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最小転生で俺流いい人ライフ  作者: 塩谷歩
第1章  共和国脱出編
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第7話  だいたいこいつのせい

 俺とシェーネは、荷車を手に入れた事で順調に国境線へと近づいていた。

 もちろん道中の町や村でのサテライツ探しは怠らない。

 だが――。


「知らないね」

「この村にはいないよ」

「さてらいつってなんだ?」

「ねーちゃんおっぱいでかいな!」


 とまあ、全滅。

 あまりにも見つからないから、役場でサテライツの生息数? を聞いてみた。人の周りにいる必要のある衛星種(サテライツ)は、この国では登録制で管理されているからだ。

 すると驚きの事実が判明。

 国全体でも、登録されているサテライツは、首都に数人だけだとさ。

 骨折り損だよ! ったく!


『あーそういえばオレも知らない』

『最初に言ってくれよ……』

『ごめんごめん。共和国のヒト族至上主義はサテライツも例外じゃなく排他の対象だから、オレみたいに人前に出ている奴のほうが珍しいんだよ』


 という情報をリーヤから手に入れ、俺もシェーネも大きくため息をついた。


 ついでにもうひとつ。

 シェーネは気付いていなかったが、どうやら俺たちはマークされている。

 最初のうちはシェーネの角を見て敬遠がちだった連中が、タダで宿に泊まっていけとまで言い始めたからだ。

 もしも足を止めれば、その時点で通報を受けた中央政府からの使者が来るだろう。もちろん悪意・殺意を持って。


「私にはもうあの魔法は効かんぞ」

「それを見越して別の手段持ってたらどうすんだって話だよ。2手先を読めよ」

「むぅ……」


 頬が膨れやがった。

 こいつには危機感ってものがないのかね? ったく。


「どちらにせよ、俺たちの行動がバレていると考えるべきだ。次の町で休憩したら、一気に国境を越えるぞ」

「分かった」


 今更ながら、この『ノーム大陸』にある5大国の位置関係をはっきりさせておこう。

 まず最西端に合衆国がある。その東隣がここ、共和国だ。

 その共和国のさらに東隣が連邦国で、共和国と連邦国に接している南部に王国がある。

 最後に、連邦国と王国の東に接しているのが、俺たちの目的地、帝国だ。

 つまり俺たちは連邦国か王国を経由しなければ、帝国へは入れない。


 ではその連邦国と王国とは?

 まず連邦国。不明だ。

 他国からの干渉を極端に嫌うらしく、知られているのは国の長である、書記長の名前程度だった。

 勘のいい人も悪い人もとっくに気付いているだろうが、この連邦国は前世でいうソヴィエト連邦に鎖国制度をプラスしたような国政だ。

 次に王国。

 こっちはこっちで内政にゴタゴタが起きているらしく、いつ内戦が起こっちゃうのかなー? という状況。

 前世で王国といえば、一昔前のタイ王国もこんな感じだったな。

 だから今回は連邦国に入り、王国との国境沿いを東へと進む経路を選択した。


 ちなみに共和国を脱出次第シェーネにはドラゴンの姿に戻ってもらい、俺を乗せて一気に帝国へと向かうつもりだ。

 これはまだシェーネには言っていない。

 実験室で砂粒の俺がシェーネの上に乗った時、こいつはかなりご立腹だった。

 恐らくだが、こいつはプライドが高く、その自分に誰かが乗るという行為が許せないんだろう。

 だから安全が確保された後に、冗談めかして頼んでみる。嫌ならば冗談で済ませばいいからな。


 *****


 次の町――というか村に到着。

 土壁に藁葺き屋根という、見てからに貧乏丸出しの村だ。

 壊れかけの荷車に角の生えた女と木の人形という妙ちくりんな一行に、地元の子供達が興味津々で集まってきた。

 シェーネは女性らしく子供の扱いが出来ているが、俺は不合格な父親だから、あまり子供には近寄ってもらいたくない。

 なのに――。


「この人形なにー?」「あそんでいいー?」「あっちであそぼー」


 とまあ、大人気です、俺。

 さすがに怒鳴り散らす訳にも行かないので、適当に逃げ回って鬼ごっこしてやるか。


『シェーネ』

『分かっている。情報だけ聞いたら早々に立ち去ろう。貴様が壊されぬうちにな。くっはっはっ』


 畜生、後で目に物見せてやらぁ……。


 その後も俺は子供に追いかけられつつ、シェーネの帰りを待つ。

 軽い木の人形だからなのか、これが全然体力が減らねーのよ。足はさすがに遅いけど、その分小回りで対抗出来る。

 安全を考えて農具や井戸の近くを避けて逃げているから、結構な距離を移動しているはずなんだよなぁ。


 っつーかシェーネ遅い!

 このガキ連中も何故かすげーうぜぇ! 一向に終わらせてくれねーの!

 そんな折、集団の中でも小さい3歳くらいの男児が、姉と思われる子の袖を引っ張った。


「ねーまだ?」

「いいって言われてないでしょ?」


 なるほど、と。

 あーぁあ。俺を怒らせたな。

 さすがに子供を使っての足止めは俺でもやらねぇよ。


 俺は近くの家に立てかけてあったクワに取り付いた。

 これが面白いもので、取り付きさえすれば指のない手でも吸い付くように持てる。某ネコ型ロボットの丸い手みたいなもんだな。

 一瞬怯んだガキどもを尻目に、クワを荷車に立てかけ、よじ登って御者席へ。


「っしゃ! ガキども乗り込め!」

「おー!」「わー!」


 シェーネが(返り血で)真っ赤になっていない事を祈りつつ、子供を満載にした荷車をスタートさせた。

 場所は分かっている。村長の家だ。

 逃げ回っている最中にもチラチラと見えていた、この村で唯一レンガ屋根を持つ家。間違いない。

 そしてこっちはこれだけ子供が乗っているんだから、重量的にもドアをぶち破るなんて造作も無い。

 ガキどもの笑顔を凍らせるのは忍びないが――運転ミスだ。コンビニに車が突っ込む的なあれだ。だから仕方ない。うん。




 村長の家まで来た。扉は木製で他の家と大差なし。

 つまり突っ込む!


「掴まれ!」「きゃああっ!」「あぶなーい!」


 ドアアアン! といい音がして扉をぶち破った所で停車。

 子供たちは怖がるどころか、アトラクションのひとつとでも言いたげに大笑いしていやがる。どんだけ肝が据わってんだよ?

 さてさてシェーネさんだが?


「なっ!? ルイ! 何をしているのだ!」

「こっちの台詞だ馬鹿たれ! なーにお茶すすってリラックスしてんだよ!?」

「……おいしいぞ?」「死ね!!」


 ダメだこのドラゴン……。

 シェーネは紅茶と茶菓子を出され、のんびりティータイムしてやがった。

 そしてこれを仕掛けた村長さんだが、明らかな逃げ腰。


「おいおい村長さんよー、いくらなんでも子供を出しに使って俺らを足止めなんざ、道理を外れてんじゃねーかぁ?」

「なっ、わ、私はなにも……」

「ほほう。茶菓子がすぐさま出てきたのは、そのようなカラクリだったか」


 シェーネも理解したか。

 立ち上がったシェーネは、腕を組み俺の横へ。

 ――ここで現在の状況を整理しよう。

 俺は荷車の御者席だ。荷台には子供が満載。そして横には最強のドラゴン。

 俺はこのまま子供を乗せて暴走してもいいし、シェーネは子供の首をはねるくらいどうって事は無いだろう。

 形勢逆転? いやいや。

 あちらさんから子供という茶菓子を用意して、俺たちを出迎えただけだ。


「村長!」


 おや、村人も来ちまった。ガチャガチャとクワやらカマやらが鳴っているから、10人以上かな。扉をぶち破るでかい音が響いたから仕方が無いか。

 とはいえシェーネがいる限りは振り向く必要すらも無い。

 一応テレパシーでシェーネと打ち合わせ。


『ひとつだけ確認したら出るぞ。子供がいるんだ、くれぐれも血は流すなよ』

『ああ。茶菓子が美味しかったからな』


 馬鹿ドラゴンめ。


「村長。ひとつ聞くぞ。素直に答えなけりゃ、この村はドラゴンに襲われる。いいな?」


 俺の警告と共に、シェーネの口元に黒い紋様が描き出された。

 確か実験室を脱出する時にも見た奴だ。

 村長はそれを見た途端に腰を抜かしたが、質問は続ける。


「この村にサテライツはいるか?」

「い、いない。本当だ!」


 こりゃ本当にいないな。

 という事でこのまま荷車をバックさせる。俺の後ろにシェーネがいて、その射線上には子供たち。

 村にとって子供は宝だ。なのでこちらを睨んではいるが手が出せない。

 子供たちが人質という訳だな。

 俺、すげー『いい人』だ……。



 のんびりと村の出口に到着。

 ぞろぞろと村人がついてきたのは面白い光景だった。


「ガキども降りろ。お遊びはこれで終わりだぞ」

「えー」「もっとー」「はやくー」


 あらら。すっかり懐かれちゃいました。

 こういう時は飯で釣る。


「ほら、父さん母さんが美味い飯作ってくれるってよ。遊んで腹減っただろ? いっぱい食わせてもらえ」

「おなかすいたー」「おかーさんごはんなにー?」


 子供は単純。いいね。

 シェーネが1人ずつ子供を荷台から降ろし、それぞれに手を振って別れる。

 最後に最年長と思われる、失言をした姉弟(きょうだい)の姉。


「おい。お前ら姉弟(きょうだい)は口が軽い。気ぃつけろよ?」

「……ごめんなさい。ありがとうございました」


 俺たちに頭を下げて、両親のもとへと向かった女の子。

 やっぱり姉だからしっかりしているんだろうな。ウチも弟作れば……どっちにしろ俺殺されるか! はっはっはっ!

 ――おや、誰からかは分からないが、感謝されたようだ。お腹が満たされる感覚がある。

 最後に、子供が帰ってきたのだからとこちらに喧嘩を売る村人もいたんだが、村長が真っ青な顔で止めていた。

 そりゃそうだ。

 こんな小さい村、ドラゴンに襲われたらひとたまりも無いだろうからな。


 ともかくこれで共和国に用はなくなった。

 それどころか確実に政府の手が伸びてきている。

 俺たちは速度を上げて、国境へと急ぐ。



シェーネフェルトの駄ラゴンぶりが見え始めてきました。

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