case3 第二王子ーfile010103001
また新しいキャラでーす
「最悪だ……」
思わずオレは毒突いていた。
目の前に広がる光景が信じられずに、このままもう一度死んでしまいそうだ。
オレの要望はコレじゃなくないか?
「王子……大丈夫ですか?」
カワイイ子がカワイイ声で心配そうに質問をしてくれてる。
金髪碧眼、子役卒業し立てって感じのイギリス女優バリの美少女だ。
超有名タイトルの魔女役をしていそうなハイレベル。
宝石のような大きな瞳は鮮やかな翡翠色、細くてサラサラなシャンパンゴールドの髪はショートボブ。
どことなく感じるやんちゃな雰囲気とその大きな瞳が、何となくアメリカンショートヘアーを連想させる。
オレ的には、この子は客じゃなくても子猫ちゃんと呼んで良い。
この子を子猫ちゃんと呼ばずして他の誰をそんな名前で呼べるか? いや、呼べないだろ。
オレはベッドに寝ていて、子猫ちゃんはベッドサイドに立っている。
だから子猫ちゃんはオレを覗き込むような形になっている。
その仕草がまたカワイイ。
それは良い。
子猫ちゃんがオレを心配してくれてる。
しかもオレも子猫ちゃんも裸だ。
全然オッケー、いや、むしろテンアゲだろ。
普通ならそれは問題じゃない。
オレが信じれないのはこの子猫ちゃんが普通じゃないことだ。
めっちゃカワイイ顔してるのに。
確かに胸は小さめだけど程良い脂肪が付いた痩せ型なのに。
なんで男なの?
ちょっと待て。
記憶を整理しよう。
オレはついさっき──感覚的には5分ぐらい前に目が覚めた。
起きていきなり頭と腹が痛くなって呻きながら堪えているとすぐに治ってきた。
そこで、横で何度も声を掛けてくれていた子猫ちゃんにようやく気付いた。
裸の子猫ちゃんを見てマジテンアゲだったね。
こんな美人オレでも寝たことねーよ!って思ったね。
んで、そんな子猫ちゃんに男として心配させたことを恥じたね。
そりゃそーでしょ?
どう考えてもかっこ悪いっしょ?
優しく抱きしめて安心させるのが男っしょ?
そう思って子猫ちゃんに手を伸ばして抱き寄せたよ。
ベッドに引き込んだよ。
じゃあ、なんか当たるわけよ?
小さい子猫ちゃんだからオレのお腹辺りに子猫ちゃんの腰が来るわけだけど、お腹になんか当たるわけよ?
オレの知ってる女の子の感触と違う!
慌てて引き離したね。
ベッドサイドに子猫ちゃんを戻したよ。
んで、じっくり見たよ。
信じられないから、それはそれはじっくり見たよ。
子猫ちゃんがちょっと恥ずかしそうに身動ぎするのがカワイイけど、そうじゃないよね? っていうかオレ混乱してるね。
だって、無いはずのモノがあるんだぜ?
だから、ついつい毒突いたわけだ。
ふぅー……落ち着こうオレ。
まず状況の確認だ。
お互いに裸。
だからと言って確定じゃない。
匂い?
うん、アレな匂いがするね。
これは、ヤっちゃってるね!
じゃあ、何か?
オレはこの子猫ちゃんとヤった後倒れたと……
「王子がすごい激しく動くから、ボク壊れちゃうのかと思ったら、王子の方がいきなり動かなくなっちゃって……王子が壊れちゃったんじゃないかってボク心配で心配で……」
激しくって、随分ご機嫌なテンションだったみてぇだな。
ってことはあれか?
ハイになり過ぎて精神的にテクノ系のブレイクをキメちゃった的な?
ありえねー
マジありえねー
男に手を出したとかナンバーワンホストの名が泣くぜ……
ホストのオレは死んだけどよー
男で人生最大のハイになるとか、ないわー
なえるわー
「あ、あの? 王子?? もしかして怒ってる……?」
思ったより子供っぽいな……
「おまえいくつだ?」
「え?? ボクの歳?? 昨日13歳になったよって報告したところだよ? だから、王子が……」
何、顔を赤らめてるの?
ってか13歳!
小学生に毛が生えたぐらいじゃねえか!
生えてないけど!
日本人じゃねぇから見た目で年齢分からねぇ。
犯罪……男に犯罪……
いや、ここが、発展途上国のそう言うお店ならあり得るか。
こんな子猫ちゃんいたら勘違いして指名するわな。
それなら仕方がない。
「王子はいつも優しいから……誰も選ばないんじゃないかって思ってたけど、ボクが最初になれて良かったです」
はにかみ笑いを浮かべるなよ、カワイイとか思っちまうじゃねぇか!
選ぶ選ばないってことはやっぱお店だよな。
じゃあ、いつも優しいってのは……良く来るお店なのか?
「あの、王子……? 何か変ですよ? 昨日歳を報告したとき──朝御飯の時も、夜呼び出されたときもいつもの王子でしたのに……」
朝御飯を一緒に食べてるのか……?
オレがお店のオーナーなのか?
住み込みの従業員なのか?
で、商品に手を出してるのか?
そんな最低なことオレがするわけがねぇ!
いやオレじゃねえけど。
だいたい『王子』ってのはなんだ?
そういうプレイか?
「王子ー? 朝食の準備がもうすぐ整いますよー? 起きてますか-?」
部屋の外から声が聞こえる。
これまたカワイ気な声。
誰だ?
「まだ寝ていらっしゃるのですか? 失礼しますね」
もうひとり別のカワイイ声がしたかと思うとすぐに扉が開いた。
答えを待つ気がねーな。
「失礼しまーすー」
最初の声の主が挨拶と共に勢い良く部屋に飛び込んでくる。
迷うことなくオレに視線を向けて来るってことは、きっと日課なんだろう。
つまりこいつらはオレの世話役か?
マジ王子なのか?
「あれー? 王子起きてますねー?」
間延びした声を上げながら、不思議そうな顔でオレのことを眺めてくるカワイイ少女。
肌はきめの細かい日本人っぽい肌色、艶のあるオークブラウンの癖っ毛はボリュームを抑えるためかレイヤーショートにカットされている。
垂れた瞳は地中海を感じさせるマリンブルー。
垂れ目に従順そうな雰囲気は子犬のような印象を受ける。
こんな子犬ちゃんがオレの世話役なの!?
ラッキーじゃね?
手を出したら犯罪決定な歳っぽいけど、従順そうでナニをしても受け容れてくれそうだぜ!
顔だけで言うなら子猫ちゃんと同じぐらいカワイイ……
……待てオレ……本当にこいつは少女なのか?
子猫ちゃんという例外があるぞ。
視線を横に──子猫ちゃんに向けると、つられて視線を動かす子犬ちゃん。
そんな簡単に視線誘導されてたら襲われるぜ?
女という確信が持てたらオレも考えよう。
「アユー! なんでここに居るの!? なんで裸なの!!」
子猫ちゃんを見ながら子犬ちゃんは心底驚いていた声を上げる。
その子犬ちゃんの態度に満足したように胸を反らして偉そうにする子猫ちゃん。
ちっぱいって逸らした方がエロいんだぜー
とりあえず、成り行きを見守って情報を集めるか。
「ふふん! 王子と一緒に寝てたからだよ! 良いでしょ!」
子猫ちゃん、それで説明になるのか?
ほら、子犬ちゃんは混乱を深めているぞ?
「アユーム、それではトーミには分かりませんよ? トーミ、アユームは昨日13歳になったのです。男は13歳になったら大人の仲間入りです。だから王子は記念して一晩アユームの相手をしてくれただけです。わたしたちも13歳になれば同じように王子は相手をしてくれますよ? 王子は優しいですから」
キラリと星を飛ばすようにオレへとウィンクを決める3人目の少女……?
見た目は才女って感じの学級委員長的女子だが……
しっかりと日に焼けたような小麦色の肌に、ほとんど黒に見える茶髪をマニッシュショートにすっきりまとめている。
小顔にクリッとした瞳はグレイフォックスを彷彿させる。
これはまたカワイイ子狐ちゃんだな。
でも今、「男は13歳になったら大人の仲間入り」って言ったよな?
しかも「わたしたちも13歳になれば同じように」って……
全員男じゃねぇか……
「えーっ! ズルいよアユー! ねぇ王子、トーミは? トーミはまだなの?」
子犬ちゃんは自分を名前で呼ぶ系か……少女なら全然問題ないんだけど。
ってオレが聞かれてんのか?
「聞かれても、オレは男に手を出す気はねぇよ。だいたい王子ってのはなんだ? マジで」
三人とも目を見開いて驚きやがった!
オレがこんなことを言うのがそんなに意外なことなのか?
「王子……自分の立場をお忘れですか? そこまでバカではなかったと思っていたのですが……」
子狐ちゃんが丁寧にオレをバカにしている!
って、もともとバカだって思われてたなこれは……
「そうですよぅ……トーミもかわいがって欲しいですー」
こいつは天然なのか?
見た目の雰囲気には合ってるけど。
「ボクは……ボクは……女の子って認識されたってことかな?」
子猫ちゃんのショックを受けていた表情が、晴れやかな笑顔に変わって行ってるんだけど!
勝手に勘違いしてる!
「そうじゃねぇよ! オレはお前達を全く知らない。記憶が無いんだ」
三人とも今度は口を開けてポカンとした表情を浮かべている。
仕方がねぇんだよ、事実なんだから。
こういうのは早いこと言っておかねぇと、後々絶対ややこしくなる。
お互いの状況を打ち明けてとことん話し合って、後腐れを無くさねぇと……マジで面倒。
とことん話し合って理解し合ったと思っても、上手くいかなかったりするわけだし。
その所為でオレはここに居るんだから。
まずはこいつらを説得して、カワイ子ちゃんを探しに行かねばならんのだ。
世界のカワイ子ちゃんがオレを呼んでいるからな。
最初に衝撃から立ち直ったのは、やっぱり子狐ちゃんだった。
他の2人を引っ張っていってオレから少し離れ、背を向けて話し合いを始める。
子猫ちゃんは早く服着ようねー
「アユーム、何があったんですか? 王子は頭でも打ったんですか?」
「頭は打ってないよ! ボクのお尻はいっぱい打たれたけど」
「アユー、なんで嬉しそうなのー? お尻打たれるのって怒られたんじゃないの-?」
やべぇ、この三人の会話はまともに進まない気がする。
しっかり考えてる子狐ちゃんを、思い込み勘違い子猫ちゃんとド天然子犬ちゃんが邪魔しておかしな方向に進んでいくパターンだ。
こういう女子に絡まれた場合は厄介だ。
仲が良いから間違った情報を共有し合ってあたかもそれが正しいことのようになってしまう。
女子じゃねぇけど、こいつら子供だしまともな結論は出せねえだろ。
マジで状況が分からないから気付いたときには取り返しが付かないことになるかもしれん。
「オレをほっといて話してもしょうがねぇだろ? お前らの知ってる王子は死んじまってもうここには居ねえ。オレは転生者だ。ついさっきこの身体に入った別人だ」
目をパチパチさせながらオレの言葉を聞く3人。
「で、オレとしてはカワイイ女の子に囲まれたハーレムで悠々自適な生活を望むんだけど、もちろん出来るよな?」
3人はそれぞれオレの言葉を咀嚼して理解したのか、徐々に表情が変わっていく。
「王子がやっぱり壊れちゃった!! ボクのせいだ!!」
今にも泣き出しそうな顔で叫ぶ子猫ちゃん。
「王子は王子だよー これからもトーミ達と楽しく暮らすんだよー」
のほほんとした表情で分かってんのか分かってないのか微妙な答えを返す子犬ちゃん。
「……何を言うかと思えば、またそんな下らない妄想ですか? 逃げ出したいからですよね? 自分の立場がお分かりでないようですね?」
物凄い怒りを含んだ表情でオレに詰め寄ってくる子狐ちゃん。
「待て待てお前ら。まずはオレの質問に答えろ。女神様から保証されてるんだ、望んだ生活が出来るよな?」
一歩前に出ていた子狐ちゃんがその場で一旦止まる。
他2人を振り返り代表して自分が答えることを宣言する。
またオレを向いて子狐ちゃんは口を開く。
「分かりました。そのご自身の置かれた身の上を何度でも説明して差し上げます」
一拍置くなよ、なんか怖ぇよ。
「あなたはマルコ アルゴ シカニ、ここシカニ王国の第二王子です。王位継承権は第一位のフェルナンド王子に次いで第二位です。国王に就く可能性が非常に高い重要人物です」
マジで王子なの?
って言うか……
「シカニ王国ってどこよ? ヨーロッパ?」
「王子! さすがにそれはとぼけすぎでしょう! あなたのお父様が治める王国ですよ! むしろヨーロッパという名前の方が聞いたことがありません!!」
逆ギレされた!
子狐ちゃんは更に一歩詰め寄ってくる。
「そんなんだから、今こうして城に幽閉されてるんですよ! あなたは王子という身分も考えず、色んな女性に手を出して、果ては身分を偽って近隣国の王女まで毒牙にかけたんですよ!!」
おお! オレすげー!
確かにオレは女好きだったけど、王女とか手出ししたことなかったよ。
男として生まれたんだから女に夢中になるのは当然だろう?
生物として正しいことをしてるとオレは思うね。
「王子は何度も国王から諌められていたのにそれでも止めなかったんです。その結果、女性に近付くことを禁止され、このアルゴ城に男性従者だけを連れて幽閉されたというわけです」
は? 男だらけ……悪夢だ。
いや、もはや地獄だろ……
約束と違うくないか??
「王子は何度も逃げだそうとして、その度に様々な嘘をついてきました……だから、みんな王子の嘘には騙されませんよ? どんな妄言を吐いてもこの城から出ることは出来ません」
ちょっと女神様!
約束と違うよね!!
オレはハーレムで一生暮らすことを望んだはずだ……
これはもしかして、転生は嘘で地獄に送られたんじゃ……?




