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最小転生で俺流いい人ライフ  作者: 塩谷歩
第1章  共和国脱出編
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第8話  4人組

 前回の村から2日後の朝、ようやく国境の町に到着。

 名前は『エル・コンカ』。

 エルは栄えた、コンカは前世でいうコンテナと同じ意味であり、直訳すればコンテナで栄えた町。

 さて国境の町といえば貿易拠点。貿易拠点といえば倉庫街。倉庫街といえば?


「目つきの悪い者が多い町だな」

「前世の俺はあーいうのとお友達(・・・)だったんだよ」

「ふむ。さすがは娘に殺されただけはある」

「俺はお前を殺すぞ?」

「すまん。謝るから勘弁してくれ」


 きっとこの世界でダークドラゴンに詫びを入れさせられるのは俺だけだろう。

 というか、力関係ならば圧倒的にシェーネが上のはず。

 なのにどうしてこいつは、こんなに俺にベッタリなのかねぇ。

 まあとっくに察しは付いているけど。

 そうだ。ここはひとつ、今日1日の行動をシェーネに一任してみるか。


「シェーネ。今日1日はお前が主導権を握れ」

「いいのか?」

「いいよ。っつーか本来お前のほうが圧倒的に強いんだからな?」

「くはは! 否定はしないが、私が貴様の下に付く理由は別の所にある」

「――面白そうだから」

「正解だ。くっはは!」


 なーに楽しそうに笑ってんだか。


「本当に私を中心に行動するというのであれば、少し腹ごしらえがしたい」

「金はねーぞ?」

「分かっている。この近辺の森にはビッグホーンというモンスターがいる。そいつを狩るのだ」

「食えるのかよ?」

「ああ。ヒト族も普通に食っているぞ。肉を焼いて美味そうに食う」


 直訳すればでかい角。そして焼いて食う。

 俺の脳内では、ビッグホーンは牛のイメージで固まった。

 実物との違いが楽しみだ。


 *****


 町を出て30分ほどで森に到着。

 中々に雰囲気のある森だ。キノコも生えているかも。


「言っておくけど俺は戦力外だからな」

「当然分かっている。という事で――」


 シェーネの目の前に黄色い紋様が浮かんで、それに手を突っ込むと腕が途中で消えている。

 一瞬驚いて声が出たが、切断された訳ではなく、これは『チェスト』と呼ばれる、異次元に物を収納する魔法だそうな。

 便利だなと言うと、統一思念で繋がっているのだから俺も使えるはずだとの事。

 マジか! 俺も魔法使えるのか!

 ――でも怖いから今度な!


 腕を引っこ抜くと、シェーネの手には黒くて薄く、少しだけ湾曲した物体。

 今の俺よりも大きいな。

 それをそのまま手渡されたのだが、これが見た目と全く違い、すごく軽い。

 まるでプラスチックのような軽さ。


「私の剥がれたウロコでな、ヒト族以外はかすかなニオイでも身の危険を感じて寄り付かなくなる。まあ、知能の無い一部の種族には効かないが、この森にいる者は皆近寄らないはずだ」

「お守りって事か。んじゃ俺の尻に敷いておくよ」

「くはは! 私を尻に敷くとはな! それでは1時間ほど待っていてくれ」


 手を振って一旦お別れ。


 そうそう、1時間という言葉が出たので、この世界の時間の概念を説明しておこう。

 1年は12ヶ月、360日。

 1ヶ月につき丁度30日。1週間は6日だからキッチリ5週で収まる。

 1日は24時間。1時間は60分で、1分は60秒。

 あまりにも前世の地球と酷似していて、耳を疑ったよ。

 覚える必要が無いってのはありがたいけどな。




 じとーっと暇を持て余していると、森からガサガサとナニモノかが接近。

 バサッと出てきたのは、人間4人組。

 西洋の鎧を着た男が2人と、魔道士の女、軽装の女。

 そういえばこういう連中の情報は手に入れていなかった。

 マズったかなぁ――。


「おっ、荷車があるぞ。って、なんだこの人形」


 じっと動かない俺に興味を持ったのか、4人組がそれぞれ顔を近づけてきた。

 ……くくくっ!


「わっ!」

「うおっ!?」「なっ!?」「っ!?」「きゃっ!?」


 ナイスリアクション!

 女の1人に至っては尻餅をつきやがった。愉快愉快。


「な……なんだ……」

「なんだとはなんだよ。轢き殺すぞ」「ひぃっ!?」


 あー愉快愉快。

 とはいえやり過ぎると心象を悪くして、今後によろしくない。


「冗談だよ。俺はサテライツのルイだ。名乗ったんだからそっちも名乗れ」

「さ、サテライツか。心臓止まるかと思った……。んんっ、俺は剣士のリック。こっちは同じく剣士のバザード」

「驚かさんといてなー」

「んでエルフ魔道士のエルリアと、ウサギの亜人で弓使いのアキ」

「……よろしく……」「どうぞよろしく」


 まずは男だな。リックは40代くらい。こいつらのリーダー格と見える。バザードは若くて、20代前半か。何故か関西弁で、大きな盾を持っているから防御役だろう。

 女性はどちらも若くて、耳が長くて尖っているのがエルリア、まるでウサギのような耳が頭に生えてるのがアキ。尻餅をついた子だ。

 覚えた。

 って、アキ? もしや?


「アキさん、転生者か?」

「いいえ。私たちはみんなこの世界出身ですよ」

「そうか。あ、ちなみに俺は転生者な」


 あっさりと言ってみたが、俺の予想以上に固まりやがった。

 結構いるとは聞いていたが、それでもレアケースなんだろうな。

 するとまた森からガサガサと誰か出てきた。

 あ、赤い角が見えた。シェーネだ。


「帰ったぞーって、貴様らは何だ?」

「えっ、ど、ドラゴン!?」

「ダークドラゴンだ」

「ダ……」


 あーぁあ、がっつり固まったじゃねーか。


「まあ気にするな。私とて無闇に取って食うなどせん」


 角を見てすぐに判断出来る辺り、こいつらは慣れているのかも。

 ――よろしくねぇな。

 だがそんな俺の懸念などどこ吹く風。シェーネは自慢げに話しつつ、どでかい黄色い紋様を空に描いた。


「ビッグホーンの中にさらに大きいのがいたのでな、腹は一杯になったので、そのまま持ち帰ってきた。どうだ凄いだろう!」


 ああ、本当に自慢したいのか。

 そして黄色い紋様から落ちるように出てきたモンスターだが――。


「でかっ……」「うそやん……」「ふぁ……」「うわっ……」

「うん、でけーな。んで牛だな」

「おまっ! なんでおどろかねーんだよ!! ギガホーンだぞ!? しかもこんな大きさ、見た事ねぇよ!!」


 出てきたのは全長5メートル近い大きさの黒く巨大な牛だった。角は丸太のように太い。

 4人組の言葉から、こいつはギガホーンというらしい。

 そしてこの狼狽ぶりからして、かなり強い相手なんだろう。

 俺の知った事じゃねーけど。




 興奮気味に話す4人組から、断片的にだが情報を得た。

 まず彼らは冒険者と呼ばれる連中で、モンスター退治を生業としている。

 彼らはここで生活しているのではなく、様々な国を旅して回っている。冒険者は基本的に旅をして世界を回るそうだ。

 冒険者には幾つかの専門職――ジョブと呼ぶらしいが、それにより肉体的や技術的にボーナスを得られる。例えばエルリアは魔道士をジョブに選んだから、他の3人よりも魔法が得意で威力が高いとの事だった。

 ホントに不思議な世界だなぁ、ったく。


 彼らがここにいるのは、連邦国に渡るため。俺たちと同じだな。

 だが何故か共和国からの出国規制があり、現在は規制解除待ちだそうな。

 ああ、十中八九俺たちのせいだ。

 そんな事で、4人組に対して俺が懸念するような事態は避けられそうで一安心。


 次にあのギガホーンとやら。

 中々お目にかかれない強いモンスターで、普通サイズでも彼ら4人では命懸けなんだとさ。

 それの巨大サイズをたった1人でぶち殺すシェーネフェルトさん、さすが世界最強種族ですね。

 シェーネ曰く、ビッグホーン10匹で腹は満たしたから、ギガホーンは売り払って金にしてはどうかと考え、食わずに持って帰ってきたという事だった。

 確かに今後は金がいるだろう。入国にも必要だろうし。

 でも俺たちが表立って動くのはよろしくないので――。


「リックさんよ、こいつお前らにやる。それで売った金の6割戻せ。4割は口止め料だからな。1人頭1割換算だ」

「わ、分かった。俺らだってまさかダークドラゴンに喧嘩を売るような真似はしない。そこまで命知らずじゃないぞ」

「ならよかった」


 こいつらの言葉に嘘は無い。

 少なくとも悪意は感じられないからな。


 *****


 シェーネと4人を乗せて、オンボロ荷車は町に入った。

 シェーネには町中では角を隠すように言ってあり、リックたちにもシェーネ――4人には偽名でマイとしたが、その正体を周囲には隠すように言ってあるので、トラブル遭遇率は下がっているはずだ。

 そのままリックが道案内して、モンスターを買い取ってくれる『ギルド』に到着。一際大きな3階建ての建物で、結構人の出入りがある。

 リックの説明では、大きな町には必ずギルドがあり、冒険者必須の施設なんだそうな。

 ギルドへは、先にリックだけが入って交渉する事になった。残った3人は、いわば人質だ。

 ――3人とも生きた心地がしていないんだろうな。

 そう思えるほどに、3人ともシェーネに対する笑顔が引きつり強張っている。


 5分ほどでリックと、恰幅のいいオッサンが出てきた。


「やあやあ、私はこのギルドのマスター、ガンプと申します。ギガホーンを討伐したとの話ですが、それは真でしょうか?」


『シェーネは黙っていろ』

『分かった』


「ガンプ様、私からお話を申し上げてもよろしいでしょうか?」

「おおサテライツですか! これは珍しい。ええ、どうぞ」

「それでは。私とこの女性マイは、私の同志を探し世界を旅しております。彼らとは森で偶然出会い、そしてギガホーン討伐に成功いたしました。現在ギガホーンはマイが所持しておりますが、なにせ巨体です。このまま持ち歩く訳にもいきませんので、是非こちらで買取をお願いしたいのです」

「ふむふむ。なるほど。それでは裏へと回りましょう。そのまま付いてきて下さい」


 口八丁手八丁はお手の物。それに嘘は言っていない。

 だがこのギルドマスターとやら、どうもきな臭い。

 笑顔が丸過ぎる。言い換えれば警戒心を見せなさ過ぎる。

 こういう手合いは策士か馬鹿か。だが馬鹿でマスターなんていう地位まで来られるはずがない。

 つまり――。


 建物の裏手に回ると、小学校のグラウンドのような広々とした空き地があった。

 ここならば20メートル級のシェーネもドラゴンの姿で寝られそうだ。


 ギルドの職員と思われる3人が待っていて、早く見せろと言いたげな目をしてきた。

 勿体ぶる必要もないので、早速ギガホーンをお披露目。


「おお!」「でかいな」「いい素材が取れそうだ」「肉も極上だぞ」


 口があれば俺も肉を食べたいな。

 ――待て! 待て待て待て!!

 サテライツは食事をしない種族だから、一生『美味い飯』が食えない!?

 ああ神様! 貴様なんちゅー罰を選びやがった!!

 転生者にとって飯が食えないってのはまさに地獄だ! 気付かなけりゃよかったッ!!


『ん? 突然どうした? 負のオーラが凄まじいぞ?』

『地獄を見て死にたくなってる……そっとしておいて下さい……』

『お、おう』


 気付いてはいけない事に気付いてしまった俺は、その後しばらく抜け殻になっていた。



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