第4話 統一思念
※一部表記を分かりやすく変えました。内容に変わり無しです。
城を出ると、当然ながら町並みが広がっている。
兵士があんな鎧着てるからもっとボロいのを想像してたんだが、3階建てでヨーロッパ風のファンシーな建物が並んでいる、綺麗な町だ。
そして空には何故か島が浮かんでいた。
――ファンタジーだな。
「これからどうする? 俺は何も分からないから任せるぞ」
「貴様にも聞きたい事が出来たのだが、まずはここから離れよう」
「飛ぶなよ?」
「それくらい分かっている。ここで翼など出せば、すぐに兵に見つかってしまうからな」
のんびりと歩きつつ――俺はこいつの腕の中だが、周囲を見回す。
住民の服装はカラフルなものはないし、肌触りもあまり良さそうには見えない。
果物屋に売ってる商品は、一見してリンゴやバナナ、あれはパイナップルか?
「シェーネフェルト。あの赤いのはリンゴか?」
「リンドだな」
「微妙に違うのか。んじゃ黄色のはバナナじゃねーと」
「バナムだな。……1ヶ月何も食べてないからお腹が空いたなぁ」
「まっ、マジかよ!? よく死なねーな……」
「ドラゴンだからな」
どうやらドラゴンってのは、力だけじゃなく色々と最強みたいだな。
しっかし、文字は読めないし物の名前も微妙に違うとは。
考えりゃ言葉が通じてるのもおかしいな。俺は日本語で喋ってるつもりなんだが……。
「貴様――名前はなんだったか?」
「あ? 佐々木春一だ――けど、待った」
この際だ。
新たな人生を歩むに当たって、名前も変えちまおう。
――っつってもなぁ。
どうせなら雰囲気に合う名前にしたいが、俺にはそういうボキャブラリーってのがない。
仕方がない、今の名前から連想して考えるか。
今は春一だろ?
読みを変えて『はるいち』っても、なんか。
――あっ、上と下消して『ルイ』ってどうよ?
これならこーいう町の雰囲気にも合ってるんじゃねーか?
「よし、決めた。俺は今から『ルイ』だ。これなら佐々木春一よりも雰囲気に合ってるだろ?」
「そうだな。それならば私も呼びやすい」
「逆にお前の名前は長いけどな。シェーネフェルト」
俺の一言に苦笑いのシェーネフェルト。
「面倒だからシェーネだけでいいか?」
「ふむ。仕方がないなっ」
ちょっぴり嬉しそうな声を出しやがった。
そんな声を出されちゃ、俺も悪い気はしない。
ともかく、このダークドラゴンはこれからシェーネと呼ぶ。
しばらく歩いてもまだ町から出られない。
それよりも日が傾いてきているんだが。
「シェーネ、当然金は持ってないよな?」
「ない。野宿か歩き通すかだな」
「マジかよ……。なんかドラゴン同士で融通出来る能力ってねーのか?」
「サテライツにはあるだろう?」
――あ。
そうだそうだ。サテライツには統一思念っつーよく分からん能力があるんだった。
だけど待てよ? どう使うんだ? シェーネも細かい事は知らん様子だ。
となれば実験あるのみ!
唐突だが、俺は実験好きだ。
(あーあーもしもーし誰か聞いてるかー?)
『聞こえてるぞ』
(テメェじゃねーよ!!)
何度か呼びかけてみたが、無反応。
条件があるのか、それとも全員お留守か。
「グループチャットみたいな便利な能力だと思ったんだがなーっと思いついた!」
「早いな」
「これでも中間管理職だったからな。グループチャットっつー事は、そもそも誰かとチャンネルを合わせる必要があるんじゃねーか?」
「……すまない。私はそこまで詳しくないのだ」
まー仕方ねーか。
やり方は、今まで通りならば、そう思えばそうなる。
ダイヤルを回すイメージで適当にチャンネル――この場合は周波数を合わせてみるか。
*****
周波数を変えては(誰かいませんかー)と念を送っているが、反応なし。
いい加減諦めたくなって来るぜ……。
「ため息が出ているぞ」
「仕方ねーだろ。アタリないんだから」
「そこのお嬢さん」
ふいにシェーネを呼び止める声。
まさか兵士か?
俺もシェーネも慎重に振り向くと、そこにいたのは4輪の荷車を操る金属製の人形。
荷台が前で運転席が後ろになっている、タイヤ以外は木製で、今のシェーネならば乗れる大きさの荷車だ。
一方の人形だが、鉄の缶を組み合わせて作られた――そう、オズの魔法使いに出てくるブリキロボットみたいなイメージだ。背丈は今の俺とそう変わらない、50センチ少々か。
「んー? さっきからうるさかったのはそっちの人形かな?」
「貴様は?」
「なんだい、いきなり態度でかい娘さんだなぁ」
「これは失礼。私はドラゴンで、今はゆえあって擬態しているのだ」
「……なるほど」
これはシェーネが悪い。俺だっていきなり「貴様」なんて言われたら気分を害する。
それでもシェーネがドラゴンだと言ったら姿勢を正したので、喧嘩をしに来た訳ではないだろう。
用件は俺のようなので、あとは俺が答えよう。
「すみませんね。今日来た……生まれたばかりで何も分からないんですよ」
「いくら今日生まれたからって、親の記憶はあるだろう?」
「それが……」「あっ! 朝っぱらに怒鳴ったのもお前さんか!」
朝っぱらに?
思い出してみれば、生まれていきなりうるさくて怒鳴ったんだ。あれの事だな。
「多分、俺だ。すまん。ともかく今日転生したばかりで何も分かっていないんだ」
「て、転生……」
あれ? 嫌な空気だ。もしかして転生者というのは控えるべきだったか?
やっちまった。
「……くっ……はっはっはっはっ!! サテライツに転生したって!? いやーそれはお気の毒様。前世でどんな悪行を働いたのかは知らないけど、せいぜい第二の人生を楽しんでくださいよ? 転生者さん!」
ものすごく腹が立ったのは言うまでもない。
しかしここで俺が怒鳴り散らしてはよろしくない。俺は周りが見えている。
「確かに悪い事ならば大抵やった。2~3人殴り殺した事もあるし、生きたまま海に沈めた事もある」
「はっはっ……すみませんでしたっ!」
これは半分嘘だ。
だが話を次に進めるためなので、嘘も方便。
ブリキロボットから色々と聞いた。
奴の名前は『リーヤ』と言い、純こちら世界のサテライツ。
今は道具屋で飼われており、荷車を操って運搬と行商の手伝いを行っているそう。
宿がないと言うと、主人には内緒で、道具屋の倉庫でいいならばと案内してくれた。
いい奴だ。
道具屋の倉庫は本当にただの倉庫だったが、俺はこの通り木の人形なので固い床に閉口する事はなく、シェーネはドラゴンなので問題ないとの事。
倉庫の中で、リーヤからサテライツについても聞く。
まずは俺の使った(と思っていた)統一思念だが、使い方が違うそうだ。
チャンネルを合わせるのは正解だが、まずは自分用のチャンネルを構築し、そこに仲間を登録しないと使えないらしい。
俺はこれをしていなかったので、ついでに言えば転生者だからなのか、なんと全チャンネルへ向けて呼びかけを行っていた。
すげー赤っ恥だぜ? ったく。
リーヤに教えてもらったとおりにチャンネルを構築し、リーヤを仲間として登録。
方法はなんとも大雑把で、適当な紙にチャンネル名と仲間の名前を書くだけだった。しかも日本語でオーケー。
適当な紙だが、ここが道具屋だという事もあり、メモ帳をタダでもらえた。メンバー表にももってこい。
これだけで自動で、全チャンネルを通して、新たなチャンネルが開通した事をお知らせ出来たらしい。
『これでどうだ?』
『聞こえてる。オレの声は?』
『ああ、バッチリ。色々と悪いね。感謝するよ』
ついでなのでシェーネも登録してみたのだが、なんと巻き込み成功。
リーヤ曰く、統一思念はサテライツ間だけだと誰もが思っているとの事で、ものすごく驚いてやがった。早速情報を全チャンネルに流していたぞ。
そしてさっき日本語でチャンネルを構築したが、これについてはとんでもない事が判明した。
なんとこの統一思念、ただのテレパシー能力ではなく、繋がっている仲間と知識情報の共有も出来るという、すげー優れもの。
よく思い出してほしい。俺は生まれてすぐに全チャンネルを開放してしまった。
つまり全サテライツの知識が俺に入り込んでしまっていて、そのせいで勝手にこっち世界の言葉で喋っていたし、乗り移り能力の使い方も無意識に学習したという事。
統一思念の使い方に関してはチャンネル構築をしていなかっただけで、文字に関しても俺が書こうと思っていないだけで、学習はしていた。
――誰だサテライツが最弱だなんて言った奴。どう考えても最強じゃねーか!
次に俺が転生者だという話。
この世界、転生者は少なからずいるそうだ。
だが大抵はヒト族や亜人族、魔族。稀にモンスターにも転生者が出るそうだが、そういうのは擬態魔法を使ってヒト社会に溶け込むらしい。
ではサテライツへの転生者はいるのか? という所だが、少なくともリーヤが知る限りでは、いないそうだ。
今後は日本人の転生者を探す事を目標に入れよう。
この世界の成り立ちに関しても情報を得た。
世界には幾つかの大陸があるが、ヒト族が住んでいるのは俺たちのいるこの『ノーム大陸』だけ。他の大陸は環境がすこぶる悪くてヒト族・亜人族・魔族はいない。
そしてノーム大陸にあるのが、5大国。
・東方帝国
・ムルト王国
・エルカリオ共和国
・アービシア合衆国
・チェブル連邦国
5大国は名前で呼ばれる事は少なく、大抵は帝国とか王国とかだけ。それだけで分かるからな。
他にも小国家はあるが、世界の実権はこの5つの国家が握っている。
ちなみに俺たちがいるのは、エルカリオ共和国の首都『エル・パロナ』だ。
この共和国だが、5大国の中で最も急進的なヒト族至上主義だそうな。
なんとまあ、ヒト族以外は亜人族も魔族も奴隷扱いで、モンスターは擬態してヒト社会に馴染んでいても駆除対象。サテライツも登録必須のペット扱い。
リーヤも中々に苦労しており、俺たちを迎えに来てくれた時のような単独行動は、ひとつ間違えば駆除されるらしい。
俺とシェーネで改めて頭を下げて感謝しちまったよ。
感謝といえば、サテライツが感謝で得るエネルギーについても。
シェーネは予想していたらしいが、魔法を使う時に消費する魔力ってのと同一だとの事。
そしてサテライツは小型ゆえに省エネで、魔力はあまり使わなくても生活出来る。
――おやおや俺の中のサテライツ最強説にまた確証が。
乗り移り能力についても聞いた。
イメージとしては、アメーバが物体の内部に入り込み神経組織を形成、それを使って自由に動かしている感じ。
だが丸ごとの乗り移りは生涯で何度もするようなものではなく、大抵が1度だけで、ずっと同じ依り代を使うとの事。リーヤもブリキロボットに乗り移って30年だという。
では何故頻繁な乗り移りをしないのか?
答えは、多大な体力と魔力を消費して、しかも強制的に1分ほど意識が途切れるから。実は命懸けなんだそうな。
俺は乗り移る前にシェーネに感謝され、魔力が基準値を上回ったので、乗り移りが可能になった。乗り移りの際に意識を失ったが、あれは不可避。
納得した。
もうひとつ。完全に乗り移らず、取り付いての操作について。
これは必要な部分にのみ神経組織を形成するために、体力も魔力も消費が少なく済む。
そのため意識が途切れる事も無く、リーヤの荷車くらいならば1秒足らず、一軒家丸ごとでも30秒ほどで取り付けるとの事。
当然命の心配もないので、メインの依り代を決めた後は、物に取り付いて仕事をこなすのがサテライツの生き方だ。
これで何故サテライツが天下を取れていないのか? っていう疑問にも答えが出た。
サテライツは、与えられた仕事をこなすのは得意だが、応用力に乏しい。
これだけ便利な能力が揃っていても、それを応用出来る能力がないんだ。
リーヤが俺の所に来たのだって、俺がうるさかっただけ。
バランスが取れてるっちゃー取れているが、正直に言えば宝の持ち腐れ。
だがな、俺は転生者だ。
応用力に乏しいっていうサテライツの欠点は、俺には当てはまらない。
――サテライツ最強説改め、サテライツへの転生最強説。
「色々とありがとう。あとはどこに行くかだなぁ……」
「私は、身を隠すのであれば連邦国だと思う。隣国でもあるので近いだろう」
「オレのおすすめは5大国でも一番温厚な帝国だよ。帝国にはサテライツの素体を作る職人がいるって話だからね」
帝国は大陸の東。ここ共和国は西側だから、遠いな。
しかし専用の体が手に入るならば、是非にでも行きたい。
「んじゃ俺はその帝国を目指そう」
「長くなるだろうけど、頑張れ」
「とっくに覚悟は出来ているよ」
今更、か。
シェーネの奴は笑ってやがる。
こうして俺の、サテライツ1日目は終了した。