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case1 村長の息子ーfile010101002─tag2

長いパートを分割しました。


「じゃあまずは自己紹介をしておくわ。わたしはミレル、あなたの妻よ」


  苦々しく言葉を吐き出すミレルさん。


  はぁっ?!

  つま? それはつまり嫁さん? 配偶者? 生計を一とする者と言うことですか?

  いやいや、なんかおかしいでしょ? 自分が妻であることを告げるのになんでそんなに苦虫を噛みつぶしたような顔なんですか? しかも僕は殺されかけてるし!


「昨日はあなたとケンカをしてついカッとなって、ね?」


  驚きまくってる僕に察してかミレルさんが続けてくれた。

  昨日のアレは、ついカッとなって殺すというレベルじゃなかったと思うんだけど……昨日は感情的になり過ぎたってこと? 出てっちゃったし、夫婦なのに一緒に住んでいないの?

  次々疑問が湧いてくるのでそのまま聞いてみた。


「そうなのよ、昨日は感情的になり過ぎて……ごめんなさい。それと、一緒に住んでいないのはまだ準備が整ってないからよ。ほら? ベッドもシングルしか無いでしょ?」


  確かにシングルしか……っていうか、一緒に寝るの!? いやそりゃ夫婦ならそうなのか? いやでも僕は、ほら、DTだし?


「まあ、でも、お腹にはもう子供もいるんだけどね……」


  恥ずかしいのか俯いてそう言うミレルさん。


  待って!

  DTの僕が嫁さんをもう妊娠させてるの?!

  処女懐胎ですか? 世界有数の宗教の教祖が生まれてくるのですか?


「でも、そうね、こんなことになってしまったから、一緒に住みましょう? 明日からわたしがご飯も作るから、デボラさんにも言っておくわ」


  僕の困惑はスルーして話を進めるミレルさん。

  あれれー……どんどん話が進んでいくんだけどー


「良いじゃない夫婦なんだし。それよりもご飯まだなら食べたら? その間にあなたのこととか色々お話するから」


  こんなの困惑するばかりで答えが出せないよ僕には……いやでも、子供がいるって言うなら一緒に住むことの方が自然な気がするし──大体僕には『こいつ』の記憶が無いんだから、提案に乗るしかない。


「よし、分かった。提案通りにするよ。話の続きは朝ご飯食べながらにしよう。ミレルさんも一緒に食べる?」


「いえ、わたしは家で食べてきたからいらないわ。それと、その『ミレルさん』って、夫婦なんだからミレルって呼んでくれたら良いのよ?」


  そう言って微笑んでくれるミレルさん──いや、言われた通りミレルと呼ぼう。

  少し笑顔がぎこちないけど傷が痛むのかな?


  子供もいるとなるとちゃんと夫婦にならないとダメだろうし、名前で呼んでいれば僕の中にも夫婦観が生まれるかも知れない。

  そういえば、笑顔は可愛いんだから、顰め面なのは勿体ないな。


「じゃあ、ミレル。僕は朝食を頂くね」


  提案通りに名前で呼んでみた。


「え、ええ……どうぞ……」


  心なしかミレルの笑顔が更に引きつった気がする。

  大丈夫かな……?


 ──────────


  僕はすぐに朝食を食べて、その後も午前中ずっとミレルからこの世界のことを聞いていた。


  と言っても、ミレルはこの村──レムス共和国のシエナ村で生まれ育って、ほとんど外に出ていないから世界のことと言えるほどのことは知らないみたいだったけど。

  とりあえず、シエナ村は想像したとおりにアルパリトという山脈の山間にある小さな村だった。レムス共和国のヴァルニア地域とジャブロード地域を真っ直ぐ結ぶ街道沿いにあるらしい。シエナ村自身はジャブロード地域に属する。街道沿いとは言え活発な交流があまりなくて人通りも少なく、観光などの収入は少ないようだ。主に農業がメインでミレルの家族で作っているカボチャは2つの地域でも有名で、『美味しいけど死ぬほど硬いカボチャ』らしい。

  ええ、本当に死にますとも。

  それは良いとして、山間の村で面積もそれほど無く大規模な農場は作れないので、ほとんどが村の為の作物みたい。それ以外に民芸品としてランプを作ってるとか。

  このランプが僕にとって重要な情報だった。

  これだけファンタジーな転生という体験をしたんだから、やっぱり望むべきはファンタジーな要素──つまり魔法でしょう?

  日本では転生には魔法が付きものだと思ってるぐらいに、ちまたには転生して魔法の才能に目覚める物語──主に漫画やライトノベルだけど──が溢れていたし。

  そのランプは魔法道具による製作がされているらしい。村でその魔法道具を使える人が一人だけいて、その人と他に手伝いが数人で作っている。ダイニングテーブルの上に置かれているランプもそれらしい。

  これは後で行ってみる必要がありそうだ。

  あとは、この魔法技術が存在するからか機械文明はそれほど進んではいないみたい。水の力を利用する水車ぐらいはあるようだけど、蒸気機関はなさそう。ここに比べれば機械文明の進みまくった日本から来た僕では生活が大変そうだ……

  そして一番大事な『こいつ』──つまり僕のこと。

  名前はボグダンで、村長の息子らしい。つまり村の一番えらい人の子供で、実質的に次の村長候補だとか。影響力は大きく半端な行動は村を混乱させるから、村長の息子らしい行動を取らないとダメだとか。

  なんかいきなり生活のハードルが高くなってね?

  『こいつ』も村長の息子らしく、非常に働き者でいつも村のことを考えて行動していたらしい。村が良くなるようにと、色んな人の手助けをしていたらしい。


  ミレルから聞いた『こいつ』の特徴は、僕が最初に抱いた印象と随分違った。

  もっと犯罪すれすれ──むしろ日本では犯罪になることを犯している人間だと思っていたけど、案外真面目で良いやつなのかも知れない。

  罪悪感で悪いことのほとんど出来ない僕には、自分のやる事としては大変なものになった気がするけどマジメな村長の息子の方がやりやすいことは間違いないね。

  少し安心した。


  ミレルから色んな説明を聞いて、僕のミレルに持っている印象も変わった。

  ここまで休憩も挟まずに教えてくれたミレルにはホント感謝しかないよ。

  昨日のアレは怖かったけど、こうやって話してみると優しく丁寧に教えてくれるし、怪我無ければ痛々しい印象もないからかなり可愛いと思うんだよね。

  こんな女の子と夫婦だなんて良いのかな?


「色々話して喉も渇いたしお腹も減ったから、わたしが何か作るから一緒に食べましょう?」


  お、女の子の手料理ですか……? いや、嫁さんの手料理と言うことになるんだけど。

  これがいわゆる転生特典と言うやつでは!?

  可愛い女の子と次々に仲良くなって、勝手にハーレムになるのが異世界転生の醍醐味だよね? 異論は認めるけど。

  僕は何を望んだんだったかな?


「デボラさんのパンもあるみたいだし、サンドイッチぐらいなら出来そうね。カボチャと香草を持ってきたから、パンプキンサンドで良いかな?」


  作っていただけるなら異論は全く御座いません。

  ゴクリと喉を鳴らしながら僕は頷いて肯定する。


  ミレルは早速キッチンに向かって行って料理に取りかかった。


  まあ水は使うだろうから、と思って僕は外の瓶に水を汲みに来た。

  ついでに軽く家の周りを見てみてもデボラおばさんは見つからなかった。


  聞き耳立てる系の噂好きではないのか……


  デボラさんがいないことに安心して、僕が水を持ってキッチンに戻るとミレルはまた驚いていた。


「ありがとう、後はわたしがやるからあなたはゆっくりしていて」


  現代日本の感覚で嫁さんを手伝ってしまったけど、この世界では家事は女性がやるものなのかも知れない。

  僕はそれが良いとは思わないけど、それも仕方がないかな。まだ実感は無いけど、これからずっと一緒に住むのであれば、少しずつ慣らしていけば良いと思うし。


  ダイニングテーブルでミレルから得た知識の整理をしながら待っていると、ミレルが2つの木皿に盛ったサンドイッチを持ってきた。

  それぞれ分けて盛り付けてあるみたい。


  マメだね。

  黙ってると不安になるかな?


「良いにおいだね、美味しそう」


「そう、気に入ったなら良かったわ。うちのカボチャを使ってるから美味しいわよ?」


  そういえばエントランス付近に置いてあったカボチャが無くなってる。

  美味しいと評判らしいしこれは気になる。

  ミレルが木製のコップに入れてくれた水を一口飲んでから、僕はサンドイッチに手を伸ばす。


  ミレルがやたらと僕を凝視してくるけど、手料理の感想が気になるのかな?

  感想を期待されてるなら、早く、でもしっかり味わって食べないとね。


  僕はサンドイッチにかぶり付いた。


  軽く焼かれたパンの香ばしさと濃厚なカボチャの甘味、そして後からやってくる香草の刺激。

  舌がピリピリと焼けるような刺激に驚きながらも、一口目を飲み込む。

  胃の中が一瞬熱くなるけどすぐに収まった。

  不思議な味だ。

  言うだけあってカボチャは確かに美味しい。

  味付けのバランスが日本の感覚とは違うみたいだけど、それは慣れるしかないかな?

  日本は塩味が強すぎると言われるぐらいだから、特にこんな異世界で塩っぽさは期待するのは間違いだろうし、交易があまり無いのであれば調味料も少ないのだろう。

  とにかく素材が美味しいのだから、調理さえ間違えなければ味付けは薄くてもなんとかなる感じがする。


「うん、このカボチャ美味しいね。有名だと言うのも頷けるよ。このピリリとした香草もカボチャの甘味を引き立ててると思う。ありがとう」


  僕がサンドイッチの感想をミレルに伝える。

  ミレルははにかんだようななんとも言えない笑顔を浮かべている。


「え、えぇ……味も気に入ってもらえたなら嬉しいわ……」


  歯切れの悪いミレルの答え。


  褒める点を間違えたかな?


  不思議に思って少し首を傾げながら、ミレルの表情を観察すると、少し頬がヒクついている。

  ついでにこめかみを流れる汗。


  これは冷や汗ってやつだよね?

  なぜ?

  初めての手料理を食べてもらった緊張から来るものかな?


「ミレルも食べる?」


  僕の皿に載ったサンドイッチをミレルに差し出す。

  ミレルは慌てて首を振る。


「自分のがあるから大丈夫よ!」


  なぜか必死な雰囲気が伝わってくる。


  なぜそれほどに否定する?

  とは思いながらも、手に持っていた2切れ目を僕は口に運ぶ。


  うぉぅ……さっきより香草が多い!

  明らかに分量が違う。

  これはたとえこの香草が好きでも入れ過ぎなんじゃ……?


  ビリビリと舌に喉に伝わってくる刺激。

  激辛料理が好きなのかな?

  この唐辛子とかマスタードとは違う、もっと直接的に口の中や胃を焼いて荒らしていくような感覚は独特で、ハマる人はハマりそう……直接的に焼く?


  ふと僕の直感が囁いた。

  それ毒じゃね?


  それならミレルが食べることを慌てて拒否した理由も分かるし、もっと言えばわざわざ2つに盛り分けた理由も分かる。


  昨日ミレルは僕をあれだけ執拗に殺そうとした。

  それは一日で消えるほどのものなのか?

  そもそも『こいつ』はミレルに何をした?

  それほど恨まれる事とは?


  ……さっき僕はミレルの傷を見て思ったじゃ無いか?

  こういう暴行を女性が受けている場合はまず間違いなく強制性交等罪──いわゆる強姦を受けていると。

  そしてミレルの身体には新旧の傷が入り混じっていて、『こいつ』との間に子供がいる……

  やっぱり『こいつ』は犯罪を犯してる人間ではないか!?


  じゃあ、なぜミレルが一緒に住んでもいないのに『こいつ』の嫁と言ったのか?

  恨みのある『こいつ』と夫婦なんてイヤだろうに……目的があったからだ。

  デボラおばさんを遠ざけて確実に殺せるようにするために。

  昨日の経験から中々死なないと思ってるだろうから、何度も命を狙えるように、もっと確実に殺せるように2人きりでいる時間を増やすためか。


  つまり、僕の感覚だけで整理をすると、DT彼女いない歴=年齢の僕が、暴行強姦の恨みで殺意マックスかつ妊娠済みの嫁さんをゲットしたと。これからその嫁さんと2人きりで、死なない僕が虐殺され続けるハッピーな生活を送ることになると?


  それは末永くお幸せに!


  じゃないよ! どうしてこうなった!?

  確か転生にある程度望みは叶えられると言われたはずなんだけど……僕がこんなにもドMだったと言うのか?


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