本物の殺人鬼がゲーム内で殺人鬼を気取っている奴をバッタバッタと殺します
あらすじ通りです。
拙い作者の更に拙い頃の作品なのでどうかとってもあったかい眼で見てやってください。
15番区域主要都市『フィフルフス』……10万人ものプレイヤーが捕らわれたデスゲームである『アルカナ・オンライン』で最も危険であり、荒廃したステージ。
他のステージで見られるような緑豊かな風景や、本物さながらに動き回る動物たちなどここにはいない。
何処まで歩いても変わらない砂漠のような台地は汚染された大気によって光が阻まれ常に薄暗く、動くものはプレイヤー以外は醜悪な外見の魔物しかいない。
この狂ったゲームから逃げ足す為にプレイヤーたちは常にゲームクリアを目指す。
そして現在の最前線は39番区域、15番区域である『フィフルフス』のボスエネミーが倒され次の区域が解放されたのなどとうの昔の話だ。
それ故に、未だこんな腐りきった場所に居るのは決まって問題を抱えている者たちだけなのだ。
「おら、とっとと歩けェ!」
小汚い鎧を身に纏った男がモタモタと歩いている子供に手を挙げる。
男の手には子供に繋げられた鎖が握られており、避けることすら許されず振り上げられた拳によって小さな体は近くにあったごみ捨て場までふき飛ばされる。
周りの者たちは何も言わない、男に恐怖しているわけではないのはニヤニヤとした口元を見れば誰にでもわかる。
価値観の狂っていない者などこの街には存在しない、今の光景は日常であり愉悦なのだ。
子供の方もそれを知ってか知らずか、文句も涙も無く立ち上げり何もなかったかのように再び男の後ろを歩き始める。
それから数分もしないうちに目的地に着いたようで、男は隠れるように建つ路地裏の建物の中に入る。
「ボス、帰ったぜ! 今日も新しいガキを連れてきた!」
「いつもご苦労」
建物の中は寂れたバーといった様相で総勢20人位の男女が賭け事や酒を酌み交わすなど各々のやりたい事をやっている。
ファンタジー要素の強い『アルカナ・オンライン』の中でここだけは世紀末のような有様だった。
「さて」
ボスと呼ばれた男が床に座り込まされた子供の前に立つ。
現実世界と同期させられたその容姿は20代くらいの美形の男であり、整った容姿とは対照的に一切動くことのないその表情は時に仲間たちすら怯えさせる。
「ギルド、『ジャックポット』へようこそ。俺は団長のセブンだ。お前の名前は?」
「…………」
「答えないか。まあいい、商品として売れれば俺は困らんからな」
そう言ってセブンは子供が身に着けていたコートを剥ぐ。
「上玉だな」
「そうでしょう! まだガキだがこの街の変態共なら喜んで買いますぜ! こんなのがその辺をうろついていたら誰だって誘拐しますぜ!」
「うろついていた?」
引っかかるところがあったようで、セブンは視線を男の方へと向ける。
薄氷のように冷たく、鋭い目に委縮しながらも男は説明を始める。
「え、ええ。例のレアエネミーが出る場所にコイツが来るのを何どか見かけていたもんで。普通の奴らはあそこ目当てでぐらいしかここに来たりしませんよ! 」
「罠の可能性は考えなかったのか?」
「俺だってそれくらい考えてましたよ! だが俺の索敵スキルにも何も引っかかりやせんでしたし、それにこんなガキ送り込んできたところで何も出来やしませよ」
――無能が、と内心セブンは思う。
目の前の少女に何も出来なかったとしても、少女の場所を伝えるだけなら方法はいくらでもある。
子供を捨て駒にした作戦など自分たちのような裏ギルド以外が取るとは考えられないが、何か嫌な予感がする。
念には念を入れなくては。
「身を隠すぞ。『フィフルフス』はもうダメだ、他の街じゃ『印持ち』の俺らは目立ちすぎる。フィールドの洞窟かダンジョンだ、見繕っておけ」
「ガキはどうしますか!?」
「オークションならふんだくれただろうがな。時間が惜しい、人買いに売ってそいつに押し付ける。全員、行動だ!」
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人攫いのギルドではあるが、団長の命令に従い迅速に動くその様子はまさしく一流だ。
誰もが自分のすべき行動を理解し、こなしている。
そこに一切の無駄は無く、だからこそ私は動きやすかった。
「ぎゃあああああ!」
部屋の中に悲鳴が響く。
指示や報告が飛び交っていた部屋の中で、それは明らかに異質であり、皆がその叫び声の方に視線を向ける。
そこでは先ほどまで鎖で縛られていた少女が――私が小汚い男へとナイフを突き刺していた。
「この人はつい先日、仲間になったばかりですよね。同じ印持ち達に自慢していたらしいですよ。『今度俺は有名なギルドに入ることになった』って。随分、犯罪者にしては口の軽い人を仲間にしてしまったみたいですね」
お仕置きです、ともう一度ナイフを男の心臓に差し込むと今度は悲鳴を上げる暇もなく光の粒子となって消えていった。
「……お前は何者だ」
「問われれば答えましょう。私はアンチ、『殺人鬼殺し』。こっちでは『印狩り』って名前の方が有名かもしれません」
「『印狩り』って、俺らみたいのを殺して回るってあの……」
「正解です! それでは正解者には死を」
装備を一瞬で変更することの出来る【クイックチェンジ】でナイフを槍に変え、そのまま右にいた男の心臓を穿ち、引き抜きざまに首を裂く。
またも消えた仲間を見て、ようやく状況を呑み込めたのか、『ジャックポット』の面々は各々の武器を構えだす。
「現実でもゲームでも、私の仕事は貴方達みたいな人殺しを殺す事です。今回の依頼は貴方たちのギルド全員の殺害。ただ、単純に追いかけても逃げられそうだったので懐に忍び込もうと思って、わざと捕まりました。普通はこんな作戦通じませんけどね」
槍をしまって挑発する私に、セブンは僅かに苛立ちげな表情を見せる。
「鎖からはどうやって逃げた」
「ゲームシステム上の『拘束』ならまだしも、あんな手を縛っただけのお粗末なものなら簡単に抜け出せます。首の方は貴方たちが動き出した時にこっそり彼のポケットから鍵を拝借しました。簡単でしょ?」
「そうか、ならば死ね!」
そういってセブンは得物の曲刀を抜いてこちらとの距離を一気に詰めてくる。
真上から振り下ろされた重い一撃を、私は紙一重で横に避ける。
「貰った!」
もはやポーカーフェイスの崩れたその表情に浮かぶのは勝利の笑み、
だが甘い。
「えっ?」
ゴキッと鈍い音と共にセブンの身体が真っ二つになる。
比喩ではない、一撃でHPバーを削り取ったことにより彼の身体は上下を分けるように光へと変わっていったのだ。
ギリギリで避けたのは体勢を崩した訳では無く、カウンターを決める為だ。
カウンターによるダメージの増加、おまけに今回使ったのが隙がでかい代わりに恐ろしいダメージを叩き出す大斧ということもあって、あっけなく勝負がついてしまった。
自分たちのボスの余りにも無力なその様は、ギルドのメンバー達の戦意を喪失させるには十分だった。
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今はちょうど夕暮れ時、日が落ち冒険を終えたプレイヤー達で町中が溢れかえっている。
4番区域主要都市『クワカストロ』に店を構える『ミートンの男料理屋』も例外ではなく、店内は噂に名高い男料理を求めて満席の状態だった。
アンチはいつものように店の前に並ぶ行列をすり抜け、どんな時でも空けてある彼女の特等席へと腰かける。
「やあ、アンチ」
席に着くと、それに気づいて厨房の方からコック帽を被った青年が顔を出す。
男気溢れる店の名前とは似合わない、青白い肌の華奢な青年だが、何を隠そう彼こそこの店の店主である。
「こんばんわ、ミートンさん。……いつも言ってますけど本当に座っていいんですか私? あんなに待っている人がいるのに」
「君には世話になったからな、これくらいはさせてくれ。注文はいつものでいいか?」
「はい、お願いします!」
ちょっと待っててくれ、と言ってミートンは厨房の方へと戻っていく。
それから数分もしないうちに塊のような肉の乗った鉄板と赤ワインを片手にアンチの席へとやってきた。
「あれ? 今日はお酒飲ませてくれるんですか!?」
「これは僕の分、君はまだ未成年なんだからこっちで我慢だ」
そういって彼が差し出したグラスの中身は、如何にも子供が好きそうなアイスの乗っかったジュース。
無言で睨むアンチに、お客様からの差し入れだからと言い訳しながらミートンは向かいの席に座る。
「仕事だったんだろう。どんな感じだったか聞かせてくれ」
「まあ、食べながらで良ければ」
彼はアンチの秘密を知っている数少ないうちの一人なので、特に隠す必要もない。
小さなナイフで手際よく肉を切り分けながら、今日あった『フィフルフス』での出来事を話す。
「それでそのセブンて奴以外は見逃したのか?」
「そんなわけないじゃないですか。早速、逃げだそうとした奴に斧を投げて、そこからはただの一方的な虐殺です。話す様な見どころもないのでカットです」
「虐殺って最初っからそうだったような……いや、それよりも酷かったってことか」
「本当は街の印持ちを片っ端から殺そうとも思ったんですけど、そんなことしたら何人かは逃げて他の街に潜伏するだろうなと思って止めました」
そもそも街中が安全地帯じゃなくてダメージ判定あるとかあの地区作った人まともじゃないですよ、などとアンチが愚痴っていると、面白いものを見るかのようにミートンが笑う。
「どうかしましたか?」
「やっぱり君は正義の味方だな」
――何を言ってるんだこの人は
「人殺しの正義の味方がどこにいるんですか」
「ヒーローもたまにライバルを殺しすことがあるだろう? 死体抱きかかえて泣いたり。子供の頃読んでいて、なぜこの人は捕まらないんだろう、と思っていたよ」
この人は本気で言っているのだろうかと、アンチは思わずナイフを握る手を止めて頭を抱える。
「そういうのはフィクションですから、私みたいのは悪って言うんですよ。どうしようもない悪人しか殺さなくても、主観で善悪を決めて個人で殺す時点で悪です」
「じゃあなぜ悪をやっているんだ?」
「必要悪だと信じているからです。この話前もしませんでしたっけ?」
「酔ってくると善悪論とか、天国はあるのかとか話したくなってくるんだ」
「……私もですけどミートンさんもたいがい変わってますよね」
「否定はできないかな」
そんな仕事終わりの他愛ない風景を遮るかのように、コンコンコンと扉がノックされる。
「どうした」
『お客様……アンチ様にどうしても会いたいという方が店先にいらっしゃっているのですが……』
「だそうだが、どうするヒーロー?」
「通して下さい。この部屋少し借りますね。あとミートンさんは後で半殺しです」
「了解、後半はノーセンキューだ」
言うだけ言い残してミートンが出ていくと、個室には僅かな静寂が訪れる。
新たな依頼主か、恨みのある復讐者か、あるいは全く予想外の誰かなのか。
何にせよ、誰であろうと、クリームソーダに乗ったサクランボを頬張りながら彼女は待つ。
そして、
ノックが再び非日常の訪れを知らせた。
ありがとうございました。
続き(前日譚)は貴方の気持ち次第!
↓↓↓この辺に作者のやる気が上がるモノがあるはず……!