case2 貴族令嬢ーfile010102002
やっぱり短めー
物音は可能な限り立てるべきではない……わね。
せっかく女になったのだから、少しずつ女言葉に慣らしていこう……かしら?
なんか元々の自分の低くなってしまった残念な声を想像してしまうとツライから、軽く声を出して確認しておこう。
念のため周りを確認して、誰にも聞こえない程度に小さく声を出してみる。
「あー……!!」
なんてカワイイ声! なのかしら!
緑色の髪をツインテールにしたネギ振ってる歌姫よりカワイイ! と自画自賛しておくわ。
この身体、ますます気に入ったわ〜
この声なら女言葉になんの違和感もないし、むしろしっくりくるわ。
さいっこうの気分だわ〜
最低の状況だけどー
よし、テンションも上がったし、脱出する手立てを考えないと。
何者に捕まっていてこの後どうされる予定なのか?からね。
後はわたしの味方がいるのかどうかかしら。
自分の生まれがどうとか、この世界がどんな文明レベルなのかとか、転生モノにありがちな剣と魔法なファンタジー世界なのか、とか知りたいことは山ほどあるけど今は気にしてられない。
まず相手が何者かが分からなければ対処の仕方が分からないし……
1人男を見かけたということは、相手は人間である可能性が高そうね。
モンスターとかじゃないならまだマシよね。
しかも4人の女の子が死ぬほどな被害に遭ってるってことは……
荒事に慣れた男が数十人。
対してこちらは服すらない少女が1人……
明らかに無理ゲー!?
死なないことは転生させてくれた神様に保障されてるとはいえ、それを利用するのは難しそう……さらなる悪夢しか呼ばないと思うし。
いくら痛め付けても大丈夫な少女とか、こんなやつらの手にかかれば肉奴隷道一直線じゃないの!
脱水症状からきてると思われた頭痛と吐き気も治まってきたし。
もしかして食料も水も必要なかったりして……
こんな便利な美少女、こいつらが逃すわけない!
ヤバい……思っていたよりヤバい!
超回復力で傷は徐々に癒えてきているから、次見られたらすぐにバレるかもしれない……
見つかってもダメとか、それどんなスニーキングミッション?
相手が何だろうが容赦無く潰せるだけの力でもあれば──それこそ爆薬とか入った木箱でも積んであれば相手を知る必要もなく爆破するだけだけど。
とか考えていたら入口の方から誰かの話し声が聞こえてくる。
「おう新入り! おめえも楽しんだか?」
大声を出し過ぎて喉を潰してしまったようなしゃがれた声。
どうやらここで楽しんだ感想を聞いているようね。
「うっす、お頭……酔ってるっスね。酒も女も自分まで回してもらってありがとうございまスっ」
お頭と呼ばれた男に対して比較的若い声の新入りの答えが聞こえてくる。
話しからするとこいつはさっき彼女の前にいたやつね。
つまり彼は一番下っ端で、最後の最後に楽しませてもらったと。
ということは、全員一度は楽しんだと……
つまり全員殺していいってことよね?
その手段は後で考えるとして、とりあえず2人の会話から手がかりになる情報を掴まないと。
「がはは、そうかそうか、そいつは良かった! なんせもうすぐオレらはこの国を離れるからな! 次の移動は大変だからここらで発散しておかないとな」
このパターンは勝手に自分たちの身の上を喋ってくれるやつじゃね?
どうやら一仕事終えた上に酔っ払って気が緩みまくってるようだし。
「しかし、お頭、今回は何だってこんな危険なマネしたんスか?」
新入りいい質問だわ。
「そうだな……確かに危険だ。だからこそカモフラージュになる」
キリッとかいうオノマトペが見えそうな言葉ね。
「あんまり大っぴらに言えることじゃねぇが……まあ、今日はオメェと外の見張り以外もう休んじまってるから、ここで話しても聞く相手はオメェしか居ねえ。暇潰しに少し話しておいてやる」
うっかり重要なことを話しちゃうフラグきたー!!
ってわたしすっかり傍聴気分だけど、これもしお頭が「もう一回楽しんどくか」とか言いながらフラッとこっち来たらヤバいのよね……
話しからすると今すぐにここに来られるのは2人だけみたいだけど。
盗賊(仮)のお頭と新入り 対 全裸の少女
希望ぐらいは見えたかしら……?
2人ぐらい何とかする方法を何か見つけないと。
「まず、今回オレらが襲ったのは、近くの領地を治める領主の娘だ」
「うぇっ!? あいつらそんな身分なんスか!?」
うぇっ!? って、わたしも声を出すところだったじゃないの!
領主の娘? わたしが? 彼女が? それとも他の2人のうちのどちらかが??
「ああ、一番べっぴんな長い金髪の若い娘がそうだ。この辺りで出来るだけ重要な貴族を狙う必要があったんだ。まさかこのタイミングにこんな良いのが手に入るとは思ってなかったがな」
若い娘……たぶんわたしか一番近くの彼女よね?
でも彼女の髪の毛の色は黒っぽいし短い目。
それに対してわたしは金髪で長い。
つまりそれって、わたしが貴族ってことよね!?
遊んで暮らせるってのも可能性じゃなくて確定事項だった!!
ありがとう神様!
無事領地に帰れたらだけど……
「ってことは今頃必死で探し回ってるってことっスか!?」
「そうだろうな」
ほうほう、助けの手は近くにあるかも知れないと、これは良いことを聞いたわね。
「探し回ってるのは……この辺だと国境警備部隊っスよね?」
「一番可能性が高いのはそうだな。あとは領主の私兵が探してるだろうが、危険なのは警備部隊の方だ。軍のやつらにこの国で見つかったら逃げられないだろうな」
国境警備隊と「この国で」ってことは、ここが地理的には国境付近で、こいつらは国外逃亡しようとしてるってこと!?
こんなやつら野放しにしておけないわ!
何よりこんな惨状見せつけられたら個人的に許せない!
ここで殺したい!
「ってことは、オレらは南の国に逃げるんスか!?」
ようやく気付いたか新入り。
「そうだ。先遣隊はすでにブツを持って南に渡ってる」
「ブツ?」
わたしも気になる。
聞き捨てならないものな気がするのだけど?
「それがカモフラージュしなきゃならないやつよ。オレも中身は何か知らねえ。だが教会のやつらがコソコソ隠し持ってるやつを盗んで欲しいっていう依頼が破格の報酬であってよ……」
「教会っスか? なんか面倒ごとの匂いしかしないんスけど……」
わたしもそう思うわ。
だいたい宗教が絡むとことが大きくなるからね。
新入りのその嗅覚はあってる気がするけど、お頭に嗅覚がないなんてことは?
「オレももちろんそう思ったさ。ただな、新入りのオメェは知らないだろうが、ここを塒にしてからそれなりに時間が経ってんだ。ハデにやってたつもりはないが、どうやら領主から目を付けられてる。だからここがバレるのも時間の問題だったんだ。どっちにしても塒は移すしかねぇって時にその依頼だ。報酬はたんまり、しかも南の国に渡るのを手伝ってくれて、南の国で好きにしたら良いと来た!ちょっと面倒だが乗って損はねぇ話だと思ってよ 。うちは人数も多いし、裏切られた時は返り討ちにしてやるぜ!」
お頭長話ありがとう。
明らかになんとかならない裏切りに遭うわよね、これ。
わたしには全くこの世界の事情が分からないけど、仮に赤い北の国から西暦始まってから続く宗教の隠し事が知りたいって依頼が回って来ても、理由は全く分からないにしても、仕事した後消されるのは確定だと思うんだけど……
お頭切羽詰まってんのかな?
「てなると、明日にでもズラかるんスか?」
「そのつもりだ」
ほほぅ、となると助かる見込みはあると。
「その……奥の女たちはどうするんスか?」
そうそれ! そこが聞きたかった! 偉いよ新入り!
「もう3人死んでんだろ? 捨ててく。残り1人だとしても荷物背負って国越えなんかできねぇ。なんだ? もうちっと遊びたかったのか? 確かにべっぴんだが……」
3人死んでる、とかお前らが殺したんでしょ! やっぱり許せん!
とはいえ今の所こっちに手はない。
そこは未練を感じちゃいけねぇです旦那! 今は逃げることだけを考えやしょうぜ! と言うんだ新入り!
こんな喋り方じゃないけど……
「そうっスね……当分有り付けないと思うと……」
「そう思うならもう一回ヤっとくんだな」
うぉい、お頭ぁー! 人をこっちに送り込もうとするんじゃないー!
「あの領主の娘とか言うのは死んじまったスけど、まだちょっとぐらい味わえるっスかね……?」
わたしじゃんそれ!
「死体はつまらんけどねぇ……まあ、まだ固くはなってないだろうから、オメェがしてぇなら好きにしな」
サイテーーっ!!
外道ーーっ!!
煽ってんじゃねぇよぉぉーー!!
ああ、口調が戻ってしまった……ってそんなこと気にしてる場合じゃないし!
今すぐ何とかしないと!!
ブチィッ!!
へ?
焦ってつい腕に力を込めたら、簡単に手首を縛っていた縄が切れた……
何これ? 縛るのが弱かったの……なわけないよね。
ってことは、わたしが怪力……? この細腕が?
これもそんなわけないわよね。
ってことは転生特典よね?
試しに腕に残ったドレスらしきものの切れ端を引っ張ってみる。
ブチィッといってあっさり千切れるドレス。
こんなの説明されたっけ?