての約束事……だけでなく僕の名前を公言しないことだ。百年以上前から生きている人間、それもかつての大戦を終わらせた人間だということをあまり多くの人に知られるのは都合が悪い。無駄な混乱を避けるためにも僕はシエルに箝口令を敷いたのだ。


「……そろそろ出発します。ニコ様とシエル様はあちらの馬車へお乗りください」


 一連の流れを目の前で見ていた使者は早くして欲しいのか、若干不機嫌そうに僕たちを促す。


「じゃあ行こうか」


「はい!」


 僕たちが馬車に乗り込んで数分、馬車が動き始める。


「行ってきまーす!」


 シエルは見送りに来た両親に手を振って別れの言葉を交わしている。


「どうした。珍しく難しい顔をしてるじゃねぇか」


「まぁねぇ……。色々あったからなぁ」


 シエルに被られて一緒についてきたボロに僕は溜息をつきながら答え、昨日の出来事を思い返す。

 魔神族が再び現れたこと、魔神族があの剣を引き抜けたこと。一体何が目的なのか。今持っている情報だけではなんとも言えない。


「ししょー! 村の外ってこんなに広いんですね! 原っぱも山も空もすごく綺麗です!」


「あぁ、そうだね」


 でも真面目に考えるのは後でも良いか。――外を眺めて楽しむシエルを見てばし馬車に揺られながら僕はそう思うのだった。

大変お待たせしましたが、ここで序章となるエレント村編が完結となります。

次回更新分から1章となります。新キャラも沢山出る予定ですので楽しみにしていただければなと思います。


また先程申し上げたとおりここで一区切りとなりますので、区切りの良いところになるまで感想や評価はしないぞ……! といった読者の方は是非感想や評価をしていただければと思います。

私に限らず多くの作家がそれを励みに頑張る生き物ですので、甘口でも辛口でも、ただ一言良かっただけでも結構ですので感想お待ちしております。

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