表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/14

case1 村長の息子ーfile010101002─tag1

毎週日曜日の21時更新予定。

※予定は予告なく変更になる可能性があります。

 ほら新しいスマホゲームとか?

 

  僕は現実逃避の眠りから目覚めた。

  本当に寝れるとは思っていなかったけど、さすがにほぼ死亡状態から回復させるのに体力を使ったりするのだろう。

  お腹もすいてるし……

  たぶん、女神様の説明からすると、食べなくても生きていられるんだろうけど、お腹がすいてる状態でいるのはイヤだな。


  僕は見知らぬ天井を眺めるのを止めて身体を起こした。

  まずは身体のチェック。

  身体の隅々まで目で見て手で触って異常が無いかを確かめる。


  うん、異常なし。

  血すら付いてない。

  つまり、回復するために出て行ったものを回収したと。

  固まった血液をそのまま返したら血管が詰まってしまうだろうに……日本の医学では考えられない、魔法のような方法だ。


  神様がいるのだからきっと魔法もあるんだろう。


  考えても仕方がないことは考えないことにして、情報を得るためにもまずはご飯をしながら会話をすれば良いかな。

  外にご飯を食べるところぐらいはあるだろう。お金はこの人も生活してたのだから探せばあるだろう。


  希望的な推測ばかりだけど、悲観的になって何も出来なくなってしまっては、転生させてもらった意味が無いし。


  部屋の中を軽く周りを見回して食べ物がないことを確認する。


  部屋の高いところに付いている明かり取りから光が差し込んでいて室内は明るい。

  昨日は暗くて良く見えなかったけど、この部屋にはベッドと小さな机と椅子ぐらいしかない。


  寝室かな?


  まずは扉を開いて寝室らしきところを出ることにする。

  次の部屋には食事が出来そうな机や椅子と、ラグが敷かれソファの置かれた寛げる場所が並んでいる。


  リビングとダイニングという感じかな?


  リビングにはソファが置かれているけどテレビもなく、ダイニングの天井に電灯も付いてない。

  代わりなのかダイニングテーブルの上にはランプらしきものが置かれている。火が付いていないから確証は持てないけど。


  リビングの更に向こう側には、衝立が立ててあり、その向こうに外への扉──玄関扉がある。


  昨日はあんなに暗かったのに、よく迷い無く玄関扉にたどり着いたな……


  日本の玄関のような段差が無いから、きっと自宅でも靴を脱がない文化なんだろう。

  エントランスと言った方がしっくりくるかな?

  代わりにリビングの辺りに下駄箱がある。


  そして、気になって足元を見る。

  当然素足だ。


  寝室へ引き返すと、ベッドの脇に蔓のようなものを編んだツッカケが置いてあった。


  靴を履くべきところで履いてないのって、裸でいるみたいで何となく恥ずかしい……

  とりあえずツッカケを引っかけてから、またリビングへ戻る。


  他にも幾つか扉が──


「あら? 坊ちゃん、起きていらしたのですか? 今日は珍しく早いですね」


  ダイニングの右側にあった衝立の向こうから、お婆さんと呼ぶかどうか悩む年齢の女性が現れた。

  短く切った金髪に緑色の瞳、ふくよかな体型からか人付き合いの良さそうな雰囲気が伝わってくる。

  もちろん知らない女性だけど……


  坊ちゃん?


  女性は前掛けをしていて、それで手を拭きながらこちらを見ている。


  つまり、家政婦さん?


「あらあら、寝ぼけてらっしゃるのですか? 家政婦のデボラですよ。デボラおばさん」


  おお、名乗ってくれた。

  戸惑っている僕を見て名乗ってくれたのだから思った通り悪い人ではないのだろう。

  これはまともにコンタクトできる第一村人発見かな?


  そんなことを考えていると、デボラおばさんが不思議そうにこちらを見ている。


  返事してないからか?

  この感じからすると、きっといつも来てくれてる人なんだよね……

  そうなると、なるべく気さくな感じで、さわやかな笑顔で、かな?

  僕にとっては知らない人だけど。


  僕は営業スマイルを浮かべて挨拶を返した。


「おはようございます」


「っ!?」


  デボラおばさんが目を見開いてる!

  めっちゃ驚いてるぅ!!

  違うのか? 僕はそういうキャラじゃないのか?


「坊ちゃんが挨拶を! しかも坊ちゃんと言っても怒らないなんて! これは夏なのに雪でも降るんじゃないですかね……」


  うぉぅ……この身体の元持ち主は挨拶すら返さなかったのか……こいつは……『こいつ』と呼ぼう。『こいつ』は最低な部類だな……

  あれか? 挨拶されたら舌打ちする系か? 不良なのか? いや同い年にしか転生できないと言われたからこいつも25歳のはず。不良と言って良い年齢ではないよね、もうチンピラだよね? タバコとか吸わないよね? 僕は喫煙できないよ?


  一瞬で色々なことが頭を過ぎる。

  こいつはヤバい。

  元の持ち主としてやっていくのがヤバい。

  『こいつ』の記憶がある振りを僕には出来そうにないぞ……


「それはそうと、今朝来たときに鍵が開いてましたよ? 昨晩誰かいらしてたのですか?」


  僕が『こいつ』の評価に震えている内に話が進んでしまった。

  デボラおばさんは今の質問がよほど気になると見える。

  その証拠が質問をした時のデボラおばさんの顔だ。

  中々にいやらしい笑顔だ。

  本人が気付いているのかいないのか、相当の噂好きだと思われる。

  しかも痴情が好きっぽい。

  明らかに女の子が来てナニかあったと想像している感じがする。


  『こいつ』はそういう男なのか?

  夜中に取っかえ引っかえ遊んでるようなやつなのか?


  って言っても昨日の夜に来たのはあれだよね?

  あれはきっとカボチャ妖怪だよね?

  あの有名な、カボチャ嫌いで食べ残すやつをカボチャで殴り殺すという……全く聞いたことないけどねー


  あまりの衝撃に現実逃避をするところだった、回答しないと。


「いいえ、昨日は何も無かったですよ。朝までぐっすりでした。だからこんなに早く起きたんだと思います」


  つい年上だからデスマス調で喋ってしまう。

  今までの情報だけで『こいつ』がデスマス調で喋るキャラじゃないことはもろ分かりなのに!

  しかも営業スマイル!


「どうしたんですか坊ちゃん!? 頭でも打ったんですか?」


  ああやっぱり衝撃を受けている!


  頭は打ちました、はい、しこたま打たれました。


  と言うわけにもいかず、


「気にしないで下さい……それよりお腹が減りました」


  ダイニングテーブルの方へと歩きながらそう答える。

  とにかく誤魔化そう。


  朝から家政婦さんが来てるんだから、朝食の用意してくれるんだよね?

  日本では親が医者だったからそれなりにお金はあったけど、流石に家政婦を雇ってるほどではなかったからただの予想でしかないけど。


  訝しげな表情のままデボラおばさんは首を傾げながらも縦に振る。


  器用ですね。


「はいはい、そうですね、朝食の準備をしないとダメでしたね。では先に裏で顔を洗ってきて下さいな」


  デボラおばさんがそう言いながら、キッチンの奥の扉へと視線を向ける。


  勝手口だよね?

  水道は……無さそうだから、裏に井戸でもあるのかな?


「分かりました」


  返事をするとまたデボラおばさんが不思議そうな顔をしていらっしゃいますよ!

  どんだけ普通の会話が出来ない人間だったんだ『こいつ』は……

  チンピラではなくコミュ障なのか! 重度の引きこもりだったのか!? だから家政婦さんが来て世話をしてもらっていたのか!?

  謎だらけだ……


  外に出て一旦落ち着こう。


  勝手口から外に出るとすぐ脇に水のたっぷり貯まった瓶と、手桶が置いてあった。


  あー 井戸じゃないのかー

  井戸から汲んでくるのか、この瓶を井戸まで持っていくのかどっちかかな?

  にしても水道がないってだけで大変だな……

  ……イヤ待てよ、この水はいつの水だ?

  これからデボラおばさんは食事を作るんだよね?

  さっきデボラおばさんを初めて見たとき、手を拭いていたよね?

  と言うことは、デボラおばさんが朝から用意してくれてたってこと?

  恵まれてるなー『こいつ』。

  そのくせまともに会話しないのかよ!

  『こいつ』の評価がどんどん落ちていく。

  そろそろ地に着きそうだ。


  そんなことを考えながら手桶に水を汲んで手を浸ける。


  結構冷たい。

  デボラおばさんは夏だと言ってたけど、気温も日本ほど高くない。


  そこで初めて周りを見回した。


  あまりにも『こいつ』の性格が衝撃的過ぎて周りを見る余裕を失っていた。


  建物の裏手なのでほとんど垣根に遮られているけど、近くには木々が青々と生い茂る森が、遠くには雪を関した標高の高そうな山々が見える。


  キレイだな。

  スイス辺りでアルプス山脈を眺めている気分になる。

  見たことないけど。


  心地良い気温と朝の澄んだ空気に、時折吹く爽やかな風が、知らないながらも確かに初夏を感じさせる。


  湿度が低くて日本より過ごしやすそうだ。

  周りの景色からすると山間の村といった感じかな?

  少なくとも電気は無さそうだし、キッチンの感じからガスも無さそうだった。

  なのでキッチンと言うより土間と言った方がしっくりくる感じだった。

  日本にはもう無さそうなぐらいの田舎。

  なんとなく時間の流れもゆったりとしていて、旅行で来ていたならのんびりとした休みが過ごせそうだ。


「ミレルちゃん、どうしたのその顔!」


  デボラおばさんの叫ぶような声が景色を満喫している僕の耳に届いた。


「これは、その、教会の前の石階段で転んでしまって……」


「そうなの、気を付けないとダメよー 女の子なんだから。最近あそこの階段で転ぶ子が多いみたいだし」


  デボラおばさんと若い女性の声の会話が聞こえてくる。


  誰か来たのかな?


  僕は軽く顔を洗って室内へと戻った。

  キッチンにデボラおばさんの姿はなく、声はエントランスの方から聞こえる。


「あ、坊ちゃん、ミレルちゃんが来てるわよ? 坊ちゃんと二人で話がしたいらしいの」


  デボラおばさんはそう言ってまたいやらしい顔をこちらへ向けてくる。

  話の中身が気になりますってめっちゃ顔に出てますよ?


  とりあえず僕はそのミレルという女性に視線を向け、まずその状態に驚いた。

  目に付くのは顔に痣や炎症、そして手足にも包帯が巻かれ、他の傷や怪我があることが窺えた。古いものも新しいものもあるように見える。

  親の形成外科の手伝いでそういった患者を良く見てきたからすぐに分かった。

  これは階段から落ちて出来る怪我とは明らかに異なる。

  偶然出来た怪我ではなく、故意に付けた怪我だ。

  それはつまり誰かに暴行を受けたことを表している。

  しかも新しい傷はごく最近。数日以内に行われたことを。

  女性がこういった暴行を受けている場合は確実に……


  これはツラいな……

  成長期では無さそうだからまだ良いけど、それでも変形などがあった場合は早めに対処しないと。

  しかし、女性にこんなことをするやつは本当に許せない。

  病院でその後も色々見てきているから余計に腹が立つ。


  それらを認識した後、もう一度ミレルさんの見た。

  顔を見て気付いた……気付いてしまった。


  昨夜その顔を見たことを。


  輪郭がボンヤリしていると思ったのは怪我で腫れていたりしたからか……

  じゃなくって、それはつまり僕を殺そうとしてる人間ってことでしょ!?

  え? 僕逃げた方が良いやつ?


  似たような顔の別人? 別人であって欲しいな。


  動揺して僕の視線が泳ぐ。

  デボラおばさんを見たりミレルさんを見たり……


  あ、デボラおばさんの足元にカボチャが置いてあるね……確定じゃん!


「じゃあ、邪魔なおばちゃんは席を外しとくからね。朝食余分に作ったから二人で食べると良いわ、うん、それが良いわ!」


  名案を思い付いたとばかりにデボラおばさんは早口にまくし立てて、ミレルさんの横を通ってエントランスの扉をくぐってしまう。


  しまった!

  でも、止める理由が思い付かない!


  僕が短い間逡巡しているとデボラおばさんが扉を出たところで振り返った。


  お!? これは異様な空気に気が付いてくれたか??


「誰も近付かないように言っておくから、ごゆっくり」


  デボラおばさんはイヤらしい笑顔を僕に向けて扉を閉じた。


  そんなことだろうと思った!

  絶対外で聞き耳立ててるだろ!


  僕は伸ばしかけていた腕を下ろし、ミレルさんに向き直す。


  こうなったら話し合うしかない。


  デボラおばさんが置いていってしまったカボチャは見ないようにして、僕は朝食が用意されたダイニングテーブルへ座る。


「とりあえず、座ったら?」


  ミレルさんは僕を無感情な瞳で見つめながら、言葉に素直に従って向かいに座った。


「話というのは昨日のことかな?」


  僕がそう言った瞬間、ミレルさんの表情が険しくなり、殺意が湧き上がってきているのが分かった。


  僕は内心冷や汗をかきながら、努めて冷静さを装って両手を挙げた。


「昨日も言ったように僕には記憶が無いから、説明してくれると助かるんだけど……?」


  殺意が少し揺れた後、視線にこめた力と共に徐々に弱くなっていった。


「そうね、その話をしに来たの。わたしが誰であなたが何者かを話に。デボラさんには話したの?」


  固い声だ。

  ムリもないけど。

  口調からするとそれなりに付き合いのあった女の子なのだろう。完全な赤の他人では無さそうだ。


「言ってないよ。不思議そうにしていたけど誤魔化しておいた。デボラおばさんに知られると面倒そうだったから……」


  なるほどとミレルさんは納得した。

  デボラおばさんに知られると面倒なのは間違いじゃないのか……

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ