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最小転生で俺流いい人ライフ  作者: 塩谷歩
第1章  共和国脱出編
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第9話  同じ穴の狢

 『美味い飯』が一生食べられない事に気付き、死んだ魚の目になる俺。

 意識を取り戻した時にはギガホーンの価格査定が完了し、ギルドマスターのガンプとリックたちがもめていた。


「はあ? 5メートル越えだぞ!? なんでたったの12万ギールなんだよ!」

「なんでと言われましても、それが適正価格ですので」


 なるほどなるほど。

 つまりギガホーン自体は12万ギール。貨幣価値は知らないけど。

 だが5メートルオーバーは珍しく、さらに上乗せされて当然だと。

 なのにギルドマスターは通常価格での買い取りしかしようとしない。

 やっぱりあのオッサン、タヌキだったか。


『シェーネ』

『おっ、戻ってきたか。どうする?』

『そうだな……お前のウロコってどれくらい残ってる?』

『私はたまに生え変わる体質でな、総枚数で1万くらいはあるぞ。他人に使われるのが癪で全て回収しているのだ』


 すげー持ってやがるな。

 だからあっさり俺の尻に敷くくらいは出したのか。

 ならば作戦は決まった。


『1枚使わせてもらうぞ』

『1枚でいいのか?』

『話に信憑性を持たせるんだよ。でだ、俺の言うタイミングでギガホーンを仕舞って、その時に間違えたという体でウロコを2~3枚ばら撒け』

『くはは、面白そうだ。承知した。いつでもいいぞ』


 シェーネには了承を取った。

 あとは本来の価格だが――金に詳しそうなのがいたな。


 *****


「よろしいでしょうか? さすがに5メートルオーバーをたったの12万ギールでは、こちらの苦労とあまりにも釣り合いが取れません」

「そうは言われましても、12万ギールがギガホーンの適正価格ですので。それにこれだけの大きさ、血抜きや解体にも多大な労力が必要ですので」

「どうしても譲歩いただけないという事ですか?」

「私どもと致しましても、通常の倍以上もあるギガホーンですので善処したい所なのですがね、逆にこれほどのサイズは大変なのですよ」

「なるほど。ならば仕方がありませんね」

「ええ」


 ふんっ、口元が緩いぞオッサン。


「別の町に贔屓にしているギルドがありますので、そちらに運ぶ事にします」

「っ……そうですか。残念です」

「では回収させていただきますね」


 こちらはあくまでも優しく丁寧な口調。本当は笑顔を見せるべきなんだが、俺は木の人形なので目も口も無い。

 シェーネを突付いて合図。

 さっそく特大の黄色い紋様が空に浮かび、ギガホーンを回収。

 と、そこから落ちる数枚の黒いウロコ。


「おっと、これは失礼。リックさん、回収お願いします」

「この『ダークドラゴンのウロコ』だな? 分かった」


 しっかりリックもこっちの意図を読んだな。

 ギルドの4人は揃いも揃ってアゴが外れてやがる!

 いやー愉快愉快!

 ウロコはリックたち4人が1枚ずつ回収し、シェーネへ手渡された。


「皆様方と取引が叶わない事を残念に思います。それでは」「まっ、待った!!」


 はい釣れたー。

 タヌキかと思ったらムジナだな、このオッサン。


「この取引は今現在をもって破談しました。これ以上ここに用件はありませんので」

「待った!! いや、待ってくださいませ!! そ、そ……ギガホーン30万ギールで!」「安過ぎですね。では」「待ったぁー!!」


 血相を変えるとはまさにこの事。

 ガンプと言ったか、タヌキオヤジ改めムジナオヤジの顔が真っ赤だ。


 話は簡単だな。

 ダークドラゴンのウロコなんてまず手に入らない。それはリックたちから聞いてあり、だからこそ餌とした。

 ここでギガホーンを安く買い叩いてしまえば、俺たちの信用を失い(元々無いのだが)、ダークドラゴンのウロコが手に入る事は無くなる。

 そしてウロコが落ちた時に俺たちは一切動揺を見せなかった。

 これにより向こうさんには、俺たちがウロコ数枚くらいどうとも思わないほどに大量に所持しているか、またはこんな見た目で大金持ちかと錯覚させられる。

 あちらから見れば、とんでもない大口のお客様だ。

 それをたったの12万ギールで失うなど、愚の骨頂という事。


 ちなみにだが、先ほど――。


『リーヤ、5メートル越えのギガホーン丸ごと1体って、どれくらいの値段だ?』

『はあ!? あー……最低60万ギールだね。でもオレは専門じゃないぞ』

『充分だ。くくくっ、ありがとうよ』

『こえーなお前……』


 という裏取りもしている。

 なので、あのムジナオヤジが俺に勝てる要素は、元からゼロだ。




「で、では35万! これ以上は、さすがに……」

「話になりませんね」

「ぐぅっ」


 この期に及んでも値切るか。

 よし。


「それでは次の用件もありますので」

「まっ……」


 無視して発車。

 道に出て左折、連中の視界から消える。

 すーるーとー?


「何やってんだよタヌキオヤジ!!」

「信じらんねえ!! あんなもん二度と見られねーんだぞ!!」

「テメェのせいで大損だ馬鹿野郎!!」


 という職員の怒号が塀の外にいるこちらにまで届いてくる訳ですよ。

 もう俺たちはニヤニヤが止まらねーの。

 あとは歩くような速度でのんびりと道を一直線に走るのみ。当然あちらさんがすぐに見つけられるようにという配慮だ。俺って優しい。


 そして計算どおり、後ろから走ってくる足音が3つ。

 荷車の前に出て、早速土下座だ。


「申し訳ございませんっ! あのタヌキオヤジにはよぉーく言い聞かせておきますので、今一度チャンスを下さい!」

「「「お願いします!」」」


 職員が堂々とタヌキオヤジと罵倒するんだ、あいつはきっと普段からああいう態度なんだろうな。


『シェーネ、俺に耳打ちするふりをしろ』


 ごにょごにょと。

 これはパフォーマンスだ。俺はあくまでも交渉役であり、シェーネこそが上に立っていると見せるためのな。

 これによって相手は、自分たちの交渉は無意味であり、あくまでもこちら側に決定権があると認識する。


「では、こちらの心象もありますし、ギガホーン1体、100万でいかがでしょう?」

「ひゃっ……」


 まずは吹っかけてみる。

 だがこの値段で長々と交渉はせずに、一気に値段を下げる。

 ”安くなった→お買い得”と錯覚させる訳だ。


「その様子だと厳しいようですね。こちらとしても早々に捌きたいので……70で。これを下回るのであれば、適当に切り刻んで肉屋にでも売り払いましょうか」

「……わ、分かりました! 5メートル越えギガホーン1体、70万ギールで買い取らせていただきます!」


 最低ラインにプラス10万ギール。

 あちらさんから見れば、ダークドラゴンのウロコが手に入る可能性を鑑みれば、決して高くはない買い物。

 ――多分。なにせ俺は貨幣価値を知らないもので。

 あとは最後に落とし文句。


「そうですか。皆様方のような賢明な方がいてこちらとしても一安心です。今後なにかあれば、またお願いします」

「「「こちらこそ!!」」」


 *****


 ギルドに戻り、リックに70万ギールを受け取ってもらった。

 そもそもあれはリックたちに譲ったものなので、これが本来の光景だ。


「俺たちが28万ギールで、そっちに残り42万ギールっと」


 ふむふむ。10円玉サイズの金色硬貨が1万ギール相当。

 ちなみに貨幣の種類は日本円と同じだった。こちらではさらに5万、10万、50万、100万ギール硬貨と、それ以上では小切手が流通している。

 そして貨幣価値だが、食べ物に関してはほぼ同じで、リックが着ているような鎧は、安いものならば5千ギール程度からあるとの事。

 例外もあるが、日本円と同じ感覚で使えると考えて問題ないだろう。


「ちなみに1人頭7万ギールになったけど、使い道は決めてあるのか?」

「俺は装備の一新には少し足りないから、美味いもん食うかな」

「ワイはメンテするで」

「……杖、買いたい……」

「弓は消費が多いから、全額補充に消えます」


 それぞれあっさりと使い果たしそうだ。


「私は特に使い道は無いぞ。この服だって擬態だからな」

「俺も使わないからなぁ。せいぜい国境警備への賄賂か」


 逆にこちらは42万ギール、使い道なし。

 あ、だったら――。


「ほれ。迷惑料を上乗せするの忘れてた」

「にーしーろー……12万!? いやいやいや!」

「いいからいいから。これで1人10万ギールになったろ。それでもこっちのほうが1人15万で多いんだから、気にするな」

「……本当にいいんだな?」


 後ろの3人は既に喜んでいるぞ。


「いいよ。ついでにこの『お盆』も持っていけ」

「ばっ!! お、お前っ……」

「1万枚は持ってるから、1枚くらいどうって事ないよ。金に困ったら遠慮なく使え」

「……お前は聖人か?」

「元悪い人で、今は『いい人』だ」


 どうだ! という自慢顔をしておいた。

 ――顔のパーツが無いのは内緒だ!


 12万ギールはバラの硬貨なので、俺の尻に敷いていたダークドラゴンのウロコをお盆代わりにして渡した。

 でだ、ギルド職員の表情から察するに、これは1枚で1千万ギールはくだらないと見た。

 1千万ギールもあれば色々と買えるだろうけど、俺は物ではないものを買う事にした。

 それが、彼らとの繋がりと情報だ。

 なにせヒト族との繋がりなんて、今まで全く無いんだ。ヒト族がダークドラゴンに勝つ世界なんだから、ギガホーンにも苦戦する4人だとしても、そこから得られる情報は1千万ギールを払うに値する。

 ならば今これを手付金として渡しておいても、損は無いだろう。


 しっかり4人ともチャンネル登録を済ませ、俺たちは別れた。


「この恩は一生忘れないよ」

「忘れたらお盆の持ち主(・・・)を向かわせてやるよ」

「「「「絶対忘れません!」」」」

「はっはっはっ!」「くっははは!」


 さーて、後はこの30万ギールを賄賂として渡せば、連邦国に入国だ!



冒険物ではなく、この先とある場所に定住します。

ただ、20話先を執筆中ながら、まだ定住先には到着していませんw

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