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case1 村長の息子ーfile010101004─tag1

ダラダラと長く書いてしまいました。

そのうち調整するかも……期待しないでねー

->とりあえず分割だけしました。

  要望通りだ。

  確かに僕は嫁さんといずれ出来る子供を要望した。

  しかしながら、その嫁さんがどんな人物か、その子供がどうやって出来たか、などは要望しなかった。

  この分だと『慎ましくも微笑ましい生活』や『普通に幸せな生活』というのも叶えられるのだろう。

  僕の思惑と一致するかは別として。

  まずは現実を受け止めないと。


  僕は目の前の残ったサンドイッチに視線を向ける。


  ミレルは『こいつ』を恨んでいる。

  僕にはもちろん全く身に覚えがないけど、この身体に転生した以上それは人ごとではなく、自分のしたことだと捉えないと危険な気がする。

  僕の予感でしかないけど、『こいつ』は様々なところで恨みを買っている人間な気がする。

  予想が正しければその被害者に「自分のしたことではない」とか「記憶が無い」と言えば、反感を買って恨みは増長し、ミレル以外にも命を狙われかねない。

  転生特典も徐々に薄れていくと言われたし、いつまで超再生能力が続くか分からない。

  ミレルも含めて恨みを清算して、『こいつ』の新しい人生を始めないと、まともに生きていけないようになってしまう。


  『こいつ』の僕の印象とミレルの説明には齟齬がある。

  ミレルは明らかに嘘をついている。

  それはミレルの思惑だ。

  『こいつ』の記憶が無くなったのを良いことに、真っ当な人間であったと思い込ませて、真っ当な人生を歩ませようとしているのだろう。

  だとすると、ミレルは真っ当な人生を歩む僕なら許してくれるのかも知れない。

  真っ当な人生を歩むなら恨みも忘れてくれるかも知れない。

  そんな簡単に人を許せるとは思えないけれど。


  とりあえず今はミレルの仕打ちを甘んじて受けよう。

  殴られるのはイヤだから、何か方法を考えないといけないけど、少なくともサンドイッチは今の身体なら唐子特盛りだと思えば食べられないことはない。


  ミレルの様子をうかがうと、冷や汗を垂らしながら僕の様子を見ている。


  僕はミレルに笑顔を向ける。

  笑顔を向けながら残り二切れのサンドイッチを頬張り、極力美味しそうに食べる。

  食べ尽くす。


  幸運なことにどちらも二切れ目より刺激は少なかった。

  カボチャは本当に美味しいから香草──というか毒草を抜きさえすればきっとまともに食べられるもののはずだ。


  今食べたサンドイッチの味から毒草を取り除いた味を想像する。

  想像できるのはパンの香ばしさとカボチャの甘み、それにそれらを少し引き締める塩っぽさ。


  うーん……いや、ちょっとは刺激が欲しいかな……

  じゃないよ!

  慣れてきてるのか僕は!?

  この環境に!!


  危険な思想は一旦スルーしよう。


「美味しかったよ。ありがとう、ミレル」


  何であれ作ってもらったのだから礼は言わないとね。


  僕の言葉に対して、ミレルは少し顔を青ざめているように見える。


  笑顔を浮かべようと頑張ってると思うけど、頬がヒクついてるよ?


「そ、そう……また作るわ……」


  返事も力が無い。


  普通ならかぶり付いた時点で分かるぐらいに盛ってあったからね。

  普通の量だと死なないと思って、バレることよりも確実に死ぬ方を重視したんだろう。

  それでも死ななかったんだから、途方に暮れても仕方がない。

  でも……


「ありがとう。でも、僕には刺激が強過ぎるから、香草は抜いてくれると助かるな。僕はその香草苦手っぽい」


  そう言って僕はペロリと舌を出して戯ける。


  ミレルは口を開けてポカンとした表情をしてしまった。


  緊張感のない表情に可愛さがあるから、普通にしてたら可愛いんだろうな……


「もしかして、記憶を無くす前の僕は好きだったのかな?」


  僕の言葉にミレルはハッとして表情を元に戻す。


「そ、そうね、そうなのよ。あなたはこの独特の刺激が好きだったのよ。わたしも苦手で入れていないのだけど、次から同じように作るわ」


  言いながらミレルは自分用に準備したサンドイッチを口に運ぶ。


  なるほど、ミレルは結構頭の回転は速いみたいだ。

  このチャンスに、自分用のサンドイッチに香草が入っていないことと、さっき僕の差し出したサンドイッチを拒否した理由を説明した。

  これは手強い。

  色んな手段で殺しに来そうだ。


  持ち上げられたミレルの手のサンドイッチに視線を移した。

  このサンドイッチも豊富なバリエーションがあるかも知れないね……


  暗澹たる気持ちでサンドイッチを眺めていると、自然と一緒に見つめることになるミレルの指。


  良く見るとミレルの指に炎症があった。

  いわゆる『かぶれ』というもの。


  これたぶん毒草によるものだよね?

  皮膚に触れるだけでもダメなのにそれを喰わそうとするし、自分がダメージを受けることも厭わずに毒を盛るって、そんなに憎いのか……

  前途多難だ……

  殴られることだけじゃなく、毒物についても避ける方法を考えた方が良いかもしれない。


  そんなことを考えてる間にミレルも昼食を食べ終えてしまった。


  さて、これからどうしようか?

  とにかくまずは生き残るための手段を見つけないと。


「村のことも記憶にないから、案内してもらいたいんだけど良いかな? 自分の普段やってたことも知りたいし。ミレルは昼からやらないといけないこととかない?」


  そう言うとミレルはまた驚いた。


  ミレルさん何に驚いていらっしゃるの? やりたいことを言って普通に午後の予定を聞いただけなんだけど? これすら『こいつ』のキャラじゃなっていうこと?


「ええ、そうよね、予定よね。今日はあなたに一日中付き合うつもりで来ているから何も入れてないわ」


  何やらミレルは何度も頷きながら答えてくれる。


  何に驚いたのか分からないけど、とりあえず予定が開いていることは分かったから良しとしよう。


「じゃあ、これは僕が片付けるから、何か準備することがあったらしておいて」


「片付ける!? あなたが?!」


  ですよねー また驚くよね? そうだと思った。

  大方さっきの驚きは予定を確認したこととか気遣ったことだよねー

  かと言ってこれは譲れない。

  料理は作ってもらったんだから僕も何かしないとね。

  毒入りだったとはいえね。


  ああ、そうか、僕が料理を作れば問題が一つ解決するのか。

  次からそうしよう。


  生まれて初めて水道がないキッチンで食器を洗った。

  洗剤もなければスポンジもないけど。

  あるのはタワシと布巾ぐらい。


  既にまな板や包丁は片付けられていたから、ミレルが料理してすぐに洗ったんだろう。

  洗うのは僕たちが使った木製の食器だけ。

  タワシで洗うのはどうかと思うので、手でこすり洗いをした。

  日本の感覚だと不安が残るけど、ここではこれが常識っぽい。

  しっかり乾燥させれば大丈夫かな……

  こういう感覚に慣れていかないとね。

  魔法で洗浄とか滅菌が出来れば良いんだけど。


  ついでにトイレに行ってから、ダイニングに戻ることにした。

  田舎に住んでる人には分かると思うけど、こんな世界なんだから裏口から出た先の少し離れたところに家とは別に建てられていて、もちろん水洗式ではなかった。

  実家が超田舎で慣れてて良かった。

  夏のこういうトイレはアレだよね……

  後は紙が無くて焦ったけど、意味深な葉っぱがあったからたぶんそうなんだろう。

  そう言えば、確認してなかったけど、下着は日本と似たようなトランクス式のパンツだったんだけど……なぜだろう?

  そういうものだと思うしか無いんだけど……他の服に比べて時代が違うような気がした。

  縛るようなタイプの、例えば褌とかじゃないの?って。

  誰か男に聞いてみたい。

  とりあえず、トイレから帰ったら必ず手を洗いましょうね。


  ダイニングに戻るとミレルが考え事をしながら待っていた。


  きっとあれだ、僕をどうやって殺すかを考えているに違いない。間違いない。

  というのは被害妄想なのだろうか……否定しきれないのが怖いよ!


「ミレル? 準備できた?」


  そう言うとミレルは不思議そうな顔をして頷いた。


「ええ」


  別に準備することは何もないらしい。

  気を利かせたつもりだけど、見当違いだったみたい……女の子と付き合ったこともない僕には難しいな。


  そうとなれば早速外に出ることに。

  エントランスの扉を開いて外に出た。

  少し出たところに道があり、その先には川が流れている。


  川沿いの家なのか。

  これなら水を汲んでくるのもそれほど大変じゃ無さそう。

  日本ではそれなりに太い川に見えるけど、こっちではどうなんだろう?


  更に川の対岸には大きな道があり、その向こうに木造の建物が並んでいるのが見える。


  馬車でも充分通れそうだから、あれが街道っぽいな。

  やっぱり山間の村だけあって建物の並びも広々とはいかないか。

  それでも日本ほど隣接してるわけじゃないし、間に低木が植えられていたりするから、結構プライベートは大事にしているのかな?


  左側にはこちら側から街道へと橋が架かっているのが見える。

  橋の上から釣り糸を垂らしている少年が見える。

  人通りの少ないのんびりとした田舎らしい空気感。


  でも日本の田舎とは雰囲気がちょっと違う。

  それは建物の形だったり、生えている樹木だったり、目に付く様々なものが自分の知ってるものと違うから。


  遠い外国に来た気分だ。

  この認識は間違いじゃないんだろうな。

  外国というか世界すら違うんだもんね。

  風景がたまたま日本と同じような雰囲気だったとしても、それでも日本とは違うんだから、むしろこれだけ違っててくれた方が異世界に来た実感が持てて良かったのかも知れない。


  良く晴れて澄んでいる空を見上げてぼんやりとそんなことを思ってしまう。

  日本に未練があるわけではないけど、多少はホームシックになるということなのかな?


「ボグダン、どうかした?」


  ミレルが不思議そうにこちらを見ている。


  ボグダン? ああ、僕の名前か……

  出掛けたいと言ったのは僕なのに、扉の前から動かないから不思議に思ったのだろう。

  こんな感覚は村からほとんど出ないミレルには無いのだろうか?

  少なくともここから見える景色は、ミレルにとっていつもの村の風景だろうから、何も感じないんだろうけど。


「ミレルはこの村が好きかな?」


  感慨からか僕の口からそんな言葉がこぼれ落ちてしまった。


  ミレルは眉を寄せて、質問の意図が理解できないという表情になってしまった。


「いや、ごめん、今の質問は忘れて……」


  僕は何となく恥ずかしくなって無かったことにしようとした。


  謝る僕に対して戸惑うような表情を見せるミレル。


「ええ……好きよ……」


  それでもミレルは答えてくれた。

  少し歯切れ悪く、思うところがあるようだけど。

  律儀に答えてくれるということは、根はマジメな子なんだろう。

  マジメだからこそ『こいつ』が許せなかったりするのかな?


「ありがとう。じゃあ、行こうか? まずはどこから連れて行ってくれるのかな?」


  ミレルは一瞬不思議そうな表情を浮かべてから、また硬い表情に戻す。


「そうね、親すら思い出せないのならまずは村長の家から行きましょう。村長のダニエルさんとその奥さんのグレタさん。あなたの両親よ。あなたの嫁になるって挨拶しておかないといけないし丁度良いわ」


  おぉぅ……嫁さんと一緒に両親に挨拶とはいきなりハードルが高い……知らない人だし。

  というか、やっぱり「僕の嫁」と言うところで苦々しい表情が少し出てるんだけどミレルさん?

  演技しきれていないところを見ると、本当は素直な子なんじゃないかとは思えるんだけど……


  ミレルは道の方へとすぐに向きを変えてしまう。


  動きに遅れて揺れる三つ編みに動作のキレが出ていて格好いいですよ?


  そんなどうでも良いことを思う僕を気にせず、ミレルはさっさと歩き出してしまう。


  道は少しデコボコはしているが踏み固められて歩きやすい。

  でも土のままなので、雨が降ったら雨水と言うより泥水の水溜まりが出来そうだ。

  今日が晴れで良かった。

  この靴ではすぐに足が泥だらけになってしまう。

  アスファルトですら恋しくなりそう。


  橋の上の少年に挨拶しながら街道へと渡る。


  橋を渡ったところでミレルが左前方を指差す。


「少し高いところにあるあの大きな家が村長の家よ」


  確かに他の家より大きい。

  そして、それなりに距離がありそうだ。

  日本なら自転車を使いたくなるぐらい。

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